レコードプレーヤー周りのいろんな接点の話

文字数 3,268文字

「ケーブルは安いものでいいという話」でも書きましたが、ステレオには莫大な数のケーブルとケーブルをつなぐ接点があります。それは半田付けとは異なり、金属同士が単に接触しているだけです。そして湿度が上がったりすると、その接点に容易に酸化物が付着し、電気抵抗が発生します。
 安物のケーブルといっても一応銅線ですから、ケーブル自体の電気抵抗は、長さ1mあたり0.01Ωとかいうオーダーの極めて小さいものです。ところが接点に酸化物が付着するとその100倍、1000倍の電気抵抗が発生し、挙句には全く電気を通さなくなってしまいます。

 オートバイは12V電源ですが、数年するとホーンが鳴らなくなることがあります。そういうときはホーンに接続されているリード線のコネクターを抜き、接点にCRC556を吹きかけ、それから数回、コネクターを抜き差しすると見事に直ります。(また数年で鳴らなくなりますが)
 それで、とりわけMCカートリッジは発電電圧がオートバイの電源の、実に24000分の1の0.5mv程度と極めて低く、だから送電の効率が悪いのです。つまり容易に接触不良を起こします。
 ところで発電所からの送電は数万ボルトとかの超高電圧で行われます。つまり高電圧の方が送電の効率が良いのです。これは中学の理科で習ったことですが。
 とにかくそういうわけで、とりわけMCカートリッジの場合、極端に電圧が低いので、送電には気を使います。そしてMCでもMMでもそうですが、カートリッジの周辺には12個もの接点があります。

 それから、レコードプレーヤーのアウトプットから昇圧トランスまでは、フォノケーブルでつなぐわけですから、ケーブルの両端に、さらに2か所の接点があります。
 つまり0.5mvという極めて低い電圧で、カートリッジから昇圧トランスまででも、一つのチャンネルあたり、プラスマイナス往復で10か所もの接点を通過しなければいけません。だからそのうちの1か所でも接触不良を起こせば、早速音が出なくなります。もちろんスピーカーまでは、まだまだ長い道のりですし。

 ところで、カートリッジとヘッドシェルをつなぐ、わずか数センチのリード線にも大金を投じ、わざわざ「高級品」に取り換える人がいますが、ここのリード線も安物で上等です。だいたいトーンアームの中には、メーカーが安物のリード線を何十センチも使っています。ONKYOのCP1050の裏側をはぐって見たら安そうなリード線が見えましたから。でも安くて細いリード線でいいのですよ。太い立派なのだと、トーンアームの動きを阻害する可能性も出てくるし。
 だけどそんなことより、接点のメンテナンスの方が100倍くらい大切です。

 それで、カートリッジ回りやフォノケーブルの接点に酸化物が付着し、大きな電気抵抗が発生すると、電圧降下が生じ、微妙に音が小さくなります。それは左右のチャンネルで同じように起るのではなく、例えば左チャンネルの接点に、より多くの電気抵抗が生じたりします。すると左チャンネルの音が相対的に小さくなります。そしてこれがさらに進むと、ある日突然、左チャンネルの音が出なくなってしまいます。

 あるときオーケストラで、第一バイオリンがいつもよりやや右寄りの位置で演奏しているなと思いました。それで多分接点が劣化したなと思い、とりあえずカートリッジ周辺の接点のメンテナンスをやると、第一バイオリンは元の位置にもどってくれました。それと同時に、音がすっきりしました。特に高音域が爽やかになりました。(なった気がしたんだけど…)

 そういうわけで、とにかく接点のメンテナンスは重要です。ところで、フォノケーブルの接点で同様のことが起こったとしても、やはり同様の現象が起こります。そしてこんなとき、高価なケーブルがお好きな方が数万円のフォノケーブルに交換すると、やはり音が良くなるでしょうね。だって接点が新しくなる訳だし、一度抜いて差してという動作で接点の酸化物が取れるでしょうし。
 だからわざわざそんなのに換えなくても、まずはレコードプレーヤー付属の安いフォノケーブルの接点のメンテナンスをやりましょう。
 ええと、フォノケーブルの接点(端子)のメンテナンスは簡単です。ケーブルを外し、端子にあっさりとCRC556なんかを吹きかけ、それから端子を差し込み、抜いてを数回繰り返し、それからきこきことひねったりすればOKです。
 いずれにしてもMCカートリッジの0.5mvとかの電気を送電する配線の接点は、湿度にもよりますが数ヶ月に一度くらいはメンテナンスが必要だと思います。

 で、問題は上の図のリード線両端の接点8か所のメンテナンスですが、上にも書いたように、私は長年CRC556を愛用しています。
 だけどCRC556はスプレーなので、吹きかけると飛び散ってしまいます。だからヘッドシェルをトーンアームから外し、カートリッジに針カバーをし、接点以外の場所にはスプレーがかからないようにしっかりとテープなんかで養生した上で、付属の赤いチューブを使い、接点めがけピンポイントでほんのちょっとだけスプレーします。スプレーしただけでもCRC556は強烈に浸透していきます。
 あるいは接点を一度抜いて、ティッシュなんかで養生した上で、リード線側の端子の内部にCRC556をごく少量吹きかけ、そして再び差し込んでやれば完璧です。この方法だとCRC556が接点以外の場所にはほとんど付かないので、その点でも都合がいいです。あるいはいっそ、リード線を新品交換って手もありますね。しつこいですが、安いのでいいから。

 それと、トーンアームとの接触部分はCRC556を軽く吹いてからティッシュなんかで拭くといいです。それからトーンアーム側の接点も。これは奥まったところにありますから、ジョンソン綿棒にCRC556を軽く吹きかけて耳掃除の要領でやるのもいいでしょう。あとはフォノケーブルの両側の接続端子にも…、これは上に書きましたね。
 とにかく接点が劣化していた場合、これらの作業でずいぶん音が良くなります。
 ちなみに高価なフォノケーブルに換えたときも、結局新品になるので、結果的に接点のメンテになっているわけで、だから音が良くなるのですよ。

 ところで、ヘッドシェルにカートリッジを取り付けるのもままならないほど不器用な最近の若い人には、上に書いた、カートリッジとヘッドシェルをつなぐリード線の接点のメンテナンス作業はお勧めできません。カンチレバーを折ったりするのがオチです。
 ネットでも、日常の使用でさえ「カンチレバーを折ってしまった」なんてこっ恥ずかしいことを、さも当たり前のように書いてる人結構いますし。昔なら考えられないんだけどな。
 もしかして幼いころからゲームばっかりやって、「微妙な指の動き」という学習が出来てないのかな? 私がガキのころはゲームなんかなくて、それで小刀なんかでいろんなもの削ったりして、弓矢とかの飛び道具とか、はては天体望遠鏡とか、挙句にはマイクロメーターとか、いろんなものを作ったりしたんだけどな。

 まあそれはさておいて、とにかく極端に手が不器用な方、針掃除でもカンチレバーを折ったりする人。そんな人はCDやハイレゾにしましょう。
 でも、どうしても昔買ったレコードを聴きたいからとかいう方は、DENONのDP300Fという、安いけれどまあまあちゃんとしたフルオートープレーヤがあり、付属のMMカートリッジも、ほんわか柔らかい「いい音」で、メンテもそこそこアバウトでいいから、音にこだわらずにそういうので楽しむのはありでしょうね。きっと「ああ、懐かしい!」って、楽しめますよ。

 それから、CRC556の使用は、細かい作業の自信のある方が、自己責任でお願いしますね。不用意にいらぬところにスプレーがかかってカートリッジを壊したとしても、責任は負いかねますし。だけど何でこんな断わり書かなきゃいけないのかな? みんな器用になぁ~れ!

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