何Hzまで出るかとかはどうでもいい

文字数 3,922文字

 レコードはCD(コンパクトディスク)と違い、20000Hzより上の音域が再生出来るから音がいいんだ、という話があります。これは半分本当で半分嘘です。というか、かなり嘘です。出りゃいいってもんじゃないし、だいたい20000Hz以上なんて音は聴こえないし。
 20000Hz以上は体で「感じる」とか、リラックス効果があるとか、そんなオカルト的な話はどうでもいい。森林では20000Hz以上の音が「鳴っている」からリラックス効果があるとか何とか。
 それじゃ訊きますけど20000Hz以上の音を、具体的にどういう感覚器官が「感じる」というの? 
 そもそも人間の感覚って…
 見る=視細胞(桿状細胞と円錐細胞)、聴く=内耳の有毛細胞、皮膚感覚=触覚、痛覚、冷覚、温覚で、メイケル盤とか、マイスナー小体とか、パチニ小体とか、ルフィーニ小体とか、クラウゼ小体とか、自由神経末端とか…
 で、20000Hz以上の音を「感じる」皮膚感覚に携わる神経って何小体なん?
 それに60年代70年代とかのマイクロフォンは、最高で13000Hz程度までの音しか拾えなかったはずです。私が「最高の音」とお気に入りの1958年録音のベルリンフィルの演奏も、そんなマイクロフォンで録ったはずです。
 しかも、とある有名なレコードカッティング・プレスの会社の方も、レコード制作時に良好な音が記録出来るのは13000Hz程度までだと言っておられるようです。だからいずれにしても記録されていない以上、本来なら13000Hz以上の音が再生出来ようはずもありません。
 ビクターが開発した4チャンネルのCD-4は特殊なシバタ針を使い、確かに20000Hz以上、っていうか30000Hzあたりの音が記録されているらしいけど、それは例外中の例外。
 そういう訳で確かに30000Hzとかの「音」は記録可能みたいだけど、上記のCD-4とかでもなければ、通常のレコード再生時であれば、13000Hzよりも周波数の高い「音」は…、それは、レコード針が音溝をなぞる、あるいはカンチレバーが共振する等々の要因で機械的に発生した、本質的にはノイズのようなものではないですか?
 しかし、これは前の話に書いたように、いいシステムなら、それが「楽器の倍音もどき」になるかも知れないし、あるいはならないかも知れません。まあ、ここが重要なんですけど。

 その一方で、CD(コンパクトディスク)は20000Hzまで再生出来るので、これで十分だという意見があります。だけど「音」が出ればいいってもんじゃありません。
 前にも書いたように、本来音楽信号はアナログで、それはグラフに表すと曲線になるわけですが、デジタル化によって「棒グラフ」のような情報に置き換えるわけです。
 ところがCD(コンパクトディスク)のスペックでは、一秒を44100等分して記録するので、20000Hzの音楽信号だと、曲線と棒グラフの関係はこうなります。

 これではあまりにも大雑把な棒グラフです。以前に10000Hzを例にとり、同じようなことを書きましたが、当然20000Hzの場合はさらに悲惨です。音の波長1周期で棒が2本とちょっと。ここまで大雑把な情報だと、もはや元のアナログ信号の再現は絶望的だと言えます。
 私が言いたいのは、「20000Hzまで再生出来るから十分だ」もなにも、20000Hzのノイズは出ても、もはやそれは音楽信号とはかけ離れたもの代物だということです。現実とかけ離れた「雑音」しか出ないのなら、十分だとは言えないでしょう。
 このアナログ信号とデジタルの棒グラフの関係をみると、その4分の1の5000Hzくらいがせいぜいじゃないですか。そしてレコード再生だと、しかもいいシステムでの再生だと、「倍音もどき」が期待できても、デジタルの場合、それは困難だと思います。現実にレコード針とかカンチレバーが物理的に動いているのと、コンピューターのプログラム内では、状況が全く違うはずです。
 いろんなアルゴリズムで元の波形を予測したとしても、アナログの再生装置のメカニカルな過程による倍音の発生とは本質的に違います。
 カートリッジは楽器だという話で述べたように、アナログならメカニカルな過程で音が共鳴し、倍音を「捏造」し、しかも運が良ければその偽物の倍音で「それらしく聴かせる」ことはあっても、デジタルの場合はそういうことは(多分)無理なのです。
 それゆえにCD(コンパクトディスク)の44.1kHzを上回るスペックの、SACDとかハイレゾが出てきたわけです。だから「CDは20kHzまで出るから十分」は違うと思います。
 実は私は、CDは極論するとエレクトーンとか、最近の音楽の「打ち込み」のような音に聞こえてしまいます。ポップスならまだいいけれど、ジャズやクラシックだと、なかなか演奏の「現場」にいる感じは出ません。本質的に電子音に聞こえてしまうのです。実際電子音なんだから。
 もちろんミニコンポなんかで聴く分には、何ら不足はないでしょうけれど。ミニコンポのクオリティーだと「現場」もへったくれもないでしょうし。しかし、そもそもそういうシステムに20kHzもへったくれもないでしょう。
 それでもCDで、ある程度は「現場」に近づいたのは、前にも書いたDENONのadvanced Al32 processing plusだと思います。私のDENONのDCD800NEで、グスターボ ドゥダメルの振ったベートーベン(輸入版)を聴くと、CDでも結構なレベルの音です。
 DENONのこのシステムは「疑似ハイレゾ」だと思います。ドゥダメルの振った演奏自体もとても楽しめるし。それとこのCDはクラシックの老舗、ドイツのグラモフォンが作った、つまりグラモフォンがマスタリングしているわけで、それも「いい音」の要因だと思います。

 話がそれたついでにマスタリングの話をします。マスタリングとは、録音された音楽の音声から、CDやレコードなどの「原音」を製作することです。それで、例えば中高生がメインターゲットのJ-POPなんか場合、スマホでイヤホンとか、せいぜいミニコンポで聴くくらいでしょうから、きっとそのような使用を前提にマスタリングしてあります。
 つまりリミッターを掛けまくり、一方、録音レベルを目一杯上げ、そして思い切り音のエッジを立てているはずです。つまりそういう再生装置で、ひたすら派手で大きな音がするようにマスタリングしてあるはずです。そうしないと売れないから。
 こんなものをちゃんとしたオーディオ装置で聴けば、それはもう聴くに堪えないでしょう。
 ともあれ、きちんと正統的にマスタリングされたCDをDCD800NEで聴く分には、CDはそれほど悪くはありません。まあ、20000Hzが出ているかどうかはどうでもいい話です。

 それから最後にレコードの話に戻りますが、レコード再生時、カートリッジその他が楽器の倍音を捏造し、それで現場にいるかのごとき音になる、という話ですが、ただしそうは言っても、カートリッジには「得意不得意」があります。演奏する楽器に近い倍音を「捏造」出来るか否かです。
 それには音楽ジャンルとの相性もあります。はまったら素晴らしい音です。はまらなかったらぱっとしない音です。

 元々私のシステムは、グレンミラーコンサートや、鈴木直樹さんらのスイングエースの生演奏のサウンドの再現を目指していました。だからクラシックでもホルンやトランペットなどの管楽器はイカしたサウンドを出します。ところがクラシックを聴くようになって、バイオリンの音には苦労しました。
 それについてはアッテネーターとトーンコントロールの話で書きましたが、現在はアンプ、スピーカーは弦楽器と管楽器が「共存」できるセッティングで落ち着いています。ちなみにスピーカーについては3オクターブの法則などで、以前に詳しく述べました。
 そしてカートリッジは、古いAT33PTGIIと(2016年購入)と、新しいAT33PTGII(2019年購入)と、AT-F7の3個を、レコードにより使い分けています。ちなみに、同じAT33PTGIIでも1個1個音は違いますよ。
 つまりスピーカーは極力歪みや倍音を出さない、純粋な音を目指し、カートリッジで必要に応じて楽器の倍音を混ぜてもらうという考えですね。これで結構リアルな音が楽しめます。
 ちなみにCDC800NEでのCDは、まとまったオーソドックスな音です。そこまで「現場にいる」感じはしないけれど。だけど私に言わせれば、CD特有の不快な高調波歪みが上手いこと消えているようです。だから地味だけどそこそこいい音、かな。
 それはそうと、ともかくそういうわけで、マニアックなアナログレコードマニアとか、はてはレコード喫茶とかでは、20個からのカートリッジをそろえたりしているようです。そしてそれをレコードによってマニアックに使い分けているのです。つまりレコードとカートリッジとの相性を考えながら演奏しているのですね。
 私はそこまでマニアックではないので、それで、さて、何を聴こうかなってときに、ああ今、トーンアームにこのカートリッジが付いているから、このレコード聴くかってな感じですね。で、カートリッジはローテーションしています。

 最後に、私が構築したくらいの音だったら、音楽が生活の重要な一部分となり、人生が豊かになること請け合いです。
 何故なら、いつでも好きな時に、時空を超え、リアルな演奏の現場に行けちゃうから。
 皆さんのご参考になれば幸いです。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み