レコードプレーヤーの「水平」ってそんなに大事なの?

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 そりゃ見るからに傾いているのは論外ですが、家を建てるみたいに、わざわざ水準器まで使って厳密に水平を出す必要があるのかって話です。アナログレコードファンの中には、専用の水準器を使い、レコードプレーヤの「水平」に、とても拘る人がいます。アルミの削り出しで作った数万円もするような専用の水準器もあるようです。まあ、製品を作るメーカーがあり、買う人がいる訳で…
 確かに水平でないとトーンアームは内側、あるいは外側に引っぱられることになります。で、例えばレコードプレーヤーが、片方が1cm高かったとします。それだけ傾いていると、目で見て傾いていると分かるのではないですか? だけどその程度なら、傾きによってトーンアームに生じる、外側、あるいは内側に引かれる力は…
 レコードプレーヤーは幅が42cmほどありますから、片方が1cm高ければ三角関数のtanで考えれば、1÷42≒0.02です。
 つまりこの傾きだと、針圧の2%ほどの力がトーンアームを横方向に動かそうとします。
 それと、トーンアームの長軸方向に傾きの成分があれば、針圧が不正確になるでしょうね。だけど、傾いたなりにゼロバランスを取るわけですから、多分、大した影響はないと思います。
 ちなみに私の使っているレコードプレーヤーの、ONKYO CP1050の紹介のHPで、担当者が言っておられましたが、EPレコードをかけるためのアダプター(小さな車輪のような円盤)が転がらなければいいでしょうと。だから前後左右で転がらないことを確認し、それで良しとしています。
 だけどそれより重要なのはアンチスケーティングの設定です。これはインサイドフォースキャンセラーともいいます。
 カートリッジはトーンアームに対して、レコードの中心方向傾いて取り付けてあります。はたまたトーンアームがS字あるいはJ字に曲がっていて、同様の状態にしてあります。これは「トラッキングエラー」を回避するためですが、詳しい話はとりあえず置いておきます。
 ともあれ内向きに斜めに取り付けてあるが故に、レコード針は図のように内側に引きずり込まれようとします。

 レコードが針を引っ張る力と、トーンアームが針を引っ張る力の方向がずれているため、2つのベクトルの合力としてこんな力が生じているのです。
 この力が「インサイドフォース」で、これは結構強い力です。図で見る限り、レコードが針を引っ張る力の半分くらいの力はありそうです。それで、レコードと針との間の動摩擦係数が、アバウトに0.2とすると、針圧の20%が、レコードが針を引っ張る力で、そのまた半分とすると、インサイドフォースは針圧の10%にも及ぶということです。だからこの力は、レコードプレーヤーが少々傾いていることよりも(上で計算した2%)、よほど大きな影響があります。
 実際、針をレコードの外周に置いたとき、針がつつっと内側に滑ることがあります。インサイドフォースで引きずり込まれているからです。だからこれを打ち消すため、トーンアームを外側に引っ張る機構が必要で、これがアンチスケーティング、あるいはインサイドフォースキャンセラーです。
 その調整はトーンアームの軸受け付近のツマミで出来ますが、要するにバネの力を利用し、その強弱を調整するのです。
 それで、適切な調整をやると、レコードの外周に針を置いたとき、針は全く引き込まれないか、あるいは極めてゆっくりと引きこまれ、ややあって静かに音溝に「コトン」とはまります。そして仮にレコードプレーヤーが少々傾いていたとしても、「その影響込み」で調節すればいいのです。
 ところでアンチスケーティングの目盛りは針圧と合わせるようになっていますが、あまり当てになりません。私はレコードの外周に針を置いたときの「引きこまれ具合」で加減しています。だって、同じ針圧でもカートリッジによってインサイドフォースはかなり違うからです。それは針先の形状や、摩耗具合も関係するからです。
 繰り返しますが、とにかくレコードの外周に針を置いたとき、内側にも外側にも滑らないか、滑ったとしてもゆっくりと内側に滑るくらいに調節するのです。
 だから血眼になって高価な水準器を用いてのレコードプレーヤーの「水平調整」は程ほどにして、アンチスケーティングの調整をしっかりやりましょう。
 ともあれ、プレーヤーの水平調節は、EPレコードアダプターが転がらなければ十分と考えます。
 私の場合は、見るからにフラットな場所に、プレーヤーをポンと置けば、たいていアダプターは転がらないし。

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