CD(コンパクトディスク)の話、その他

文字数 2,868文字

 昔々、CDが世に出たとき、「これは原音に限りなく近い素晴らしい音だ!」と、私たち素人は感激していたのですが、耳の肥えた、レベルの高いオーディオマニアの人たちの間では、「CDの音は悪い」とダメ出しされていたようです。
 それには理由があります。それはソニーとフィリップスが開発したCD(コンパクトディスク)のスペックです。どうやらその当時、「カセットテープに負けない音」を目指していたというふしがあり、また、カーステレオで聴くという前提もあったようです。
 だからケースごとブレザーのポケットに入るように、直径12cmと比較的小さく作り、その一方演奏時間は比較的長く、70分くらいあります。「カセットテープの代わり」としては頷けるスペックです。ちなみに、当時ソニーとも仲の良かったカラヤンから、ベートーベンの第九が全曲入るという「要望」もあったとかなかったとか。

 そういう諸条件から、44.1kHz 16bitというスペックに決められたようです。
 それで問題はその44.1kHzです。
 これはアナログ信号という曲線を、一秒あたり441000分割にして棒グラフで表すようなものです。これは細かいと思われるかも知れませんが、はっきり言って大雑把です。
 それで前の話、DL103の丸針の例にならって、10000Hzのアナログ信号(曲線)を44.1kHzのデジタル信号(棒グラフ)に変換してみます。

 つまりデジタルデータとしては、この棒グラフだけになってしまうわけです。ずいぶんきめの粗い、ガタガタとした情報ですが、この情報がCDに記録されます。そしてCDプレーヤーでデジタルデータを読み取り、それからDAコンバータという機械を通し、オリジナルのアナログデータを予測します。安直に変換するなら、それは赤の折れ線グラフです。

 そして折れ線のカクカクした部分を、スムージング処理か何かで、機械的に滑らかにつなぐとこうなります。

 これだとオリジナルに近づいてきますが、まだかなりずれています。だけど多分、DL103の丸針で再生するのとそれほど変わらないと思います。だから当時、ソニーとしては「これで十分」となったのでしょうね。

 ところで16bitとは何かというと、棒グラフの高さが2の16乗(約65000)段階だということで、こちらはよほど小さな音でないと影響はありません。いやいや、オーケストラのピアニシモだと問題になるのですけれど。
 そして現在のハイレゾは192kHz 24bitですので、これだと音のスペックとしてはほぼ完璧でしょうね。いろんな処理もやれば、それはもうオリジナルそのものと言えるレベルでしょう。
 それからデジタルのスペックの高いSACDというのが出ましたけれど、それほど普及しませんでした。ソフトが少ないと再生装置が普及しないし、そうするとソフトが売れないのでソフトが少ないという悪循環に陥っている気がします。再生装置もとても高額だし、ソフトも高額だし少ないし、だから私は持っていません。

 ところで90年代以降、私たち音楽好きはせっせとCDを買いました。それで多くの人が多くのCDを持っています。だからCDで「いい音」、いや、そこまで行かなくても「そこそこいい音」で再生できるなら、これに越したことはないのです。
 だからデジタルデータの棒グラフをアナログ信号に変換する際、オリジナルの曲線を予測し、それにより近いアナログ信号にするという試みが各社で行われています。

 私はDENONのadvanced Al32 processing plusという機構を持つDCD800NEという、DENONでは安い方から2番目のCDプレーヤーを使用していますが、これくらいの音なら妥協できますね。
 私のレコード再生のメインのカートリッジはAT33PTGIIで、サブがAT-F7ですが、DCD800NEでグスターボ ドゥダメルの振ったベートーベンのエロイカを聴いたりすると、AT-F7とならまあいい勝負かな。だから妥協できるかな。
 だけど少し気に入らないこともあります。advanced Al32 processing plusで補完した音って、「すごくリアルなシュレック」みたいな感じもするのですよ。特に第一バイオリンが。
 シュレック;CGで作った映画。
 仮にあれが凄くリアルになったとして、「え? これ実写? それともCG?」みたいになったとして、「だけどやっぱりこれCGだよね」ってばれちゃうみたいな「音」かな。「作りもの」っぽいんですね。それは私の耳が偏屈なだけかも知れないけれど。でも沢山買い込んだCDが生きるのなら、それはとてもありがたいことです。

追記)やっぱりレコードではバイオリンの音が、「弓で弦をゴリゴリこすっている」感がすごいです。ところがCDだと「きれいな音のバイオリンですこと」ってな感じです。このへんは致し方ない。昔のポップスを聴くぶんにはほぼ完ぺきだし。

 だけど最後に、思い切りアナログの話に戻ります。
 結局、アナログの良さって何だろうって考えます。デジタルだと自由自在に音を「加工」出来ます。「いい音」に聴かせるために。
 だけど私はクラシックでもジャズでも、1960年代、70年代録音のレコードの音が好きなんですよ。一番のお気に入りは1958年録音のベートーベンの7番。これはカールベームが振って(だけどあの人の指揮棒、ほとんど動いていないんだけど・・・)、ベルリンフィルの飛びっきりの演奏で、ベルリンのイエスキリスト教会で1958年12月ごろに録音されています。これは輸入版です。
 多分寒い中で空気が張りつめて、教会の天井に音が響いて、そしてその音を当時の最高のマイクロフォンで、最高のツートラサンパチのオープンリールデッキで、そして最高の技術者が録音して、もちろんデジタル加工は一切なし。なんにもいじってないはずです。
 きっと演奏者も録音技術者も、「一発勝負」で気合が入っていたんじゃないでしょうか。昔のドイツ人ですから、気合が違いますよ。だからレコードから伝わって来るその「空気感」は圧倒的です。
 もしもデジタルで、今風の技術者が「いい音」にいじくったりしたら、その「空気感」は失われていたかも知れませんね。誰かがネットで「黒光りするサウンド」と書いていましたが、私のオーディオルームで出せる最高の音だと思っています。

 そういうことがあるからレコードはいいんですよね。だけどそんな「音」を出すためには、物凄いノウハウがいるんです。レコードの管理や、針先の管理やいろいろいろいろ。CDが電車を走らせるとしたら、レコード再生って、蒸気機関車を走らせるくらい大変なんです。
 で、この音聴かせたいけど無理なので、せめてレコードジャケットの写真を貼っておきます。ドイツ語で、「ルドウィック ファン ベートホッフェン ズィンフォニー ヌマー ズィーベン ベルリナール フィルハーモニカー カール ボェーム」と書いてありますね。


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