まずは「いい音」の話

文字数 4,164文字

 オーディオから発する「音」は、全て「物理法則」に則っています。そしてそれがどう「聞こえる」かは、人間の耳と脳(心)が深く関わっています。
 私は物理学を学び、医学を学び、音楽が好きで楽器を演奏し、歌も歌い(忌々しい中国製ウイルスの影響で、今はライブハウスでは歌っていませんが…)、そしてオーディオが好きだからこそ、そんな私のオーディオに関する知識をまとめてみたいと思ったのが、こんなものを書き始めた理由なのです。オーディオについては何十年も試行錯誤してきましたし。
 それで、「いい音」とは一体どういう理論で造り出されるのかを解き明かし、そしてオーディオで「いい音」を求める人にとって、最小限の出費で、最大限の「いい音」を手にする、いや、耳にする最短ルートを、私の能力の範囲でですが、ナビゲートしたいと思ったのです。つまりこれが本稿の目的です。

 私は摂著「おもしろSFショート」で、「交響曲」という作品を掲載いたしました。そのとっかかりとなったのは、私が数年かけ、JBLのスタジオモニターをベースに構築した、「リアルサウンドオーディオ」です。

 私が若かりし頃はまさにオーディオブームで、私の身の回りの人間もほぼ全て、何がしかの「ハイファイステレオ」を持っていました。でも「ハイファイスレレオ」などというものは、もはや死語かも知れないので、平たく言うと「いい音のするステレオ」ということです。
 それではオーディオで、「いい音」って一体何でしょうか?
 それは、CDなりネットで入手する音楽情報なり、はたまたアナログレコードなり、とにかくそういうものに記録された音楽情報を、「ありのままリアルに表現する」ということです。
 私が構築した「リアルサウンドオーディオ」では、例えばベートーベンの曲で、オーボエとクラリネットとフルートがささやき合うように代わる代わる音を出し、あるいは和音を作っている様子が手に取る(耳に取る)ように分かります。それどころか、オーケストラを編成する全ての楽器の音を認識できます。バイオリンもビオラもチェロもコントラバスも、管楽器も、そしてティンパニーも。オーケストラを聴けば、そこにある全ての種類の楽器の音が認識できます。
 つまり音楽情報を全て「音」として耳に届けてくれているのです。そしてこのような性能を「音の解像力」と言います。

 私は以前、カーステレオに結構凝った時期があります。「結構いい音だな」なんて悦に入っていました。それでベートーベンの7番をカーステレオで聴いていましたが、今に思えば、それで聞こえていたのは、高い音の弦楽器、低い音の弦楽器、ラッパの音、それから太鼓の音だけです。そして弦楽器と管楽器がアバウトに主旋律を奏でているのが聞こえるだけでした。
 だけど「リアルサウンドオーディオ」を構築してから、そのシステムで同じCDを聴いてみたら、「こんなに沢山の楽器の音が入っていたのか!」と唖然としたのを覚えています。大編成のオーケルトラ全て楽器の音が完全に識別できるからです。だからあまりの解像力の差に唖然としたのです。
 そして全ての楽器の音が識別できるが故に、ベートーベンがいかにこれらの楽器の音を、巧みに「紡いで」いるかということに気付いたのです。つまり異なる楽器同士の「掛けあい」や、異なる楽器による和音の面白さ。
 つまりベートーベンという天才が、いかに丹精込めてこの交響曲を書いたかということは、こういうレベルの解像力のオーディオでなければ、本当は理解できません。もちろん生演奏なら最高ですけどね。

 だったら解像力の高い音とはどういうものなのか。それが分かる一番確実な方法は、まずはちゃんとしたコンサートに行くことです。でもクラシックのコンサート入場料高いし!
 で、無料でいい音が聴けるのであれば、自衛隊の音楽隊でしょうね。それもクラブ活動としてのものではなく、「職業」としてやっている音楽隊です。
 最高峰は中央音楽隊で、国賓なんかの歓迎のときに演奏しますよね。それじゃなくても自衛隊には全国にたくさんの、職業としての音楽隊があり、定期的に入場無料の演奏会もやっています。ちなみに私が聴いたのは、九州の西部航空音楽隊の演奏でした。
 ちなみに今はコロナ騒ぎで、どうなっているか分かりませんが、「アフターコロナ」になった暁には、ぜひ聴きにいかれたらと思います。
 それで、何たって演奏者は音大の大学院卒とかで、しかも厳しいオーディションで選ばれた音楽の精鋭たちです。会場の音響もちゃんとしてるし、だから本当に素晴らしいサウンドを無料で聴かしてくれます。
 それと私は、グランミラーコンサートに行ったことがありますが、もちろんこれも会場では素晴らしいサウンドが聴けました。
 ビッグバンドジャズはサックス4人、クラリネット1人、トロンボーン4人、トランペット4人、ドラムス1人、ピアノ1人、そしてベース1人です。コンサートではもちろんこれら全ての人の演奏が識別できます。それと、あとはちゃんとしたクラシックのコンサートでしょうね。(私は行ったこのないけど…入場料高いし)

 それで、そもそも私が「リアルサウンドオーディオ」を作ろうと考えたのは、そういうコンサートの素晴らしいサウンドを、「いつでもご家庭で」聴きたいと考えたからです。
 そしてそれがこの話の出発点です。つまりコンサートで耳に焼き付けたサウンドが、自宅のオーディオで再現出来ないかということです。
 そりゃ湯水のように(何百万も何千万も)お金を掛ければ簡単に出来ちゃうかもしれませんが、そうではなく、現実的な予算でそういう音が聴けないかと。
 それで、現実的かどうかはさておいて、まずは最初に、私が用いている機器と、それらに掛けた予算をご紹介します。全て実売価格です。

 レコードプレーヤー ONKYO CP1050(いろいろ魔改造済み)30000円
 カートリッジ オーディオテクニカAT33PTGII 47000円(逸品館が安い)
 昇圧トランス  DENON DL103用 中古 9000円
 CDプレーヤー DENON DCD800NE 40000円くらい
 プリメインアンプ DENON PMA1500RE 70000円くらい
 スピーカー JBLスタジオモニター4306 120000円(2本)
 スピーカーの魔改造費 120000円(材料費のみ)
 約44万円! 随分掛けたものだ。唖然!

 だけど、これは私の試行錯誤の結果であり、今に思えば、もっと安く仕上がったでしょうけどね。
 それでまず、とりあえずはアナログサウンドをパスしましょうか。本当は私はアナログ、好きなんだけどな。アナログの音、最高だから。
 だけどともあれ、上記のアナログシステムでも86000円も掛かっていますし。だからアナログに関心のある方は、また後程、じっくりとおやりになればいい。
 だけどちなみに、気合の入ったオーディオマニアはアナログの部分で100万200万は簡単に掛けています。だけど私の86000円のアナログレコードシステムは、かなりのレベルをいってるんですけどね。いい音を出すためのツボをおさえた魔改造をやっていますので。
 だけどこのことはまた別の稿でお話ししたいと思います。それとアナログレコード再生には、それこそ山のようなノウハウも必要ですし。

 だから、とりあえずはデジタルオンリーでいきましょうか。
 それで、CDプレーヤーのDCD800NEが安くて出来がいいです。USBポートからハイレゾの音楽ソースを入れることも出来るし。
 ところで、ちょっとここで、DCD800NEがなぜいいのかご説明します。ハイレゾ音源をダウンロードすればいいのでしょうけれど、昔から買いためたCDもあるでしょうし、そのCDでいい音が出せたら、思い入れのあるコレクションが生きるわけですから、CDでいい音が出せるに越したことはありません。
 ところが、詳細は省きますが、元々CD(コンパクトディスク)は、規格として音の情報は非常に少ないのです。44.1KHz、16ビット。ちなみに現在のハイレゾは192KHz、24ビットです。これは決定的な差です。
 なんたってCD(コンパクトディスク)は、1980年代にソニーとフィリップスが作った規格です。当時としては頑張ったのでしょうけれど。
 ともあれ、CDは容易にアナログレコードに負けてしまうのです。ちゃんとしたアナログ再生に、ですよ。いい加減なアナログ再生ならCDの方がましでしょう。
 それはともかく、DENONのDCD800NEに搭載されているadvanced Al32 processing plusは、CD制作時のデジタル化で失われた音楽情報を、「実際はこうだったはずだ!」と予測するというアルゴイリズムで上手に修正してくれます。
 実はこれがなかなか出来が良く、これならCDでも、上記の「素晴らしいサウンドをご家庭で」という目標をある程度実現できます。
 そういうわけで、従来型のCDプレーヤーでクラシックやジャズをCDで聴くと、私の持っている再生システムでは、「アナログレコードには遠く及ばない」感じでしたが、DCD800NEだと、「まあまあかな」くらいにはなります。そしてポップスだったら概ねOK。
 それと、プリメインアンプ(アンプ)はもっと下のクラスでもいいかもしれません。よく「アンプは高出力の高級品じゃなきゃだめだ」という人もいますが、私は必ずしもそうは思いません。今の最低レベルの、つまり実売3万くらいのアンプは、40年前だったらかなりのクオリティーでしょうね。出力は40wとかあるし。そのくらいあれば、家庭用なら十分でしょう。ともあれ、こういう電子機器はパソコンと一緒で技術革新が凄いのです。
 ところがスピーカーは、40年前と同じアナログ式で、本質的にそれほど変わっていない。それどころか、物価が上がった分だけ「箱代」が高くなっています。家具の値段と同じ理屈です。
 そういう訳で、そういう不釣り合いが起こっているので、アンプにお金を掛けるよりはスピーカーにお金をかけたいわけです。
 そういうわけで、次回からスピーカーの話をします。
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