第1章 第4話

文字数 987文字

 クイーンはちょっと照れた顔で先生にゆっくりと近づいていく。

「変わんねえな 金八っつあん。元気そうじゃん…って、な、何だよ、泣くなよ…」
「お前… あのお前が… こ、こんなに… 立派にー ハウっ」

 先生が大粒の涙を溢しながらクイーンの両肩に手をかける。

「ったりめーだろ。やるときゃ、やるんだよ、アタシは… よう」
「いーや。お前は頑張った。誰より一番頑張った」
「んなこと… ねえよ」

 クイーンの目にみるみるうちに涙が盛り上がる。

「子供産んで立派に育てた。先生ちゃーんと知ってた。一人で、良く、頑張った」
「……」

 俯いて、鼻を啜る。肩が震えている。こんな彼女を見るのは初めてだ。

「ああ。お前は凄い。ホンモノのクイーンだ。誰が何と言おうと、お前はこの町の女王だっ」

 クイーンが先生に抱きつく。何かを言っているが嗚咽で言葉にならない。彼女が一番欲しかったもの。これまでの頑張りを誰かに褒めてもらうこと。そして…

「おいっ 軍司」
「は、はいっ」

 先生はクイーンは片手で抱きながら俺に向き直る。言い訳、言い逃れを決して許さない強い瞳が俺を捉える。

「お前も、良く頑張ったな」

 穏やかな優しい目。かつてのような熱く燃えたぎった瞳ではなく、傷ついた者をどこまでも暖かく包んでくれる、穏やかで柔らかい瞳。

「いや、先生… 俺はー」
 違うよ、違うんだ先生。俺は、俺は自分のことばかりを…
「知ってる。聞いてる。お前の事も」
「だから、俺はー」

 先生は優しい笑顔で首を振りながら、
「いーんだよ。今こうして生きて元気で、先生の前に居てくれる。そんだけでいいんだ」
 全身の力がスッと抜ける。同時に心に温かいものが込み上げてくる。

「せ、先生……」

「お前みたいにプライド高い奴があんな事になって。先生はお前が死んじまわねえか、それだけが心配だったんだ、娘とババア残してな。でもお前は耐えた。過去を悔やみながらそれでも生きた。人はよお、天辺からドン底に落ちた時にこそ本当の強さが問われんだよ。お前は昔から強かった。だから先生は信じてた。お前の強さを。そんで必ず這い上がってくるって」

 脳天を殴られた気がして、思わず床にヘタリ込む。

 床にボタボタ、大粒の涙が零れ落ちる。

 俺の両肩に熱い力を感じる。

「お前は今でも最高だよ。キング」

 しゃくり上げる息が切なく苦しい。先生が耳元でそっと囁く

「お前は、俺の、最高の教え子だ!」
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