第1章 第2話
文字数 1,369文字
「そー言えば、金八っつあんと、こないだ会ったわ」
唐突に川村が言い放つ。彼は自称輸入代行業者といっているが、陰で相当悪いことをしているようだ。
「マジか…」
青山が懐かしそうな、でもネズミの死体を踏ん付けたような表情で呟く。コイツもなんだか怪しい奴で、自称地元密着の不動産業なのだが、話を聞いていると地元裏社会密着、らしい。
「うわ… 懐い」
「川村、それ本当か?」
川村はジョッキを舐めながら、
「おう。こないだ親父連れて病院行ったらよ、待合室でバッタリ。老けてたわー」
俺たちの中学の社会科の教師だった、金子八朗先生。当時流行っていたドラマ通りの渾名をつけられた先生はあのドラマ通り、いやそれ以上の熱血教師だった。
「大学出てウチが最初の赴任先だったんだよな、確か」
「んで、あの就任式なー 体育館のー」
「みんなで名前からかってなー そしたら目の前のテーブル……」
「叩き割るかフツー 空手三段だっけか?」
健太はジョッキのビールを一気に飲み込んで、
「俺ら二年の時の卒リン(卒業リンチ)覚えてっか? 三年が十人で金八っつあんに殴りかかってよお、」
「三分で全滅… しかし病院送りゼロ…」
あの事件の揉み消しに、俺ら生徒会がどれ程苦労しただろう。余りの懐かしさに吹き出してしまう。
「でも、あの人達よお、卒業してからもよく学校遊び来てたよなあ」
「よく泣きながら金八っつあんと話してたわー」
正直、俺は先生が暴力を振るっている姿を殆ど見た事がない。それより、あのドラマよりも遥に熱血でお人好しですぐ泣く、とても面倒見の良い姿を未だに鮮明に覚えている。
忍におかわりのビールを頼みながら、呟く。
「俺も高三くらいまでは毎年正月、先生の家に挨拶行ってたんだよなあ」
「だよな、キング来てたよな、来てたよな」
「あー、俺もガキできるまではよく遊び行ってたわー」
そんな先生を思い浮かべながら現実に引き戻される。
「で、病院で会ったって… 先生体調悪いのか?」
川村は俯き、顔を歪ませ、低い声で
「ああ。周りに迷惑かけたくねえって、ずっと我慢してきたんだってよ… もうよ、ゲッソリ痩せちまってさ」
川村は目に涙を浮かべながら鼻を啜る。俺は口の中がカラカラに渇き、ジョッキを口にする。
「なんか、いぼ痔だか切れ痔だかの手術して、奇跡的に助かったってよ」
俺はおかわりのビールを口に含んだ所であった。それを盛大に噴き出しながら、
「…死に至る病気では無いな。そうか、お元気なんだ」
「汚ねえなー ったく… ああ、元気、元気。『川村―、親孝行かー、偉いぞー』なんて病院中に響き渡る大声でよお ったくこっちは五十過ぎだっつーの」
「はは、先生にとっては俺らが最初の生徒だったからな。きっといつまで経っても生徒なんじゃないか?」
「そっかあ。会いてえなあ 金八っつあん…」
いつの間にかクイーンがiQOSをふかしながら俺たちに加わっている。
「おう! 今度誰か連れてこい! タダ飯食わしてやるっ」
「おっ流石クイーン 太っ腹!」
「いや腹出てねえよ、ほれ」
エプロンとTシャツを胸までさっと上げると、六分割された腹が現れる。元不良三人の反応は皆同じ。空腹で松吉屋で牛丼食べたら、間違って松坂牛だった時の顔。見てみたかったが実際見たら別の意味で凄くてちょっと引く、そんな空気に俺は一人軽い嫉妬を感じる。
唐突に川村が言い放つ。彼は自称輸入代行業者といっているが、陰で相当悪いことをしているようだ。
「マジか…」
青山が懐かしそうな、でもネズミの死体を踏ん付けたような表情で呟く。コイツもなんだか怪しい奴で、自称地元密着の不動産業なのだが、話を聞いていると地元裏社会密着、らしい。
「うわ… 懐い」
「川村、それ本当か?」
川村はジョッキを舐めながら、
「おう。こないだ親父連れて病院行ったらよ、待合室でバッタリ。老けてたわー」
俺たちの中学の社会科の教師だった、金子八朗先生。当時流行っていたドラマ通りの渾名をつけられた先生はあのドラマ通り、いやそれ以上の熱血教師だった。
「大学出てウチが最初の赴任先だったんだよな、確か」
「んで、あの就任式なー 体育館のー」
「みんなで名前からかってなー そしたら目の前のテーブル……」
「叩き割るかフツー 空手三段だっけか?」
健太はジョッキのビールを一気に飲み込んで、
「俺ら二年の時の卒リン(卒業リンチ)覚えてっか? 三年が十人で金八っつあんに殴りかかってよお、」
「三分で全滅… しかし病院送りゼロ…」
あの事件の揉み消しに、俺ら生徒会がどれ程苦労しただろう。余りの懐かしさに吹き出してしまう。
「でも、あの人達よお、卒業してからもよく学校遊び来てたよなあ」
「よく泣きながら金八っつあんと話してたわー」
正直、俺は先生が暴力を振るっている姿を殆ど見た事がない。それより、あのドラマよりも遥に熱血でお人好しですぐ泣く、とても面倒見の良い姿を未だに鮮明に覚えている。
忍におかわりのビールを頼みながら、呟く。
「俺も高三くらいまでは毎年正月、先生の家に挨拶行ってたんだよなあ」
「だよな、キング来てたよな、来てたよな」
「あー、俺もガキできるまではよく遊び行ってたわー」
そんな先生を思い浮かべながら現実に引き戻される。
「で、病院で会ったって… 先生体調悪いのか?」
川村は俯き、顔を歪ませ、低い声で
「ああ。周りに迷惑かけたくねえって、ずっと我慢してきたんだってよ… もうよ、ゲッソリ痩せちまってさ」
川村は目に涙を浮かべながら鼻を啜る。俺は口の中がカラカラに渇き、ジョッキを口にする。
「なんか、いぼ痔だか切れ痔だかの手術して、奇跡的に助かったってよ」
俺はおかわりのビールを口に含んだ所であった。それを盛大に噴き出しながら、
「…死に至る病気では無いな。そうか、お元気なんだ」
「汚ねえなー ったく… ああ、元気、元気。『川村―、親孝行かー、偉いぞー』なんて病院中に響き渡る大声でよお ったくこっちは五十過ぎだっつーの」
「はは、先生にとっては俺らが最初の生徒だったからな。きっといつまで経っても生徒なんじゃないか?」
「そっかあ。会いてえなあ 金八っつあん…」
いつの間にかクイーンがiQOSをふかしながら俺たちに加わっている。
「おう! 今度誰か連れてこい! タダ飯食わしてやるっ」
「おっ流石クイーン 太っ腹!」
「いや腹出てねえよ、ほれ」
エプロンとTシャツを胸までさっと上げると、六分割された腹が現れる。元不良三人の反応は皆同じ。空腹で松吉屋で牛丼食べたら、間違って松坂牛だった時の顔。見てみたかったが実際見たら別の意味で凄くてちょっと引く、そんな空気に俺は一人軽い嫉妬を感じる。