第4章 第1話
文字数 1,707文字
「起きろー軍司ーー 朝飯だってよー」
目を開けると、朝からうざったい健太の顔が俺を覗き込んでいる。同時に二日酔いの頭痛が俺を襲う。
「悪い。朝飯パス。気持ち悪くて食えない」
とても朝飯を食べられる心身状態ではない。
「お、おう、そうか。ま、ゆっくりしろや… お大事に…」
まるで昨日交通事故に遭った者を労わるような目で俺を眺め、健太はよっこらしょと腰を上げ、部屋を出て行く。俺は再びそっと目を瞑る。
あれから俺は地酒を浴びるほど飲み途中で記憶を無くした。あまりに衝撃的な過去の事実を未だに受け容れられない。俺がクイーンに何か言ったため彼女は来なかった、そして。
クイーンが中学生の頃、俺に惚れていた…
昨夜の夕食時に先生が言っていたのはこの事だったのだ。だが、もし当時俺がその事実を知ったとして、どう対峙していただろうか。
恐らくは、いや間違いなく『お断り』していただろう。当時の俺は部活に勉強に生徒会に東奔西走し、彼女を作り付き合うどころではなかった。と言うか、女性と向き合う余裕が無かった。
ましてや不良中の不良、俺とは価値観が全く異なる女子に俺は見向きもしなかったであろう。寧ろ積極的に忌避していた筈だ。
春先に数十年ぶりに再会した時、彼女は何も変わっていなかった。俺は大きく変わっていた、と言うよりも落ちぶれていた。そんな俺を彼女はどう思ったのだろう。よくある、中学生時代のヒーローが数十年ぶりの同窓会で見たらガックシ、だったのではないだろうか。
逆に俺から見た彼女。昔は見向きもしなかったのだが、今は女として、人として尊敬している。そして何より、愛おしい。失いたくない。光り輝く彼女に俺は相応しいのだろうか。否。
一人悶々と布団の中で悶えているうちに、大分具合が良くなってきたので朝風呂に向かう。脱衣所には何人もの服がある。既に朝風呂を楽しんでいるのだ。
大浴場を抜けて露天風呂に入る。深い緑の山々を一望できる、鬼怒川温泉ならではの景色を堪能させてくれるロケーションだ。昨日は遅くに着いたのでわからなかったのだが、この朝の絶景はこの地の新たな素晴らしさを俺に教えてくれる。
しばらく景色に見とれていた。ふと気付くと元バスケ部の小室が一人湯を楽しんでいる。
「おお軍司。朝風呂、露天風呂、サイコーだなっ」
「酒抜きにも最高だよ」
「だな。しかし昨日の夜は笑ったわ」
小室は大学を出た後某大手スーパーマーケットに入社、都内各店の現場を経験した後本社に戻り、今では経理部長だそうだ。
「ははは… アイツが俺のこと… 全然知らなかったわ」
小室は呆れ顔で頷きながら、
「やっぱそうか。お前女に興味無かったもんなあ」
そう言って大きく伸びをする。
「って… お前知ってたのか?」
「バスケ部全員、いや、全校生徒全員知ってたのでは?」
「嘘… だろ…?」
ガラガラと扉が開き、健太グループの和田が下半身も隠さず堂々と湯に入ってくる。いや最高、などと呟きながら俺たちの横にドボンと浸かる。その和田に恐る恐るその話を振ってみると、
「俺らが二年の時、キングの事呼び出して焼き入れようとしたじゃん?」
「ああ。俺が右手の指の骨、折られた時な」
「バーカ。俺は前歯折られたし、お前に。うわー懐っけー」
「そうそう。だけどお前区大会に出てな、左手だけで大活躍な。西中都市伝説の一つな」
その時補欠で試合に出られなかった小室が手を叩いて喜んでいる。
「小室… でそれが何か?」
「アレって、俺ら何でキングのこと呼び出したか知ってた?」
「んーーー、制服ちゃんと着ろとか、うるせーふざけんな、とかじゃなかった?」
和田は全力で首を横に振る。
「え… 違ったの…」
「ま、確かに優等生のお前、相当ウザかったし」
和田がプッと吹き出す。
「二年なのにバスケ部の熱血部長、ウザかったし」
小室も被せて吹き出す。
「… なんかスマン…」
和田が咳払いをして、改まりながら、衝撃の事実をサラッと述べる。
「あれさ、健太の横恋慕」
「は?」
「あん時、健太がクイーンに惚れてたの!」
「な、なんだと…?」
一切、本当に一切そんな事は知らなかった…
昨夜から、俺にとっての衝撃の事実が多過ぎる…
目を開けると、朝からうざったい健太の顔が俺を覗き込んでいる。同時に二日酔いの頭痛が俺を襲う。
「悪い。朝飯パス。気持ち悪くて食えない」
とても朝飯を食べられる心身状態ではない。
「お、おう、そうか。ま、ゆっくりしろや… お大事に…」
まるで昨日交通事故に遭った者を労わるような目で俺を眺め、健太はよっこらしょと腰を上げ、部屋を出て行く。俺は再びそっと目を瞑る。
あれから俺は地酒を浴びるほど飲み途中で記憶を無くした。あまりに衝撃的な過去の事実を未だに受け容れられない。俺がクイーンに何か言ったため彼女は来なかった、そして。
クイーンが中学生の頃、俺に惚れていた…
昨夜の夕食時に先生が言っていたのはこの事だったのだ。だが、もし当時俺がその事実を知ったとして、どう対峙していただろうか。
恐らくは、いや間違いなく『お断り』していただろう。当時の俺は部活に勉強に生徒会に東奔西走し、彼女を作り付き合うどころではなかった。と言うか、女性と向き合う余裕が無かった。
ましてや不良中の不良、俺とは価値観が全く異なる女子に俺は見向きもしなかったであろう。寧ろ積極的に忌避していた筈だ。
春先に数十年ぶりに再会した時、彼女は何も変わっていなかった。俺は大きく変わっていた、と言うよりも落ちぶれていた。そんな俺を彼女はどう思ったのだろう。よくある、中学生時代のヒーローが数十年ぶりの同窓会で見たらガックシ、だったのではないだろうか。
逆に俺から見た彼女。昔は見向きもしなかったのだが、今は女として、人として尊敬している。そして何より、愛おしい。失いたくない。光り輝く彼女に俺は相応しいのだろうか。否。
一人悶々と布団の中で悶えているうちに、大分具合が良くなってきたので朝風呂に向かう。脱衣所には何人もの服がある。既に朝風呂を楽しんでいるのだ。
大浴場を抜けて露天風呂に入る。深い緑の山々を一望できる、鬼怒川温泉ならではの景色を堪能させてくれるロケーションだ。昨日は遅くに着いたのでわからなかったのだが、この朝の絶景はこの地の新たな素晴らしさを俺に教えてくれる。
しばらく景色に見とれていた。ふと気付くと元バスケ部の小室が一人湯を楽しんでいる。
「おお軍司。朝風呂、露天風呂、サイコーだなっ」
「酒抜きにも最高だよ」
「だな。しかし昨日の夜は笑ったわ」
小室は大学を出た後某大手スーパーマーケットに入社、都内各店の現場を経験した後本社に戻り、今では経理部長だそうだ。
「ははは… アイツが俺のこと… 全然知らなかったわ」
小室は呆れ顔で頷きながら、
「やっぱそうか。お前女に興味無かったもんなあ」
そう言って大きく伸びをする。
「って… お前知ってたのか?」
「バスケ部全員、いや、全校生徒全員知ってたのでは?」
「嘘… だろ…?」
ガラガラと扉が開き、健太グループの和田が下半身も隠さず堂々と湯に入ってくる。いや最高、などと呟きながら俺たちの横にドボンと浸かる。その和田に恐る恐るその話を振ってみると、
「俺らが二年の時、キングの事呼び出して焼き入れようとしたじゃん?」
「ああ。俺が右手の指の骨、折られた時な」
「バーカ。俺は前歯折られたし、お前に。うわー懐っけー」
「そうそう。だけどお前区大会に出てな、左手だけで大活躍な。西中都市伝説の一つな」
その時補欠で試合に出られなかった小室が手を叩いて喜んでいる。
「小室… でそれが何か?」
「アレって、俺ら何でキングのこと呼び出したか知ってた?」
「んーーー、制服ちゃんと着ろとか、うるせーふざけんな、とかじゃなかった?」
和田は全力で首を横に振る。
「え… 違ったの…」
「ま、確かに優等生のお前、相当ウザかったし」
和田がプッと吹き出す。
「二年なのにバスケ部の熱血部長、ウザかったし」
小室も被せて吹き出す。
「… なんかスマン…」
和田が咳払いをして、改まりながら、衝撃の事実をサラッと述べる。
「あれさ、健太の横恋慕」
「は?」
「あん時、健太がクイーンに惚れてたの!」
「な、なんだと…?」
一切、本当に一切そんな事は知らなかった…
昨夜から、俺にとっての衝撃の事実が多過ぎる…