第2章 第2話
文字数 2,244文字
山本くんは読み進むに従い、額から大粒の汗を垂らし始める。ありえない、信じられないを連発しつつ、俺にその事件の内容を説明してくれている。
何でも対立するグループが当時中二の最年少グループ員を拉致、更に暴行を加えしかも男友達に… 事件は俺らが高一の時に起きたらしい。ん? 中二のグループ員? というと2コ下 … え、まさか…
「そっす。それアタシっす。拉致られて輪姦されたの」
忍はニッコリ笑いながらカミングアウトした。
俺は頭が真っ白になる。
なんだと? この子はまだ13、4の頃に、この世の地獄を経験しただと?
まん丸の顔に厚い安化粧。見た目は俺やクイーンよりも老けており、髪も染色が抜けかかっていて白髪も目立つ。だがその笑顔は誰よりも明るく何よりもパワーをくれる。
全く知らなかった。いつ来ても圧倒されるほどの陽気で仕事に人生に疲れた俺、客達を元気づけてくれている忍が、まさか過去にそんな辛く悲しい出来事があったとは…
「そ、そんな…」
山本くんはそれ以上言葉が出せず、ただ視線がスマホ画面と忍を行き来している。俺も絞り出すように、
「忍ちゃん… すまん…」
「何十年前の話っすか。もう全然っすよ」
「いや、それでも… ホント知らなくって…」
忍は更なる笑顔で話しだす。
「でね。一番下っ端っすよアタシそん時。向こうもまさかこんな下っ端のために全面戦争になるとは思ってなくてアレだったんじゃないっすか。アタシも仕方ねーと思ってましたし」
「で、でもクイーンが?」
「そ。名前も知らねえ一番下っ端のアタシの為に、あんな大事件起こして」
忍が遥か遠くを見る目で静かに呟く。
「アタシ死のうとしてたんっすよ。拉致られてボコられて輪姦されて。心と身体をグッシャグシャにされて。生きてく気失くして、病院のベッドでいつどうやって死のうかってコトばっか考えてたんですよ」
「うん。うん…」
横を見ると山本くんが目に涙を浮かべて聞いている。その山本くんの姿が突如滲んでくる。
「ちょ、二人とも何すか、湿っぽい。そんな時ね、姐さんが突然見舞いに来てくれたんっす」
「……」
「もうビックリっす。あの大江戸連合のクイーンが、メデューサの大幹部が、名前も知らねえ一番下っ端のアタシの見舞いに来てくれたんっすよ。そんでこう言ってくれたんです、
『必ずヤツらぶっ潰す。んで、オメエの面倒ずっと見てやる。だから、早く元気になれ』
萎れてたアタシの心と身体、ガツンと生き返りましたわ、ガツンと。キャハハ〜」
山本くんは涙をおしぼりで拭い、スマホを読み進める。
「で… 本当でしょうか、この文章は…
『そしてお台場の駐車場にて大乱闘、相手のヘッドに大怪我を負わせて… 片目を潰した』
…まさか…ね…」
山本くんがゴクリと唾を飲み込む。
「あーーー 当たりどこ悪かったんだよー、なキル子の奴。頬狙ったのに頭伏せやがるからよお」
クイーンが一息入れに俺たちのカウンターにやって来てiQOSを咥える。山本くんがヒッと呻き、身を縮ませる。
「これは、まさか、
『通報により駆けつけた警察車両に損害を与え…』
ないですよね?」
クイーンは仏頂面で、
「しゃーねーだろ。仲間逃す時間稼ぎによ、金属バットでフロントガラスを叩き割っただけだよ」
「マジか… で、でも、この、
『更に、複数の警察職員に暴行を加えた…』
こ、これはさすがに創作?」
不貞腐れながら、
「しゃーねーだろ、寄って来てワキガ臭くてキモかったからよ」
「お、恐ろしい… 恐ろしすぎる…」
心の底から怯えている山本くん。ネットで都市伝説化されている人物が目の前におり、当時の事件を赤裸々に語っている。更にネット上には書かれていない事件の裏まで掘り下げられ、それが想定外に無残で残酷で…
彼は今茫然自失状態と言えよう。
よし、今だ…
「そうだよ。山本クン。このオンナはね、昔から怖い人なんだよ」
「はい… ゴクリ」
「そのコイツがさ。行きたいんだって、修学旅行」
「はい…」
「来月のお盆前、日光に」
「はい……」
「な、クイーン?」
「まーな」
「ヒッ」
「俺さ、コイツに約束しちゃったんだよ。なるたけ高級で、送迎付き、二食付きで、」
「きゅ、9800円、ですか……」
「そ。コイツにも、コイツの怖いダチにも約束しちゃたんだ…」
「だ、だけど、それは金光さんが…」
クイーンが山本クンの顔にiQOSの煙を吹きかけながら、
「わりーな、コイツ使えねーだろ。だから、頼むわ若い衆! ヨッ!」
「ひいいーー わかりましたーー 何とかしますぅーー」
「それでこそ、キミだ。山本くん。もうキミが俺をバカって連呼したコト忘れるよ」
クイーンの綺麗な眉毛がありえない曲がり方をし、
「は? オメ、調子こいて人のオトコ、バカにしたんかコラ?」
山本くんはスツールから飛び降り、その場に土下座をしながら
「すいませんすいません知りませんでした申し訳ありません二度としません許してください命だけはお願いします助けてくだ」
そんな彼を無視し、忍が目をキラキラ光らせながら、
「あれーーーーーーいまーーーーー」
「ちょ、忍オメ、ちょ」
「キンちゃんのことぉー 『人のオトコ』って言ったあーー」
「ば、バーカ、例えだろが例え、あれ? あ、やべ、で、電話しなきゃ翔にヤバヤバ」
「姐さん逃げたーー キャハハ、逃げた逃げたーーー」
忍が大喜びし俺が真っ赤になっているその足元で、
「すいません助けてくださいもうしません絶対しません調子乗ってました許してください死にたくないですお願いしm……」
何でも対立するグループが当時中二の最年少グループ員を拉致、更に暴行を加えしかも男友達に… 事件は俺らが高一の時に起きたらしい。ん? 中二のグループ員? というと2コ下 … え、まさか…
「そっす。それアタシっす。拉致られて輪姦されたの」
忍はニッコリ笑いながらカミングアウトした。
俺は頭が真っ白になる。
なんだと? この子はまだ13、4の頃に、この世の地獄を経験しただと?
まん丸の顔に厚い安化粧。見た目は俺やクイーンよりも老けており、髪も染色が抜けかかっていて白髪も目立つ。だがその笑顔は誰よりも明るく何よりもパワーをくれる。
全く知らなかった。いつ来ても圧倒されるほどの陽気で仕事に人生に疲れた俺、客達を元気づけてくれている忍が、まさか過去にそんな辛く悲しい出来事があったとは…
「そ、そんな…」
山本くんはそれ以上言葉が出せず、ただ視線がスマホ画面と忍を行き来している。俺も絞り出すように、
「忍ちゃん… すまん…」
「何十年前の話っすか。もう全然っすよ」
「いや、それでも… ホント知らなくって…」
忍は更なる笑顔で話しだす。
「でね。一番下っ端っすよアタシそん時。向こうもまさかこんな下っ端のために全面戦争になるとは思ってなくてアレだったんじゃないっすか。アタシも仕方ねーと思ってましたし」
「で、でもクイーンが?」
「そ。名前も知らねえ一番下っ端のアタシの為に、あんな大事件起こして」
忍が遥か遠くを見る目で静かに呟く。
「アタシ死のうとしてたんっすよ。拉致られてボコられて輪姦されて。心と身体をグッシャグシャにされて。生きてく気失くして、病院のベッドでいつどうやって死のうかってコトばっか考えてたんですよ」
「うん。うん…」
横を見ると山本くんが目に涙を浮かべて聞いている。その山本くんの姿が突如滲んでくる。
「ちょ、二人とも何すか、湿っぽい。そんな時ね、姐さんが突然見舞いに来てくれたんっす」
「……」
「もうビックリっす。あの大江戸連合のクイーンが、メデューサの大幹部が、名前も知らねえ一番下っ端のアタシの見舞いに来てくれたんっすよ。そんでこう言ってくれたんです、
『必ずヤツらぶっ潰す。んで、オメエの面倒ずっと見てやる。だから、早く元気になれ』
萎れてたアタシの心と身体、ガツンと生き返りましたわ、ガツンと。キャハハ〜」
山本くんは涙をおしぼりで拭い、スマホを読み進める。
「で… 本当でしょうか、この文章は…
『そしてお台場の駐車場にて大乱闘、相手のヘッドに大怪我を負わせて… 片目を潰した』
…まさか…ね…」
山本くんがゴクリと唾を飲み込む。
「あーーー 当たりどこ悪かったんだよー、なキル子の奴。頬狙ったのに頭伏せやがるからよお」
クイーンが一息入れに俺たちのカウンターにやって来てiQOSを咥える。山本くんがヒッと呻き、身を縮ませる。
「これは、まさか、
『通報により駆けつけた警察車両に損害を与え…』
ないですよね?」
クイーンは仏頂面で、
「しゃーねーだろ。仲間逃す時間稼ぎによ、金属バットでフロントガラスを叩き割っただけだよ」
「マジか… で、でも、この、
『更に、複数の警察職員に暴行を加えた…』
こ、これはさすがに創作?」
不貞腐れながら、
「しゃーねーだろ、寄って来てワキガ臭くてキモかったからよ」
「お、恐ろしい… 恐ろしすぎる…」
心の底から怯えている山本くん。ネットで都市伝説化されている人物が目の前におり、当時の事件を赤裸々に語っている。更にネット上には書かれていない事件の裏まで掘り下げられ、それが想定外に無残で残酷で…
彼は今茫然自失状態と言えよう。
よし、今だ…
「そうだよ。山本クン。このオンナはね、昔から怖い人なんだよ」
「はい… ゴクリ」
「そのコイツがさ。行きたいんだって、修学旅行」
「はい…」
「来月のお盆前、日光に」
「はい……」
「な、クイーン?」
「まーな」
「ヒッ」
「俺さ、コイツに約束しちゃったんだよ。なるたけ高級で、送迎付き、二食付きで、」
「きゅ、9800円、ですか……」
「そ。コイツにも、コイツの怖いダチにも約束しちゃたんだ…」
「だ、だけど、それは金光さんが…」
クイーンが山本クンの顔にiQOSの煙を吹きかけながら、
「わりーな、コイツ使えねーだろ。だから、頼むわ若い衆! ヨッ!」
「ひいいーー わかりましたーー 何とかしますぅーー」
「それでこそ、キミだ。山本くん。もうキミが俺をバカって連呼したコト忘れるよ」
クイーンの綺麗な眉毛がありえない曲がり方をし、
「は? オメ、調子こいて人のオトコ、バカにしたんかコラ?」
山本くんはスツールから飛び降り、その場に土下座をしながら
「すいませんすいません知りませんでした申し訳ありません二度としません許してください命だけはお願いします助けてくだ」
そんな彼を無視し、忍が目をキラキラ光らせながら、
「あれーーーーーーいまーーーーー」
「ちょ、忍オメ、ちょ」
「キンちゃんのことぉー 『人のオトコ』って言ったあーー」
「ば、バーカ、例えだろが例え、あれ? あ、やべ、で、電話しなきゃ翔にヤバヤバ」
「姐さん逃げたーー キャハハ、逃げた逃げたーーー」
忍が大喜びし俺が真っ赤になっているその足元で、
「すいません助けてくださいもうしません絶対しません調子乗ってました許してください死にたくないですお願いしm……」