第4章 第13話

文字数 1,303文字

 光子は真顔で何度も何度も頷きながら、
「そのつもりだけど」

 … あれ…

 今俺、告ったよな? ちゃんと告ったつもりなのだが、伝わってないのか?

 どうやら全く伝わらなかったらしい、彼女は俺の頭を優しく撫でながら、
「東京帰ってすぐ手術だろ? 任せろよ、連れてってやるからよ。あと、リハビリ? それも付き合ってやるし。家も近えからな、そばにいるぜずっとな」
 なんて漢気を見せてしまっている…

「ああ、あと飯とかも作りに行ってやるし。おばちゃんの分もアタシがビシッと作るからよ。なんなら掃除洗濯もしてやるぞ、おお、身体も洗ってやるかな… って、それじゃ夫婦か彼女みてえってか、まあ気にすんな、ははは」
 ハハハ… ダメだこりゃ。コイツには直球しか通じないわ。それなら、

「島田光子。俺はオマエが好きだ」

 光子は軽―く何度も頷きながら、
「おう。アタシも好きだぞ。オマエも健太も、青山とかも」

 は? 何なんだコイツ… 

 あれ… これって俺フラれる奴…? 葵風に言えば、フラグ立っちゃった? キングはいい奴だし昔は好きだったけど、今は… ごめんなさい… って奴なのか…

 今は彼氏とか考えられないから、友達でいいよね? って奴なのか…
 だとしたら四月からの俺は一体…

「てかさ。そーゆー言い方よくねーぞ、キング」
「ヘ? なにが?」
「『オマエが好きだ』なんて言われたらよ、アタシバカなんだから本気にしちまうだろーが、ったく、このスケコマシが」

 いやいやいや。本気だし。是非本気にして欲しいし。スケコマシじゃねーし。
 どーすりゃいいんだ… 婉曲法も直球勝負も通用しない。一体どうすれば…

「ったく… そんな言い方… でも、ありがとう。とっても嬉しいよ」

 … あれ… まさかコイツ… あのモードに入った? そう、あのモードとは、コイツがかつて付き合った男のことを語る時の、人格変換モード。キャラ変と言うヤツだ。

 このモードに入ると、言葉遣い、表情、行動がガラッと変わる。一体どっちのモードが本来彼女に備わっているモードなのだろう、その度に考えてしまう。
 このモードの彼女は、まさに天女のような優雅な振る舞いとなり、普段の般若のような言動とのギャップも俺のツボなのだ。

「ぐんじが、そう言ってくれて嬉しいよ。あは、もし本気の好きだったら… なんてね…」

 ある予感がする。
 このモードの時に、キチンと告白すれば想いが届けられるのでは?

「光子」
「え、何?」

「愛してる」

 真っ直ぐに俺の目を見る。
 まさか、と言う表情がしばらく続く。
 俺は目で嘘じゃない、本当に愛していると伝える。
 彼女の目の大きさが変わり、光り輝き出す。
 そして小さな口が譫言のように、嘘でしょ、と繰り返す。
 俺は微笑みながら、口角を上げる。
 小さく首を振り、やがて俯いてしまう。
 やっと… ようやく通じたようだ。このクシャクシャの泣き笑いの顔。泣き過ぎて腫れ上がった真っ赤な目。鼻水の跡が残る鼻の下。ヤニ臭い吐息。
 
 その全てが愛おしい。

「これからは… わたしが… 貴方を守るわ」
 
 その真っ直ぐでどこまでも澄んだ美しい瞳から、一筋の涙が流れ落ちる。そして、

「私も愛しているわ」
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