冒険の始まり

　ここは、どこ？
　僕の家でも、学校でも、秘密基地でもない。
　それに、僕の横に居る男の人……誰？

「俺は、ザウバー・ゲラードハイト」
　男の人に問い掛けると、名前を教えてくれた。声は荒っぽいけど、何だか落ち着く。
　少しの間を置いた後で、ザウバーさんがやった様に簡単な自己紹介をする。それから、あちこち痛む体を起こして、握手を求めるように手を伸ばした。

「宜しくな！」
　すると、ザウバーさんは元気良く僕の手を握り返した。その後、僕はここが何処なのか確かめる様に部屋を見回す。

「ここか？　ここは、お前の村からは隣にあたる町の宿だ。まさか気を失った奴を、何もかもが破壊された場所に置いていく訳にもいかねえからな」
　ザウバーさんは、僕の居る場所について簡単な説明をしてくれた。だから、僕はお礼を言った。涙をこらえていたせいか、上手く言葉にならなかったけど。

「気にすんな。どうせ食料を買い込む為に、この町に向かってたしな。それにダーム、お前のお陰でドラゴンを倒せた様なもんだ。礼を言いてえのは、むしろ俺の方だ」
　ザウバーさんは僕が寝ていたベッドに腰を掛けてきた。でも、僕はザウバーさんが言った事が良く解らなくて、何も言えずに首を傾げた。

「正確には、お前がドラゴンに突き刺した短剣の御陰でな。その傷は小さかったものの、結果的にドラゴンは粉々になって死んだ。だから、お前の御陰って訳だ」
　ザウバーさんは目を細めて微笑む。

「どうやら……その短剣には、邪を祓う力が有るらしい。ま、リーチがねえから護身用に作られたんだろうけどな」
　ザウバーさんは、ベッドの近くに置かれていた短剣を手にとった。だけど、僕は信じられなかった。あんな小さな短剣で、村を焼き尽くす程に力の有るドラゴンを倒すなんて。だからなのか、僕は無意識の内に短剣へ手を伸ばしていた。

「この短剣は、邪を祓う力の有る水晶で刃が作られている。それに、剣の鞘と柄には魔物の力を封じる魔法がかけられているみてえだからな。それのお陰で魔物は瞬殺された……って寸法だ」
　ザウバーさんは、短剣について簡単な説明をしてくれた。僕は短剣を鞘から引き抜いて、太陽の光で輝く刃を見た。

「その剣を何処で手に入れたか知らねえが、相当貴重な代物だぞ！」
　この短剣について、僕の知っている事をザウバーさんに伝えようと思った。この短剣は、どうやって手に入れたのか。