アイドルが投げると喜々として拾われるやり方

文字数 3,180文字

「おにーさん。コンテストを見に行くんですか?」
 男性は、妙に耳に残る声で話すと、ザウバーの肩を軽く叩く。ザウバーは、彼の手を振りほどく様に後ろに下がり、怪訝そうな表情を浮かべた。

「警戒しないでくださいよ。おいしい話が有るんですって」
 笑いながら話すと、男性は懐から1枚の紙を取り出し、ザウバーの目の前に突き付ける。

 ザウバーが眼前の紙片を手に取ると、そこには女性の肌も露わな姿が印刷されており、それを見た彼は思わず目を見開いた。紙には、12人もの女性の写真が同じ大きさで印刷され、それぞれの左上に番号がふられている。

「実は、参加者の写真をこっそり撮ったんだよ。あのテントで着替えている時を狙って」
 男性は目を細め、静かに口角を引き上げた。男性の言葉を聞いたザウバーの手は震え、その額には青い血管が浮かび上がる。

「時間ぎりぎりで来た最後の子は無いんだけど、誰かの写真が欲しかったら言ってよ。コンテスト終了後にまた来るから」
 ザウバーは男性に話を聞こうと顔を上げるが、男性は彼の近くから姿を消していた。

「2回戦も残すところ1分となりました」
 男性を探そうとした時、ザウバーの耳には司会者の声が聞こえてくる。彼は不機嫌そうに舌打ちすると、乱暴に紙を握りしめてダームの元へ向かって行った。

 ザウバーが少年の元に到着すると、ダームはつまらなそうに空を見上げている。ザウバーは、そんな少年の背中を叩き、間髪を入れる事無くのダームの髪を掻き乱した。

「試合はどうなった?」
「試合も何も、こんな後ろからじゃ見えないよ。多分、もう直ぐ決着がつくみたいだけど」
 彼は、そう言うと溜め息を吐き、手の平を空へ向けながら首を横に振った。
 ザウバーは、海の方を眺め、試合状況がどうなっているかを確かめようとする。

「あと、10秒!」
 その瞬間、海岸には司会の声が響き渡り、ダームはその声へ反応するように目を見開いた。

「5……4……」
 カウントダウンが始まると、その場に集まった観客は沸き立ち、司会者の声に合わせて声を発する者も現れる。

「3……2……」
 カウント数が減るとともに喚声は大きくなり、ダームは思わず耳を塞いだ。

「1……終了です! 皆さん、速やかに海からあがってください」
 その声へ反応するように、参加者は海から陸へ移動を始め、観客の声は徐々に収束していった。

「では、獲得したボールの数を数えますので、旗の横に立って下さい」
 そう話すと、司会は手を上方に伸ばして左右に振り、参加者達がスムーズに移動することを促した。参加者は、彼女の声に従って旗の横に立ち、そのまま更なる指示を待つ。

「ボールの数え方は簡単です。私のカウントと同時にボールを1つずつ投げて下さい。投げられるボールが無くなったらしゃがんで下さいね」
 見本を見せようとてしてか、司会者はその場でしゃがんでみせた。数秒後、彼女はゆっくり立ち上がると、服に付いた砂を掃いながら口を開く。

「観客の皆様も居ますから、さりげなく拾うなどの不正は出来ませんので、悪しからずご了承ください」
 司会がおどけた口調で話すと、観客達からは大小様々な笑い声が発せられた。

「それでは、カウントを始めます」
 その声を聞いたダームは、海側へ向かって走り出し、ザウバーは彼の背中を無言で見送る。ダームは、観客達の左横を通って進むと、背伸びをしながらベネットの姿を探し始めた。幸い、ベネットは彼が居る近くに居り、彼女の姿を確認したダームは柔らかな笑顔を浮かべる。

「1!」
 司会の声と共に参加者達は1つのボールを上方へ向って投げ、ダームは思わずそのボールを目で追った。

 司会は、全てのボールが地面に落ちた頃合いでカウントを続け、参加者もそれに応じる様にボールを投げていく。時々、勢いがつき過ぎたボールが観客の方へ飛んで行くが、ボールが軽い為か不満を漏らす声は出なかった。

 それどころか、それらのボールを拾い、嬉しそうに自分の懐にしまいこむ者まで居る。

「7!」
 司会がそこまでカウントを進めた頃、アイーシャは余裕の笑みを浮かべながらボールを投げ、ルフィエは残ったボールを見つめながら悔しそうな表情を浮かべた。他の参加者は、横目で状況を確認しつつ、1つまた1つとボールを投げ続けている。

「10!」
 そこまでカウントが進んだ時、ルフィエは大きな溜め息を吐きながらしゃがみ込み、膝を抱えて俯いた。それに気付いたフィーラやリリスは安心したように笑顔を浮かべ、ルビアは目線を左右に泳がせる。

「ここでルフィエ選手敗退です。ですが、まだ結果は出ていないのでカウントは続行します」
 そう言い放つと、司会はざっと参加者の顔を眺め、大きく息を吸い込んだ。

「11!」
 その声に、ルゲニアは焦った様子を見せ、ボールを投げながら他者の状況を確認する。彼女の手の中には、殆どボールが残っておらず、アイーシャの様に胸へ挟み込んでいるということもない。

「12!」
 その声にルビアは肩を落とし、ルゲニアは小さく声を漏らした。

「13!」
 そのカウントと共にルビアは腰を下ろし、空を仰ぎながら溜め息を吐く。一方で、ライラやルゲニアは安心したような表情を見せ、司会者はカウントを止めて大きく息を吸い込んだ。

「はい! これで、3回戦に進める選手が決定いたしました。ルビア選手とルフィエ選手は残念ですがここで退場となります」
 そう言うと、司会は名を上げた二人の顔を見、そのまま小さく頭を下げる。そして、彼女はステージを横目で見ると、口を閉じたまま声を漏らした。

 この時、ステージ上では作業が続けられており、それは直ぐに終わりそうに無い。司会は、困ったように目を瞑るが、直ぐに観客の方へ向き直って口を開いた。

「えー、勝敗は決しましたが、せっかくなので最後までカウントします」
 司会は参加者の方へ目線を動かし、反応を待った。彼女の話に、参加者は戸惑った様に目線を泳がせるが、数分と経たないうちに全員が肯定の返事をなした。その後、司会はゆっくりとカウントを続けていき、それは数分かけて終了する。

「はい。これでカウントは終了です」
 司会は、そこまで話すと笑顔を浮かべ、大きく息を吸い込んだ。

「勝敗を決めたのは、どうやら手持ちの他にどれだけ持てるか……だった模様です」
 笑みを浮かべたまま話すと、司会はベネットの方に目線を向ける。

「25個ものボールを獲得したベネット選手。こちらは、パレオを上手く使っての快勝です」
 そう話すと、彼女はアイーシャの方へ目線を動かし、照れくさそうに頬を赤らめる。

「次いで、23個を所持していたアイーシャ選手。こちらは、持ち前の大きな胸を生かしての勝利です。羨ましい大きさですね」
 司会者は、言いながら目線をリリスへ移し、周囲には聞こえないように咳払いをする。

「それから、リリス選手の21個。こちらもなかなかのもので」
 リリスの胸は、アイーシャに及ばないものの大きく、観客の中には彼女の胸をじっと見つめる者さえ居た。

「18個のフィーラ選手と17個のエレナ選手も、20個に届かなかったものの、水着との隙間に押し込む考えはなかなかのものです」
 その言葉にエレナは頬を赤らめ、フィーラは自慢気に笑ってみせた。

「15個を獲得したツヴァイ選手。手に持ちきれないからと、太股に挟んでくるとは驚きましたね」
 それを聞いたツヴァイは、首を傾げて司会者の顔を見つめる。しかし、当の司会者はツヴァイの目線に気付かなかったのか、ライラの方へ顔を向けて口を開いた。

「14個のライラ選手に13個のルゲニア選手。バランス良く両手にボールを掴んでいましたが、流石に限界が有ったようです」
 その言葉にライラは苦笑いを浮かべ、ルゲニアは虚空を見つめる。一方で、司会はステージを軽く見やり、そこに誰も居ないことを確認した。
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登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

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