海が呼んでいる光っておる

文字数 2,301文字

 照りつける太陽の元、海沿いの道を歩く三人の姿がある。その道は、握りこぶし程度の大きさの石を敷き詰めて造られたもので、容赦なく太陽熱を反射していた。
 先頭を歩くのは、やや大きめの靴や青色の半ズボンを身に付けた少年。十代半ばの彼は、暑さを少しでも軽減しようとしてか、上着の袖を出来得る限り巻くり上げていた。

 そんな彼の全身には大粒の汗が浮かび、額には褐色の髪が張り付いている。また、少年の蒼い瞳は虚ろで、上がり続ける気温に成長過程の体は付いていけていないようであった。
 彼の後に続くのは、気怠るそうに歩く青年と、少年を見守りながら進む女性。二人の年齢は二十代前半で、それぞれの身長は少年より高い。

 青年は、暑さで気力が無くなってしまったのか、脱いだ上着を荷物にまとめる事無く左手で掴んでいる。そして、青年が上着を脱いだことにより、露出された肌は照りつける光によって赤くなっていった。

 彼は、脱いだ上着で何度も汗を拭っており、その上着には段々と染みが広がっていく。
 そんな暑さの中、女性だけは比較的涼しい顔をしたまま歩き続けており、暑さを軽減する為か長い黒髪は後頭部で纏められていた。

 しかし、そんな彼女の表情とは裏腹に、細い首筋には幾度となく汗が伝い、徐々に背中や胸元を濡らしていった。その濡れた肌には衣服が張り付き、彼女の体の線を露わにしていく。

「暑い、暑い、あーつーいー」
 少年は立ち止まり、後方を振り返る。彼の声に力は無く、照りつける陽光に体力を奪われているようであった。
 少年は仲間の顔を見上げると、温かな息を吐きながら首を傾ける。

「そろそろ休まない? それか、海に入って涼もうよ」
 少年の頬は真っ赤に染まり、それは彼の体温が高くなっていることを示しているようだった。そして、気の抜けた声を聞いた青年と言えば、呆れた様子で少年の肩へ手を乗せる。

「ダーム……休むったって、近くには日蔭ねえぞ?」
 青年は、刺々しい口調で言い放つと、わざとらしく大きな溜め息を吐く。

「それに、海に入って涼むにしたって、水着はどうする? お前はガキだから、まっ裸で許されるかも知れねえけど」
 青年は少年の肩から手を離し、揶揄うような笑みを浮かべてみせた。

 他方、ダームは頬を膨らませて青年の顔を見つめ、不服そうに声を漏らす。しかし、自分の言葉だけでは勝てないと分かっているのか、言い返すまではしなかった。
 その代わり、彼は女性の顔を見上げ、助けを待つように蒼い瞳を潤ませる。すると、それを見た女性は微苦笑し、海岸沿いをざっと眺めた。

「確かに、今日は暑くて敵わないな。だが、どうせなら涼しい場所を見つけて休まないか?」
 彼女の話を聞いたダームは渋々ながらも頷き、踵を返して歩き始めた。

 それから十数分ほど歩いた頃、彼らは海岸に並べて建てられた小屋を見つける。その小屋は、どれも木材を継ぎ合わせただけの簡易なもので、通気性を良くする為か壁には硝子の嵌められていない窓が幾つも在った。

 小屋の周囲には、薄手の洋服や水着を着た人々が沢山居り、多くの者達が海へ入って涼んでいる。また、小屋の合間にはステージらしきものが設置され、周囲に集まった人々は楽しそうにはしゃいでいた。

 そんな光景を見たダームと言えば、疲れを忘れたかのように笑顔を浮かべる。彼は、笑顔を浮かべたまま勢い良く後方を振り返ると、嬉しそうに仲間の顔を見上げた。

「砂浜に下りてみようよ。なんだか楽しそう」
 少年は首を傾げ、そのまま仲間の返答を待つ。

「そうだな。休めそうな場所も在ることだし、下りてみよう」
 女性は優しく微笑み、小屋が建てられている海岸を一瞥する。すると、返事を聞いた少年は女性の手首を掴み、楽しそうに海岸へ下りていった。

「俺は無視か」
 それを見た男性は、不服そうに声を漏らす。しかし、彼は呆れた様な表情を浮かべつつも、二人の後を追いかけていった。

 三人が海岸へ下りた時、海から吹く風が爽やかな磯の香りを運んでいた。また、その波は穏やかで、透き通る海水は空の色を反射している。

 その様な光景を見たダームは興奮し、彼の仲間は海風を体に受けて一息ついた。そして、少年は女性の手を離すと、楽しそうな笑顔を浮かべて口を開く。

「早く海へ入ろうよ。涼めるし、きっと楽しいよ」
 ダームは、自らの考えを話すと目を輝かせ、仲間の顔を交互に見た。

「うっせえよ。少し前までは、死にそうな顔をしてやがったくせに」
 青年は苛立ったように言い放ち、少年の頬を強く掴む。青年は、頬を掴んだまま上下に何度か動かすと、真横に強く引っ張りながら指を離した。

「ザウバー! なんで」
「さっきも言ったが、水着を持ってねえだろ。つーか、先ずは休ませろ」
 ダームの言葉を遮って言うと、ザウバーは気怠るそうに溜息を吐く。それから、彼はゆっくり周囲を見回し、立ち並ぶ小屋の一つを指差した。

「売店だかなんだか知らねえけど、あそこに行きゃあ日差しは避けられるし、何かしら喰えそうだ」
 そう言って笑うと、ザウバーは女性の目を見つめ、そのまま出方を伺った。

 すると、女性は顎に手を当てて俯き、返すべき言葉を模索する。その後、彼女は小さく頷きながら微笑し、ザウバーの目を見つめ返した。

「体力を消耗した状態で海へ入るのは危険だ。先ずはザウバーの言う通り、休むとしよう」
 ザウバーへ答えを返すと、女性はダームの方へ向き直る。一方、彼女の目線に気付いたダームは海を一瞥し、それから小さく頷いた。

「分かった。溺れるのも嫌だし、一休みするよ」
 そう話すと、ダームは仲間の反応を待つこと無く、木製の小屋へ向かって歩き始めた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み