子供だった頃の守り人・1

文字数 1,273文字

 私が孤児院に引き取られて五年。始めは戸惑うことも有りましたが、孤児院を取り仕切る司祭様は優しく、今では微力ながら手伝うまでになりました。新しく入ってくる子達の世話や喧嘩の仲裁、それに訪問者をもてなすなど。

 そして、今日もまた、応接間へ司祭様の客人を案内致しました。ですが……どうにも何時もと様子が違うのです。孤児院ですから、子供を連れた客人は少なくない。でも……何か、何かが違っていると感じたのです。

「お茶をお持ちして下さい。どの様な方でも、お客様に変わりありませんから」
 そう司祭様は仰っていましたし、いつも通りに客人と司祭様の分、お茶を用意致しました。勿論、司祭様の言葉を否定する気など、微塵もございません。ですが、未だに嫌な予感を拭い去れないのも事実なのです。お茶を出す際に、不安が表情に出なければ良いのですが。

 紅茶、ミルク、シロップ、それにスプーン。人数分のティーセットが有ることを確認し、応接室の戸を叩く。そして、一呼吸置いてから、静かに戸を開いて。

 それにしても、こんな手慣れた動きで緊張するなんて、室内の空気が緊迫しているからでしょうか? 無言のままテーブルを挟んで見つめ合う男達と言うのは、見ようによっては滑稽でもあるようにも思えるのですが。

 さて、考えが顔に出るのも怖いので、ここは早めに切り上げるとしますか。

 そう考えた私は、一礼すると部屋に居る人物をざっと観察。応接室に居るのは、司祭様と苛立った感情を剥き出しにしている男。そして……俯いたまま微動だにしない少女の三人。先ずは、卑しい男から先に出しておきますか。司祭様の言うとおり、お客様に違いありませんから。

 無理に笑顔を作ると、男の前にティーカップを差し出す。それから、ミルクやシロップも。そして、攪拌用にスプーンを差し出した瞬間、男は鬱陶しそうに舌打ちを。礼を言われる為にしている訳ではありませんし、失礼なところがあったかも知れません。ですが……流石に、この態度は大人として頂けませんね。忙しなく足を動かしていますし、この男の品性が疑われます。

 逆に、司祭様は落ち着いたものです。年は大して変わらない様に見えるのですが、育ちの違いというやつでしょうか?

 余計な事は、後で考えましょう。今は、お茶をお出しする方が先です。まだ、一人分しかお出しておりませんし。次は、少女にお出ししましょうか。こういうことは、お客様優先というのが通説ですし。そして、私がカップを少女の前に置こうとした時

「悪魔憑きのガキには必要ねえ!」
 少女の隣に座る男は、嫌悪感を剥き出しにして叫びました。私は、意味がわからず硬直し、助けを求める様に司祭様の目を見つめました。

「聞こえなかったのか? そのガキには出さなくって」
「落ち着いてください、イーゼスさん。この少女がどうであれ、こちらでお預かりします。ですから、今日のところはお引き取り下さい」
 司祭様の声はいつになく低く、子供へ話し掛ける時とは違っていました。そのせいでしょうか、男は捨て台詞を吐くと、逃げる様に応接室を立ち去ってしまいました。
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登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

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