焼いた烏賊は美味しいが大き過ぎる烏賊はアンモニア臭いらしい

文字数 2,142文字

「最後の戦いは、アイーシャ選手対ベネット選手。ボール獲得数の合計は48ですので、武器はブレード。アイーシャ選手は向って左、ベネット選手は右からお願いします」
 司会の指示のもと、アイーシャとベネットは最後の戦いへ向かった。程無くして2人の準備は終わり、司会は大きく息を吸い込んだ。

「それでは、決勝戦を始めます!」
 司会の声に観客は沸き立ち、会場は歓声に満ち溢れた。ダームは、力の限りベネットを応援し、目を輝かせながら試合の開始を待つ。

 司会は、力強くカウントを始め、ついに最後の戦いが始まった。
 アイーシャとベネットは前進を始めるが、今までの経験から大きく動くことはしない。また、2人は横に居る生物が腕を伸ばす度に手に持つブレードで威嚇をし、追い払われてばかりの生物は次第に怒りを見せ始める。

「なかなか、試合が進みませんね。決勝だから緊張しているのでしょうか?」
 アイーシャは、そんな司会の解説に微かに眉を動かし、僅かながら前進をする。しかし、それを狙っていたように彼女の眼前には触手が現れ、アイーシャは跳ねる様に後退した。狙いが外れた生物は、直ぐにベネットへ狙いを変え、彼女の腰には滑らかな触手が巻きつけられる。

 それを見たアイーシャは、ここぞとばかりにベネットの方へ向かい、素早く決着を付けようとする。対するベネットは、力ずくで巻かれた触手を引き剥がし、アイーシャの攻撃に身構えた。

 その際、彼女が身につけていたパレオは滑り落ち、その瞬間を見た観客は思わず声を上げる。ベネットの足には、その生物の体液が伝って行き、それはゆっくりと落ちていった

「まさに危機一髪! あと少し遅れていたら、おーちゃんに連れて行かれていたことでしょう」
 司会がそう話した時、アイーシャは既にブレードを振り上げており、万が一ベネットが捉った状態であれば負けていた確率は高い。

 アイーシャは、ベネットが身構えたことで攻撃を躊躇い、振り上げられたままの腕は巨大な生物に狙われてしまう。彼女は、直ぐに右腕を下ろそうとするが、それよりも前に赤黒い触手はアイーシャの腕を捉えた。触手から滲み出る体液はアイーシャの腕を伝って落ちていき、その胸や脇を濡らしていく。

「おーっと、今度はアイーシャ選手のピンチです!」
 アイーシャは必死に触手を引き剥がそうとするが、それが叶うことの出来る前にもう一本の触手が彼女の腰へ巻き付いた。彼女は必死に2本の触手を剥がそうとするが、しっかりと巻き付いたそれは簡単には外れない。

 その上、巨大な生物はアイーシャを力の限り自分の方へと引き寄せ、彼女の体は左へ大きく傾いた。観客は、アイーシャの姿を見上げて息を飲み、彼女の安否を見守っている。しかし、不安定な場所でバランスを取りなおすことは出来ず、彼女は触手を持つ生物の方へ引き寄せられていく。

「残念! アイーシャ選手、失格です!」
 司会が話しているうちに、アイーシャは巨大な生物の方へ引き寄せられ、彼女の体はその生き物が放つ体液にまみれていった。彼女は、何とかしてその生物から逃れようとするが、しっかりと巻き付けられた触碗は外れる様子を見せない。

「救護班、アイーシャ選手の救助をお願いします!」
そうしている間にも、アイーシャは大きな生物の方へ引き寄せられ、苦しそうな声を漏らした。そんな彼女の元へは数人の者達が駆け寄り、直ぐに彼女の救出を始めようとする。しかし、体液に塗れたアイーシャの体は掴みにくく、救出は遅々として進まなかった。

 それどころか、アイーシャを捕らえた生物は、ようやく捕まえた獲物を離すまいとその腕に力を込める。その上、助けに入ったうちの1人も捕まり、状況は段々と悪化していった。観客や司会はそれを心配そうに見守り、彼女と戦っていたベネットは目を細めてそれを見下ろしている。

「仕置きが必要……か」
 小さく声を漏らすと、ベネットは軽く目を瞑り、ゆっくりとした呼吸を繰り返す。そして、彼女が再び目を開いた時、捕らえられた者達を避ける様に、巨大な生物は炎に包まれた。その生物は、突然の攻撃に驚いたのかアイーシャを掴む力を緩め、その隙に彼女は纏わりついた触手から逃げ出した。

 彼女の救出に向かった者等も次々にその場を離れ、大きな生物の周囲にはもはや誰も居ない。それを見た者達は安堵の表情を浮かべ、気が抜けてしまったのか中には座り込む者まで現れた

「えー、これにて水着女王コンテストを終了します」
 司会がそう話した時、赤黒い生物を包む炎は大きくなり、その体の全てを包み込んだ。その生物は苦しそうに脚をくねらせ、自らを閉じ込めている檻を壊そうともがき始めた。しかし、彼を囲う檻は相当にしっかりしているのか、全く壊れる様子を見せない。

 それを見た観客らは目を丸くし、司会は続けるべき言葉を見失う。そんな中、ベネットは静かに梯子を下りていき、彼女が地面についた時には炎は小さくなっていた。巨大な生物が動きを止めた頃、彼を包む炎は消え、司会や観客は徐々に冷静さを取り戻していった。
 司会は、呆けた表情を浮かべてステージ上を眺めると、慌ててベネットの姿を探し始める。その後、彼女は梯子の下部に居るベネットを見つけると、目を瞑り大きく息を吸い込んだ。

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登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

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