焼かれた烏賊は、スタッフ一同が食べ尽しました

文字数 2,893文字

「水着女王コンテストの優勝者はベネット選手!」
 司会は優勝者の名を告げ、会場は盛り上がる。

「表彰式を始めますので、ベネット選手はステージ上へ移動をお願いいたします」
 指示を聞いたベネットはステージ上へ向かい、それを見た司会もステージに上って行った。ベネットは、ステージの中程まで進んで立ち止まり、そのまま司会の動きを待つ。

「優勝おめでとうございます!」
 そう言うと、司会はベネットに封筒と麻袋を手渡した。
 ベネットは、それらを受け取って頭を下げ、安心したように息を吐き出す。

「優勝賞品は、シーサイドホテルのペア宿泊券と、銀貨100枚!」
 会場に集まった者達は手を叩き、ザウバーは嬉しそうな笑顔を浮かべる。

「それでは、これにて水着女王コンテストを終了致します。選手の皆様、会場に集まって下さった皆様、ありがとうございました!」
 観客はステージ前から離れていき、ベネットは静かにステージを下りていく。その姿を見たダームはベネットの方へ向かって行き、ザウバーは少年の後を追った。ベネットがステージを下りてテントに向かい始めた時、彼女の前には嬉しそうな笑顔を浮かべたダームが現れる。

「ベネットさん、おめでとー!」
「ありがとう。始めはどうなる事かと思ったが、結構なんとかなるものだな」
 そう言って笑うと、ベネットはダームの頭を優しく撫でた。

「なに言ってんだよ。最後の戦いなんか、やろうと思えば簡単だったろ」
「簡単に言うな。あそこでバランスを取るだけでも難しいのだぞ?」
 ベネットは、ザウバーへの当て付けの様に溜め息を吐いた。

「違う違う。聖霊の力を使えば、あの生物なんて簡単に操れただろ」
 ザウバーはステージの奥で動かなくなった生物の方へ目線を移す。その生物は、体のあちこちを黒く焼かれ、初めの頃とは打って変わって目に力が無い。また、大会の終わったステージは解体が始まっており、その周囲に集まっていた観客は殆ど居なくなっている。

「殺気すらない人間を相手にする戦いで、気高き聖霊の力を使えるか」
 強い口調で言い放つと、ベネットはザウバーへ詰め寄った。
「言うね、女王様。対戦相手を助ける為に力を使ったくせに」
 ザウバーは、言いながら軽く腰を曲げてみせる。すると、彼の懐からは丸められた一片の紙が落ち、それを見たベネットは紙片を拾い上げた。彼女は紙片を広げると、そこに描かれた内容を見て眉を顰める。

「これは一体どういうことか、説明して貰おうか?」
 そう話すベネットの表情は引き攣り、声色は恐ろしい程に落ち着いていた。怒りの矛先であるザウバーと言えば、彼女が何に怒っているか分からず困惑し、ベネットが持つ紙片を覗き込む。彼は、そこに描かれた内容を見るなり声を漏らし、その声を聞いたベネットは手に持った紙片をザウバーへ突き返す。

「安心しろ、後でちゃんと治してやる」
 ベネットは、そう言うなりザウバーの膝下に強い蹴りを放った。

「ダーム。私は着替えてくるから、賞品を預かって貰えるか?」
 そう言って笑うと、ベネットは大会で得た賞品を小さく持ち上げてみせる。ダームは困惑しつつも商品を受け取り、小さく頷いた。

 商品を渡したベネットは、直ぐにテントへ向かおうとする。しかし、それを遮るようにザウバーは彼女の右肩を掴み、持っていた紙片について弁解しようと口を開いた。

「俺は、警告しようと、だな」
 ザウバーはベネットの前へ回り込み、彼女の両肩に自らの手を乗せる。彼はベネットの目を真っ直ぐに見、大きく息を吸い込んだ。

「着替え場を盗撮している奴が居た。この紙は、そいつが渡してきたものなんだ」
 そこまで伝えると、ザウバーはベネットから手を離し、再び大きく息を吸い込んだ。

「奴には逃げられちまったが、注意しろ。そう伝えようとだな」
「つまり、着替える時に狙われるかも知れないと?」
「そうだ。優勝者となれば余計にだ」
 そこまで伝えると、ザウバーは誤解が解けたと感じたのか、安心したように息を吐きだした。

「それで、私にどうしろと言うのだ? 注意するにしても、着替える時はどうしても無防備になる。いっそのこと、囮になって犯人を捕まえるか?」
 そこまで話すと、ベネットはザウバーの顔を見つめ、彼の反応を待った。ザウバーと言えば、ベネットの意外な考えに困惑し、続けるべき言葉を失う。

「コンテストが終了した以上、この姿でいる意味は無い。何より、私が着替え終えねば、テントを片付けられないだろう?」
 ベネットはテントへ向かって歩き始め、ザウバーは無言のまま彼女の後を追った。

 ザウバーの表情は釈然とせず、ダームは心配そうに2人の後を追っていく。ベネットが着替えの為にテントへ入ると、ザウバーは警戒するように周囲を見回した。一方、ダームは彼の指示でテントの入り口に留まり、ザウバー自身は不審な人物へ警戒するべくテントの外周に沿って歩いていく。

 ザウバーは、暫く進んで立ち止まると、下方に小さな穴が空いた場所を見つける。彼は、その内部を調べようとしゃがみ込み、片目を瞑ってその内部を除き込んだ。

「……!?」
 ザウバーがテントを覗いた瞬間、彼の眼前には湾曲した白い物体が現れ、その額を掠めた。驚いた彼が後方を振り返ると、その背中側にも白い物体は現れており、十数は現れたそれはザウバーの体を取り囲んでいる。

 この為、ザウバーはしゃがんだ姿勢のまま動けなくなり、通り過ぎる者たちから失笑を買っていた。そんな笑い声に気付いたのか、ダームは不格好なザウバーの方へ近付いてくる。

「何やってるの?」
 少年は、呆れたようにザウバーの顔を見下ろした。その声にザウバーは苛立った様子を見せるが、動くことすらままならない。

「俺に理由を聞くな」
 絞り出すように声を発すると、ザウバーは額を地面に付ける。そして、彼は大きな溜め息を吐くとダームの姿を横目で見た。

「まったく、間抜けな姿だな」
 笑いを堪えきれなくなった頃、ダームの耳には聞きなれた人物の声が届く。彼が声のした方を振り返ると、そこには着替えを終えたベネットの姿が有った。

「ベネットさん。お帰りなさい」
「いいから、早く術を」
「劣情を抱くような奴は、暫く反省していろ」
 ザウバーの声を遮るように話すと、ベネットは軽く周囲を見回した。

「と、言いたいのは山々だが、写真を撮った奴の顔を知っているのは貴様だけだしな」
 ザウバーを捕らえていた物質は消え、青年は体に付着した砂を掃いながら立ち上がる。

「誰が、そんな考えを」
「術の発動条件をそうしておいたからだ」
 ザウバーは絶句し、気まずそうに目線を泳がせる。

「とにかく、盗撮をしていた不徳の輩を見つけ出そう。証拠が有れば、出すところにも出せる」
 そう言うと、ベネットは冷笑を浮かべ、ザウバーの目を真っ直ぐに見つめる。

 ザウバーと言えば、彼女の迫力に負けたのか直ぐに頷き、問題としている人物と会った場所へ案内すると伝えた。ザウバーは、問題となった紙片を受け取った場所に到着すると、その場に留まって周囲を見回した。しかし、その瞳に目的とする人物は映らず、ザウバーは舌打ちをする。
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登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

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