新米魔法使いの一人旅・壱

文字数 1,116文字

 暖かい。
 出血が多けりゃ、体温は下がる筈……とうとう死んだか。心なしか、空を飛んでる様な気もする。体を動かしてもいないのに、風を切る感覚が有る。小さい頃、兄貴の魔法で空を飛び回った感覚と同じ。

 あの時は俺も小さくて、馬鹿みたいに興奮しまくったな。兄貴みたいに、色んな魔法を使いたいと思って……それから、ずっと兄貴の背中を追い掛けてきた。

 結局、兄貴に追い付く事は、永遠に出来なくなっちまった。それにしても、さっきから聞こえる音は何だ?
 風を切る音とは別に、一定の間隔で聞こえる音。喩えるなら、でっけえ旗を何度も振ってる様な。

 それを確かめる前に音は止み、風を切る感覚も無くなった。動けねえ上に、外からの情報が消えるのは、結構怖い。何が起きてんのか、確かめようもねえ。

 いや……微かだが話し声が聞こえる。水中に居るみたいに、上手く聞き取れやしねえが。目を開けられたら、誰が話してんのか位は分かるかも知れないのに。体が動いちゃくれねえ。

 考えてたら、話し声まで聞こえ無くなった。その代わり、軽い衝撃の後に感じる柔らかい感触。そして、ふんわりとした甘い香り。

 って痛ってえ! 背中……さっきまでなんとも無かったのに痛え。背中痛えと息も苦しいって何だ。安心すると同時に痛みが襲うってやつか。しかし、痛みで頭が冴えるのってのも何かうぜえな。さっきまでは、考えるのもままならなかったのに。

 って待て。痛みを感じるって事は、生きてんのか?

 相変わらず動けねえけど、感覚は有る。話し声も、ぼんやりながら聞こえていた。

 そう考えたら気が楽になって来た。病は気から、ってヤツだ。病気じゃねえけど。

 倒れた時に、もう動けねえと思ったけど、実は何とも……いや、やっぱり動けねえ。どこにも力が入らねえ。体に残っていた力が無くなっちまったみたいだ。とにかく……

 冷たい。

 いきなり額に生じた感覚に驚く。と、同時に目が開いていた。さっきまで、開こうと思っても無理だったのに皮肉なもんだ。

「気が付きましたか」
 誰だ?

 声色からして男、多分、初老。声のした方を見ようとするが、はっきりとは見えない。視界が、相変わらず白く霞んでもどかしい。

「無理に動かなくて良いですよ。酷い怪我をされていたそうですし」
 酷い怪我をされていた。
 なんで過去形なんだ?

「それと、念の為に医者を呼んでおきました」
 医者か……やっぱり、怪我はしたままだよな。打ち付けた背中しか痛まねえのは、不思議だったが、感覚がやられてんのか。
 酷い出血だったもんな。感覚が麻痺していても不思議じゃない。

「医者が来るまで時間が有るので、休んでいて下さい」
 ここは安全みてえだし、医者が来るまで一眠りするか。
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登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

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