子供だった頃の守り人・6

文字数 3,152文字

「アークじゃないですか。少女は一緒では無いのですか?」
 私は、今まで起きたことを伝えました。

「仕方ないですね。手続きが終わるまで、時間が掛かりますし……ルキアの家なら問題無いでしょう。私の方から、ルキアの両親に連絡しておきます」
 手続きのくだりは良く分かりませんが、ルキアの勝ちということですか。

 それから三日後、ルキアが満足したのか、手続きとやらが済んだのか、少女は孤児院に戻って来ました。最も、戻ってきたという表現は正しく無いのかも知れませんが。

「では、アーク。案内は宜しくお願いしますね。私は、教会での仕事が有りますので」
 年長者が面倒をみるのは昔からですし、事情を知るのは私ですから、司祭様も頼みやすかったのでしょう。

 孤児院の施設、バスルームや食堂……日常使う場所を案内して。そう言えば、少女の部屋について聞いていませんでした。一旦私の部屋に行って一休みしますか。

 孤児院は二人部屋が基本で、年齢によって組まれています。大体は同年代で組んでいますが、年少さんは年長と組む形で。まあ、都合良く収まらないこともありはしますが。ともあれ、小さな子が入ってきた時の為に、年長組は優先して一人で部屋を使えたりする訳で。

 さて、かく言う私も部屋を一人で使っているので、少女を休ませるには丁度良く。ただ、ベッドに脱いだものを放置してしまったのが気掛かりです。まあ、片付けるまで、部屋の外で待って貰えば良いですよね。そんなこんなで、少女にはちょっとだけ待って貰って。

 部屋に入ったら、脱いだままの服を片付けて。他は、問題無いでしょう。掃除は定期的にやっていますし、ゴミは毎朝回収する決まりになっているから問題無し。後は、少女を呼ぶだけです。

 少女を部屋に呼ぶと、少女は部屋の中を窺いながら室内に。とりあえず、椅子に座って待ってもらいましょう。と、少女の体には、ちょっと椅子が大きいですね。脚が付いていませんし。かと言って、他に休める場所は無いんですよね。

 部屋に在るのは、二段ベッドと勉強机やクローゼットが二つずつ。ベッドに座るにもそれなりに高さが有りますし、最近干していなかったんですよね掛け布団。それにしても、ただ待つと言うのは結構辛いですね。話すことも無さそうですし、そもそも話せないようですし。

 この孤児院は男ばかりで、あまり女の子と話したことが無いんですよね。だからこそ、簡単にルキアの家に預けたんでしょうか? 

 それから、どれほどの時間が経ったのか、仕事がひと段落ついた司祭様が帰ってきて。誰から聞いたのか、私の部屋にやってきました。そこで、少女の部屋について尋ねてみました。

「アークと一緒の部屋でいいじゃないですか。一人分は開いているのですから」
 いや、女の子ですよ? 小さいとはいえ、私と一緒というのは。と、聞いてみたのですが。

「いいじゃないですか。アークの部屋なら、ルキアも来やすいででしょうし。それに」
 それに?
「いえ、なんでも無いです」
 私が不思議そうな表情を浮かべていると、何故かルキアが来襲して。

「ああ、歓迎会の準備もお願いしますね」
 と言って司祭様は退室。司祭様を追いかけようにも、二人を残していく訳にもいかず。ルキアは別れたばかりだろうに少女を撫でていて。私はこれから一体どうしたら?

 歓迎会の準備をしなければならないのですが、一通り案内したとはいえ少女を慣れない場所に置いて行くのは不安。歓迎会の料理は担当の方に頼むとして、お菓子を買うには外出しなければなりませんし、少女へのプレゼントも。

「ぼーっとして無いで準備すれば? この子には私がついてるし」
 司祭様との会話が聞こえていたのでしょうか。ルキアなら悪いようにはしないでしょうし、彼女に任せて私は私のすべきことをしましょう。

 日時は、調理の方の都合を聞いて。院生には、夕食を兼ねてやるからと言えば、良いでしょう。いつもそうやっていますし。

 司祭様に、お菓子やプレゼント用の軍資金を貰いに行かねばなりません。と言うか、頼んだ時に下されば一度で済むのに。また、司祭様の行方を追わなければならないじゃないですか。

 色々と有りましたが、あれから二時間程で歓迎会用のお菓子は揃いました。後は、少女のプレゼントですね。お菓子は司祭様の部屋で預かって貰って、出直しますか。私の部屋に置くのは少女にばれますし、共有スペースに置こうものなら歓迎会の前に食べられちゃいますから。お金を預かった時に、司祭様は「暫くはここに居ますよ」と仰ってましたし、丁度良いでしょう。何を買ったかの報告も出来ますし。

 無事、報告を終えたら街のおもちゃ屋さんに。皆で遊べる系は、広間に有るので他で。と、なると女の子ですしぬいぐるみとか……残ったお金で買えるものは有りますかね? 正直、買ったことが無いので、幾ら掛かるか分からないと言いますか。

 ぬいぐるみが並ぶ棚を見れば、お高い値段がずらり。私が肩を落としながら売り場の端を見れば、寂しそうに佇む羊のぬいぐるみ。その雰囲気が、あの少女に似ているような気がして……お小遣いを足して買ってしましました。綺麗な包装もして頂きましたし、他に買いたいものも無いですし。さて、買うものも買いましたし帰りましょう。

 プレゼントを司祭様に預けて部屋に戻れば、二人の姿が……って、部屋の雰囲気が変わっているのですが。簡素であったはずのベッドに白色の天蓋が。カーテンの色まで変わって。それと、ベッドの上に洋服が沢山。

「アーク、戻ってきたんだ」
 戻ってきますよ、私の部屋なんですから。それより、この部屋は一体?

「この子が住みやすい様にしとこうと思って」
 それはそれは。しかし、ここには、私も住むと言うか、元から居たのは私と言うか。

「だって、着替えるのにこういうの有ったら便利じゃん?」
 確かにそうですが、少しは相談して頂きたかったというか。

「あと、クローゼット用のハンガーもう無いの? 折角、似合いそうなのを選んだのに、着る前に皺になられたら嫌なんだけど」
 いや、それは綺麗に畳んで仕舞えば問題無いでしょう。そういう収納場所も有りますし。ここは、教会の管理する孤児院ですし、余分なものは無い。と、ルキアに伝えて。

「じゃあ、うちから余っているやつ持って来る。それなら、問題ないわよね?」
 全く問題が無いと言えば嘘になりますが……断る理由も権限も私には無いですし。

「じゃ、ちょっと待っていてね」
 私が考えているうちにルキアは部屋を出て。そうですか、私の意見は必要無いと。まあ、いつものことなので驚きもしませんが。直ぐにルキアは戻ってくるでしょうが、その間に色々考えなければなならないようです。

 どういう速度で移動したのか、それから十分ほどでルキアは戻ってきて。黙々と少女用の服をハンガーに掛けてはしまっていきました。そして、全ての服を仕舞い終えたところで、部屋の中をざっと眺め一言。

「んじゃ、私は帰るわ」
 言うが早いか、ルキアは部屋を立ち去って。何時もながら行動が早いですね。おかげで少女と二人きりに……と、気付いたら夕食の時間では無いですか。色々とやっていて気付きませんでした。でも丁度良いですね。歓迎会は明後日になりましたが、夕食の時に少女を紹介すれば、皆もそのうちやること位分かってくれるでしょう。

 そう考え、少女を連れて部屋を出れば、そこには壁に背中を付けて待つ司祭様の姿が。

「ああ、やっぱり。ルキアが出ていくのを見かけたので、そろそろ部屋から出てくると思って。少女を皆に紹介しなければなりませんし、一緒に食堂へ行きましょう」
 そう言って微笑むと、司祭様は食堂の在る方へ歩き始めました。私は、少女の手を取って司祭様を追い掛け食堂に。
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登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

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