そして始まる謎の大会

文字数 3,539文字

 ザウバーと別れた後、ダームとベネットは大会を良く見る為にステージ前の中央付近に陣取った。その時、既に数人が大会を見る為に集まっており、興味深そうにステージを見上げている。
 二人が、それらの人々へつられる様にステージを見上げると、その上部には出場者を照らすであろうライトが四機付いていた。また、この為に作られたステージには、木製の床の上に撥水性の白い布が貼られている。

「改めて見てみると、結構大きいよね」
 ふと言葉を漏らすと、少年は目線を動かしてベネットの顔を見る。
「それだけ、大勢の参加者を見込んでいるということだろう」
 簡単に言葉を返すと、ベネットはステージ横に有るテントを眺めた。すると、既に大会の参加受付は終了したのか、テント前に有った机は消え、人通りも少ない。
 そして、二人が目線をステージへ戻した時、その周辺には五十以上もの人々が集まって来ていた。集まった者達の殆どは水着を身に纏っており、見物客を相手に稼ごうとしたのか物売りの姿も有った。
 次第にステージ前は騒がしくなっていき、それに気付いた人々は何が起きるか確かめようと集まってくる。

「今年もおっぱじめるぜ、海の漢コンテスト! 司会は俺、ヴェッツェルが担当だ!」
 そう言い放つと、彼は短く切りそろえられた髪を左手で撫で、それから左腕を伸ばしてステージ端を指示した。
「先ずは、エントリーナンバーワン! アンドリュー・ベレスフォードォォォ! エントリーも一番なら、去年のコンテストでも一番の漢だ!」
 司会の簡単な紹介が終わった時、ステージの端からは筋肉質で背の高い男が現れた。その男の年は三十台前半で、黒く生地の少ない水着を身に付けている。
 また、頭髪は綺麗に剃られており、そのせいか彼の頭は太陽の光によって輝いていた。アンドリューは、ステージの反対側まで歩いた所で立ち止まり、観客の方に向き直って胸を張った。

「お次は、ドィルク・カスタニエ! 泳ぎなら任せろ漁師の息子!」
 司会がそう言った時、ステージの端からは十代後半の男が現れる。その男は、身長は高く無いものの体つきは良く、褐色の髪は白いタオルで纏められていた。
 そして、水着は藍色をしており、ウエストから膝の少し上までを覆うタイプだった。彼は、アンドリューの隣まで歩いてから立ち止まり、観客を見下ろして頭を下げる。
「どんどん行くぞ! 次は、エントリーナンバースリー! 夜のお仕事からこんにちは、ドロワット・ドーバントン!」
 紹介された男の背は高かったが細身で、余り日に当たっていないせいか、肌色は白かった。また、水着の生地は少なく迷彩色で、彼を見た女性たちは黄色い声を上げる。

「そして、四人目! 大人の落ち着きが武器かも知れない? シリル・フォンテーヌ!」
 すると、ステージの端からは三十台後半の標準的な体型の男性が現れた。彼は、水色をした水着を身に纏っており、彼がステージを歩いていると、観客の中から名を呼ぶ声が聞こえ、シリルはそれに応えるように右手を振った。
「そろそろ中盤、エントリーナンバーファイブ! サンク・ルフェーヴル! コンテストだと言うのに、鍛え抜かれた体を見せてはくれないのかー?」
 司会の言うとおり、サンクは全身の殆どを覆う水着を着用していた。また、水着が小さいのか、太っている訳では無いのにその生地は彼の肌にぴったりと張り付いている。

「さて、六番目のエントリーはシルヴァン・ミュラトール! 近くで海鮮料理を振る舞っているせいか、肉付きが良いが大丈夫かー?」
 その紹介にシルヴァンは苦笑しながらステージに上がった。彼は、司会が言ったように、ステージに居る他の出場者より肉付きが良い。
「そして、お次はエントリーナンバーセブン! セスト・ベニーニョ! 小粒でもぴりりと辛いはず!」
 この時、他の参加者より頭一つ分は背の低い男が現れ、どこか悲しそうに苦笑した。彼は、体格もさほど良くなく、縦縞の水着は膝下迄を覆っている。

「えー、お次はエントリーナンバーエイト、ヨーゼフ・クラウゼヴィッツ! 洋服店を経営しているせいか、珍しい衣装で登場だ!」
 その出場者を見た瞬間、観客からは笑い声が漏れ出した。それと言うのも、彼が身に付けていたのは一枚の布で、それを器用に使って隠すべき場所は隠してある。とは言え、その前部はひらひらと風に靡いて不安定で、後方はかなり無防備な状態にあった。

「お次は九番目、ノーマン・ベーレント! 幾つもの命を救ったライフガードォォォ!」
 司会の紹介と共に、ステージ上の誰よりも背が高く日に焼けた男が姿を現す。彼は、その肌色とは対照的な白い水着を着ており、泳ぎやすさを考慮してか、その生地は少なめだった。
「さーて、最後のエントリーは、ザウバー・ゲラードハイト! 飛び込み参加みたいだが、大丈夫かー?」
 司会がそう言い放った時、ダームは背伸びをしてステージの上を良く見ようとした。すると、ステージの端からは見慣れた仲間が現れ、彼は丈の短い水着を着用している。彼の体格は参加者の中では細めで、そのせいか少年は踵を地面に付けて息を吐いた。

「なんか、勝ち抜ける気がしないかも。なんて言うか……見た目で負けてるって言うか」
 それを聞いたベネットは微苦笑し、自らの考えを話し出す。
「まあ……否定は出来ないな。奴は、魔法の腕は良いが体力面では不安がある」
 そう返すと、ベネットはゆっくり息を吸い込んだ。
「だが」
「さーて! 全員出揃ったところで一回戦の説明だ!」
 ベネットは、話を続けようとしたが、司会が話し出した為にそれを止める。そして、ダームと共に司会者を見上げ、そのまま続く言葉を待った。

「初めの戦いは早食い! 海の男なら、アツアツの海産物を飲むように食える筈だ!」
 司会が言い放った時、ステージの両端からは尻側にスタッフと印刷された水着を着た者たちが現れる。彼らは、それぞれに七輪や大きな鉄板を持っており、そこからは白い湯気が立っていた。また、彼らの後から来たスタッフ達は、黒い料理の乗った大皿や、人の頭程もあるボトルを持ってステージに乗った。
 彼らは、持参した物を出場者の前に置くとステージ前から飛び降り、素早く次の作業に移っていく。そんな中、司会は参加者の前に並べられた物を指示し、大きな声で話し出した。
「よーく聞け、参加者共! まーるい七輪の上にはアワビやサザエが豪勢に乗せられている。ワイルドに穿り出してむしゃぶりつけ!」
 そう言った所で息を吸い込み、尚も司会者は説明を続ける。

「直前まで熱せられていた鉄板にはマグロステーキがどっさりだ! 骨ごと食える小魚も乗っているから、残さず食えよ! 残したら、これに掛かった材料代全額負担だ! 心して掛かれ!」
 そう司会が言った時、ステージ下に集まった者たちからは笑いが起こった。この際、ダームは不安そうにザウバーの姿を見上げ、それから目を瞑って息を吐いた。
「そして、数人前はあるスパゲッティィィー! 海の幸たる烏賊を具材に、烏賊の墨で真っ黒に染めてある。どうせ水着なんだ、汚れなんて気にすんな!」
 司会がそこまで言った時、全てを並べ終えたスタッフがステージ上から消えた。この為、司会は大きく口角を上げ、楽しそうに言い放つ。

「水もちゃんと用意してやった! それもちゃんと飲んで、全部を腹に詰め込んだら両腕を伸ばして叫べ! 最後に残った二人が負けだ! じゃあ、始めるぞー? スリー、ツー、ワン……ゴォォォォ!」
 その合図とともに、参加者達は用意された料理を食べ始めた。彼らが食べる速さや初めに選んだ料理はばらばらだったが、一人として軽い気持ちの者は居なかった。
「さあ、野郎共が食べ始めた所で協賛者の紹介だ! 今回、使われた食材の殆どはカダオ水産から! 匂いを嗅いで腹が減ったら、そこで新鮮な魚が買えるぞー?」
 それを聞いた者たちは顔を見合わせ、司会者は参加者の方へ顔を向ける。
「そろそろ、鉄板の上が空になりそうな奴が居るようだ」
 そう言うと、司会は一番目の参加者に近付いて行く。

「流石は優勝候補、アンドリュー! 食べる勢いが衰える様子すらない」
 司会の言う通り、アンドリュー用の鉄板には小魚が数えるほどにしか残っていなかった。彼は、程無くしてそれを食べ終え、未だに熱せられたままの貝類に手を伸ばす。
「おおっと! お隣は貝を食べ終えたようだ。しかし、貝がアツアツのせいか水が殆ど無くなっているが大丈夫かー?」
 その話にドィルクは悔しそうな表情を浮かべる。しかし、彼は何を言うことも無く、鉄板の上の料理に手を付けた。
「さーて、今のところ手が止まった奴は居ないようだな。だが、それも何処まで続くかー?」
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登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

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