乳成分が多い程アイスは溶けやすい

文字数 3,947文字

「アイスの味は苺、林檎、桃の果物系に加え、バニラとチョコを用意しました」
 参加者の食べ方は様々で、先端を齧る者も居れば、アイスを横から舐める者も居た。

「ミルクとチョコは溶けやすいので気をつけて下さいね」
 司会者は参加者の状況を観察する。すると、アイーシャは既に1本目を食べ終えており、隣のツヴァイも始めのアイスを殆ど食べ終えていた。

「アイーシャ選手、早い。それを追うのは、ツヴァイ、エレナ、ルフィエの三選手」
 司会が話した時、アイーシャは二本目のアイスを銜えこんでいた。彼女が銜えたアイスは瞬く間に細くなっていき、それを見た観客は歓声を上げる。

「ルフィエ選手、頭は痛くならないのでしょうか?」
 話に出たルフィエは、両手にアイスを持ち、それへ交互に齧り付いている。

「アイーシャ選手、既に半分を食べ終えております。流石は、昨年の女王というところでしょうか」
 司会者の女性が言い終わった時、アイーシャは三本目のアイスを殆どを食べ終えていた。

「代わってマリー選手とエルフェ選手。一本目を食べておりますが、挽回のチャンスは有るのでしょうか」
 その時点で、マリーとエルフェ以外は少なくとも1本を食べ終えており、上位四名以外の力は拮抗していた。観客の目線はアイーシャへ集まっており、彼らはいつ全て食べ終えるかを待っている。

「ルフィエ選手、追い上げて来ております。一位になる可能性が有るかも知れません」
 観客の目線はルフィエへ移り、それに気付いたアイーシャは顔をしかめた。

 ルフィエは二本のアイスを食べ終えており、両手に半分ほど食べ終えたアイスを持っていた。アイーシャは、彼女に対抗する様に食べる速度を上げ、素早く最後の一本へ手を伸ばす。

「ルフィエ選手に続きツヴァイ選手も着々と食べ進んでおります」
 司会者が淡々と実況を続けているうちに、アイーシャは最後の一本を減らしていき、ついに一口程を残すのみとなった。

 そして、アイーシャは棒に残ったアイスを舐めとると、空になった容器を持って立ち上がる。彼女は、その容器を高々と掲げると、観客を見下ろしながら笑みを浮かべた。観客の視線は自然とアイーシャの元へ集まり、彼女を称える声があちこちから発せられた。

「アイーシャ選手、全てのアイスを食べ終えました」
 司会者は直ぐに状況を説明し、アイーシャは誇らしげに胸を張る。

「おっと! ルフィエ選手、ツヴァイ選手も残り一本。若干ながらルフィエ選手がリードしています」
 この時、ルフィエは手に持ったアイスの半分を、ツヴァイは一口分をそれぞれに食べ終えていた。

 ルフィエは、司会者の声に後押しされたのか、残ったアイスを横からかじると、次々に胃の中へと押し込んでいく。
 彼女は、最後の一かけを口に含むと、直ぐに立ち上がって自らの前に置かれた容器を手に取った。

「ルフィエ選手。アイーシャ選手に続き、二回戦進出決定です」
 ルフィエは、司会者の声へ応える様に空の容器を頭上に掲げ、多くの観客に見えるよう左右へ何度か動かした。

「それに続くはツヴァイ選手」
 観客達がルフィエの完食で盛り上がっている間に、ツヴァイは5本目のアイスを食べ終え、乱暴に口元を拭いながら立ちあがった。彼女は、直ぐに脚を肩幅程に開くと、自慢げに空の容器を持ち上げてみせる。

「さて、彼女達に続くのはフィーラ、エレナ、ベネットの3選手」
 司会に名を挙げられた3人は、4本目のアイスに手を伸ばしており、食べる速さは殆ど同じであった。一方、エルフェは1本しか食べておらず、手に持ったアイスは日光の暖かさを受けて溶け始めていた。エルフェは、必死に溶けて落ちそうになったところを舐めとっていったが、段々とそれも覚束なくなっていく。

 そして、とうとう溶けたアイスは落下を始め、そのままエルフェの胸元へと落下する。彼女は、その刺激に反応するように体を震わせ、胸に付着した白い液体を見下ろした。そして、直ぐに手に持ったアイスへ目線を戻すと、意を決したように残っている全てを口に押し込んだ。

「エルフェ選手。一気にアイスを口に含みましたが、ここから挽回出来るのでしょうか?」
 エルフェの行動に気付いたのか、司会は彼女の方へ向き直る。

「あ、言い忘れていましたが、零したものも食べないと失格となります」
 エルフェの瞳には涙が浮かび、細い指先は微かに震えている。

「と……フィーラ、エレナ、ベネットの3選手。とうとう残り一本」
 慌てたように話すと、司会者は3人の選手の顔を順に見つめる。彼女たちは、既に5本目のアイスを食べ始めており、その速度は拮抗していた。

「彼女らに続くのはルゲニア選手」
 ルゲニアは4本目のアイスを食べ終えようとしている。そして、司会が話をしている間に、フィーラとエレナとベネットは、それぞれに最後の1本を半分ほど食べ終えていた。その3人は、ルゲニアを振り切ろうとしてか、食べる速度を早めていき彼女達を見た観客は楽しそうな声を上げる。観客の声に後押しされてか、彼女達の食べる速度は更に上がり、それぞれにあと一口を残すのみとなった。

「エレナ選手、完食です!」
 司会は、エレナが立ちあがった瞬間に声を発し、それへ反応するように観客は彼女へ目線を向けた。その間に、ベネットとフィーラもアイスを食べ終え、直ぐに容器を持って立ち上がる。

「ベネット選手、フィーラ選手、共に2回戦出場決定です」
 フィーラは観客の声へ応える様に手を振り、ベネットは安心したように息を吐き出す。
 ダームは、ベネットが勝ち進んだことに対して嬉しそうな笑顔を浮かべ、彼女に向って大きく手を振ってみせる。しかし、ベネットは彼の仕草に気付かなかったのか、ダームに手を振り返すことはしなかった。

「ルゲニア選手、ついに完食いたしました。これで、2回戦へ進めるのは後3人となります!」
 ルゲニアの顔は青ざめており、左手で気だるそうに頭を押さえている。それを見た人々の幾らかは心配そうな表情を浮かべ、彼女を励ます声もちらほらと上がっていた。

「残るのは、ライラ、マリー、ルビア、リリス、ツェーラ、エルフェの6選手」
 司会は6人の状態を次々に見、彼女たちの進行具合を確かめる。この時、ライラとルビア、ツェーラは4本目を食べ終え、それにマリーとリリスが続いていた。

「単純に考えるなら、ライラ選手とルビア選手、ツェーラ選手が勝ち進むのでしょうか?」
 司会者は、言いながら二人の姿を確認し、それからマリーとリリスへ目線を動かす。

「ですが、マリー選手やリリス選手にも可能性は有ると思われます」
 マリーとリリスは、既に最後のアイスへ手を伸ばしており、食べる速度を速めれば勝ち進むことも不可能では無かった。

「リリス選手、追い上げております。このままの勢いでいけば2回戦出場も夢ではありません!」
 それを聞いたライラは食べる速度を早め、ツェーラもまた早めようとしていた。

 しかし、ツェーラは無理にアイスを詰め込もうとしたせいか、苦しそうに咳き込み始める。その間も、リリスやライラは食べる速度を緩めず、ついに一口を残すのみとなっていた。

「リリス、ライラ、ルビア選手。なんと同時に完食です! これで、2回戦出場の選手は全て決定いたしました!」
 そんな司会の言葉にツェーラは唇を噛み、エルフェは肩を落として涙を流した。
 反面、リリスは安心したような表情を浮かべ、そっと観客の姿を見下ろしている。

「ライラ選手、マリー選手、エルフェ選手は残念ですが、ここで退場です」
 ライラとマリーとエルフェは静かに立ち上がり、ステージの端へ向かっていった。3人はステージを下りると、そのままステージ横に設置されたテントへ入っていく。

 同時に、何人かの男性がステージ上へ上がり、アイスを入れていた容器や残った棒を素早く回収していった。

「では、2回戦について説明いたします」
 司会の女性は、言いながらステージ下を見回し、それから出場者の顔を一人一人見つめる。

「2回戦は、このステージを飛び出し、海の中で戦って頂きます」
 そう言うと、司会者は楽しそうな笑みを浮かべ、腕を前方と向けて真っ直ぐに伸ばした。

「3回戦へ進めるのは8名。進める人数が多いからって気を抜かないでくださいね」
 彼女の言葉にステージ前に集まった者達は笑い出し、それにつられてか出場者達も笑みを浮かべた。

「対戦方法はいたって簡単。海の中に撒かれるボールを多く獲得した方が勝者となります」
 司会は、胸元に手を入れると、そこから金色のボールを取り出し、高々と掲げて見せる。ボールは金柑程の大きさで、その表面はつるつると滑りやすくなっている。そのボールは太陽の光を受けて輝き、目を細めなければ眩しくさえあった。

「これから、これと同じボールを海へ投げます。200個は投げるので、出来るだけ多く集めて下さいね」
 そう言うと、司会者は手に持ったボールを投げ、そのボールはゆっくり観客の足元へ落ちていった。

「では、出場者の皆さんは、私の後に付いてきて下さい」
 そう言うと、司会者は右手を上方へ伸ばし、その存在を強調する様に大きく左右に振った。彼女は、ステージの右端に移動すると、砂浜へ降りて後方を振り返る。すると、それへ反応するように参加者達も砂浜に降り、司会はゆっくりと海の方へ近付いて行った。彼女らの移動と共に観客の視線も動き、その流れでベネットの姿を見失ったダームは不満そうに声を漏らした。

 海岸には、何時の間にか小さな旗が刺さっており、それぞれが膝の高さ程ではためいている。旗と旗の間隔はほぼ均等で、おおよそ成人男性の身長程の広さを有していた。その旗はどれも青い色をしており、その数は勝ち残った選手と同様の10である。
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登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

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