子供だった頃の守り人・8

文字数 2,824文字

 それから時間が流れ、少女も孤児院での生活に慣れてきた頃のこと。私達は、ルキアに付き合わされて買い物に行くことに。

 少女を連れてルキアの元に行けば、二人で御揃いのものを買ったりして。喉が乾いたら、御手頃な値段のカフェに入ったりして。楽しく無い訳ではありませんが、こう、何と言うか、どの店でも私が浮いているというか。少女のことを思ってだとは思いますが、可愛い系のお店にばかり……しかも、話しかけるのは少女ばかりで、かと言って私が帰るのは許されなくて。その上、二人分の荷物を持たされて。まあ、ルキアのおかげで少女の表情に変化が出てきた様ですし、我慢しますか。

 ルキアが満足した頃、既に日は傾いていて。私達はそれぞれの居場所へ帰ることにしました。帰り道、私はルキアを家まで送ろうと申し出ましたが、あっさり断られました。それより、少女を守ってあげなさいと。

「何、あれ?」
 ルキアの指差す先には、見たことも無い生き物。その生き物は、こちらを見ながら近付いて来て。そして、犬を大きくした様なそれは、牙を剥き出しながら、一番小さい少女を見つめて。

「逃げるわよ!」
 ルキアはひるむことなく言い放って。私達は、必死に教会に向かって走りました。室内へ逃げるにも、開いている場所で無いと。ルキアの家より教会は近くて、何時でも入れて。ただ、その扉は軽く無くて。
 私は、扉を押さえて二人に入って貰おうと思って。でも、その間に距離を縮められていて。

「危ない!」
 振り返れば、獣から守る為に少女を抱くルキアの姿が。そして、鋭い爪がその背中に。
「早く、この子だけでも中に!」
 なんで、なんで、その状況でルキアは落ち着いて。

「ギャン!」
 獣は声をあげて、ルキアから離れて。それで、動ける様になったルキアは少女を抱えて教会の中へ。
 私達を襲おうとした生き物は、目を瞑って蹲っていて。

「アークの馬鹿! 早く入って閉めなさいよ!」
 声がすると共に、ルキアの手が私の手を掴んで。そして、私は手を引かれながら教会の中に。
「馬鹿! 普段からとろいとろいと思っていたけど、こういう時位本気出しなさいよ!」
 気持ちを落ち着けるよりも前にルキアの罵声が……でも、その目には涙が溜まっていて。それは、とても珍しいもので。

「本当、アンタは何時も何時も」
 ルキアは、そこまで言った所で膝を付き、話すことも止めて。いや、それより背中の傷は? と、聞けば
「え? 何のこと?」
 不思議に思った私がルキアの背中を見れば、服は破れているものの血は出ていなくて。ぎりぎりで、無傷ってことなんですかねえ?

「って、あれ?」
 言って、辺りを見回すルキア。
「あの子は? ちゃんとこの中に入った筈なんだけど」
 ルキアの言うとおり、見える範囲には少女が居なくて。でも、少女は私より先に入った筈で。

「私は、教会の奥を探してきます。ルキアは少女が戻ってきた時の為にここに」
 ルキアは、珍しく私の意見に頷いて。私は、驚きつつも、少女を探すことになりました。教会の奥は、不思議なくらい静かで。先ほどの騒動が嘘のようで。でも、何か凄く不安で。良く無いことが起きていそうで。

 教会内に人が居ない時間でも無いのに、少女どころか誰にも出会わなくて。そのまま教会の奥の奥へ来てしまって。
 そうしたら、突然壁か途切れている場所が見えて。でも、その中は良く分からなくて。なのに、私は行かなければならないような気がして。怖さよりも、行かなければならないという気持ちが段々と大きくなって。気付いたら、私はその空間の中へ足を踏み入れていました。

 不思議な小道を進んで行けば、その先には私の部屋より大きい空間が。そして、床には見たことも無い文字が書かれていて。その床の上には子供が倒れていて。

「大丈夫ですか?」
 私が呼びかけても反応は無く。駆け寄って体を起してみれば、それは先ほど居なくなった少女で。私は、とにかくここを出ようと少女を抱きかかえました。病院に連れていくにしろ、部屋で休ませるにしろ、一旦ここから出なければどうにもなりません。

 私が少女を抱えてその場所を離れれば、今まで有った通路は無くなって。その代わり、他と変わらない壁が続いていて。気になりはしますが、先ずは少女が心配です。ルキアも一人で置いてきてしまいましたし。
 ルキアの元に戻っても、少女は気を失ったままで。それを見たルキアは心配そうに少女の額に手を当てて。

「熱は無いようだけど……気を失っているし、放っておく訳には……でも、病院へ行くには外に行かなきゃだし」
 ルキアは、そう言うと教会の出入り口を見て。
「私の部屋なら、外に出なくても行けます。ベッドに休ませて、司祭様に相談をすれば」
「言うの遅いわよ、馬鹿」
 え、そう来ます?

「とにかく、心配だから私も付いて行く。外に出るのもなんだし」
 そう言うや否やルキアは歩きだして。でも、教会から外に出ずに孤児院へ行く方法は知らなかった様で。結局、私が先導する形で部屋に向かいました。
 部屋に戻ったら、先ずは少女をベッドに寝かせ……後は司祭様を呼びに行きたいのですが。

「私がみているから、アークは誰か大人の人を」
 ルキアは、心が読めるんじゃないかって思えてきました。ともあれ、司祭様を探しに行かないと。

 幸い、孤児院の中に司祭様は居て、開口一番に「アーク、探したんですよ。街に魔物が入ったというのに、所在が確認出来なかったのは二人だけだったので」と。
 どうやら、探されていたのは私達の方だったようです。

「それで、もう一人」
「それです、司祭様。早く私の部屋に!」
 不思議と言葉が溢れ出して。司祭様は私の話に目を丸くして。

「何かあったようですね」
 言って、私の部屋へ向かい始めました。直ぐにそれを追い、少女が休んでいる部屋へ。部屋に入った時、少女は気を失ったままで。それを見た司祭様は直ぐに少女のそばに駆け寄って。

「まさか、魔物に襲われたのでは」
「それは多分無いの。その前に逃げ込めたし」
 ルキアは司祭様の声を遮ってしゃべり、目線を私に向けて。

「アーク、この子が倒れていた状況」
 話を聞いた司祭様の目線もこちらに向き、見たことを出来る限り詳しく伝えました。すると、私の話を聞いていた司祭様の表情は段々と曇っていきました。

「アーク。とりあえず、少女が倒れていた場所に案内して下さい」
 その頼みに私は頷き、司祭様はルキアの方に顔を向けて。
「ルキアは、このまま付き添ってあげて下さいね」
 それを聞いたルキアは頷き、私達は二人を部屋に残して少女が倒れていた場所に向かいました。少女の居た場所に向かえば、司祭様の表情は曇っていって。そして、不思議な空間が在ったことを説明すると「これは、私達だけの問題では無いようです」「私の部屋に行きましょう。ここでは話せないことがあります」と。
 その後、私達は司祭様の部屋へ行って、司祭様は内側からしっかりと部屋に鍵を掛けて。
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登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

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