子供だった頃の守り人・5

文字数 3,124文字

 いまいち状況の飲み込めないまま、ルキアに付いていくこと十分程。ルキアの家へ着きました。

「鍵、鍵……と」
 言いながら上着のポケットを探り、鍵を出すルキア。結構動き回る方なのに、落とさないのが不思議です。

「さ、入った入った」
 大きくドアを開けながら話すルキア。私は、少女を先に行かせてから家の中へ入りました。

 玄関に入れば甘い香り。どうやら、玄関に花を飾っているようです。花の種類は分かりませんが、良い香りだと思います。

「ちょっと、アーク。詰まって無いで進みなさいよ。アンタ、無駄にでかくて邪魔なんだから」
 分かりました。分かりましたから腰を思い切り叩くのは止めて下さいってば。ともあれ、少し先に進みまして、その後はルキアに案内されるまま上階へ。案内された部屋に入ると、そこは意外にも可愛らしい内装。

「さて、アンタはここで待ってて」
 そう言うや否や、少女を連れて部屋を出るルキア。何をしに行くかは分かりませんが、物凄く手持無沙汰です。いつまで待つか分からないので、とにかく部屋の状況だけでも見ておきますか。もっとも、何かに触ったりしたらまずいので眺めるだけで。

 柔らかな光が差し込む窓には桃色のカーテン、勉強机には……意外と参考書が揃っていますね。本棚にも真面目そうな本が揃っているようですし。流石は医者の娘ということなんでしょうか。普段の様子から、真面目な印象は殆ど無いのですが。

「アーク?」
 声に気付いて振り向けば、やや怒った感じのルキアが一人。

「人の部屋をじろじろ見て……アンタ、そんな趣味有ったんだ」
 はい?

「ああ、そうそう。あの子ならお風呂に居るわよ。体を洗ってあげようと思ったけど嫌みたいだったから戻ってきた」
 言って、私の前に座るルキア。まあ、今の状況は何となく分かりました。

「やっぱ、女の子が汚れたまんまじゃいけないと思うのよ」
 まあ、私もそうは思いますが。

「それに、あの子の髪。いじり甲斐が有りそうじゃない?」
 いや、いじり甲斐って。

「聞いてる?」
「聞いてますって」
 一方的に話すから、相槌も打てないだけで。そんな会話は十分続き、下の階から物音が。

「私ちょっと見てくるわ」
 そう言って部屋を出るルキア。私は、残っていた方がいいんでしょうね。私では、ルキアには追いつけませんし。と、目を瞑って溜め息を一つ。階段を上る足音が聞こえてきました。

「おまたせ」
 声と共に入ってきたのは、楽しそうな笑顔を浮かべるルキア。そして、彼女に隠れる様にして立つ少女。少女の髪はまだ濡れているようですが……服は、何と言うかドレスみたいですね。ルキアがそういった服を着ていた印象は、まるで無いのですが。

「はい」
 言いながら、私に大きなタオルを投げるのはルキア。

「私は、飲み物を持ってくるから。その間よろしく」
 って、もう部屋を出てしまいましたし。まあ、とりあえず少女の髪を乾かさないと。その為のタオルでしょうし。

 少女は、初めは躊躇っていたようですが、徐々に近付いて来てくれました。さて、風邪をひかないように髪を。

「おまたせ。って、本当、アークってのろいわね……早く乾かさないと可哀そうでしょ」
 そう言うと、ルキアは持っていたジュースを机に置いて。そして、私が持っていたタオルを奪って、少女の髪を乾かし始めました。私に鈍いだのどんくさいだの言いながら。

「大体、こんなもんかしらね」
 言って、ルキアはタオルを畳み、机の上に。そして、代わりに持ってきたジュースを少女に差し出します。

「はい。口に合うか分からないけど、お風呂に入ったから喉渇いているでしょ?」
 少女は軽く頷くとそれを受け取り、一口。
「さて、私も喉が渇いたし」
 言って、机に置かれていたもう一つのジュースを手に取るルキア。って、もう一つと言うことは。

「ああ、ごめんごめん。アークの分を忘れてたわ。ま、どの道二人分しか冷えて無かったんだけど」
 楽しそうに笑うルキア。帰った方が良いんですかね私?

 ……ん?
 私のわき腹を突いてくる小さな手が。なんでつつくのかと目線を落とせば、ジュースを指し出す少女の姿が。

「気を使わなくて良いですよ。私は喉が渇いていませんし」
 少女は頷いて、差し出していたジュースをひっこめました。

「ま、喉が渇くようなことはしてないしね、アークは」
 ルキアは、そう言うとジュースを飲み干し、机の上へ。それにしても、なんでこうまで言われなければならないのか。

「あ、そうだ」
 言って、机の引き出しを開けるルキア。一体、そこに何があるというのでしょうか?
「折角だし」
 ルキアが取り出したのはリボン。それも、薄紅色の。少女に着せた服もそうですが、ルキアには似合わないと言うか。

「ちょっと、アーク。何か失礼なことを考えて無い?」
「え? いや考えていませんよ」
 鋭い。女性の勘は鋭いと聞きますが、ルキアもなかなか。

「本当に? 何か、腑に落ちないないんだけど」
 いや、落として下さい、どさっと。
「ま、あんたが何を考えようとどうでもいいけど」
 言いながら、少女の背後に回るルキア。少女の髪は長いですし、似合うでしょうね。少なくとも元の持ち主より。

「かーんせーい」
 そう話すルキアの前に、可愛らしいリボンを付けられた少女が。やっぱり、似合いますね。
「ふふふ、ルキア姉さんの目に狂いは無かったってね」
 それは認めますが、姉さんって。

「うーん」
 ルキアは、口を開けずに言って、少女の姿をあらゆる方向から眺め……抱きつきましたね、前方から。
「あーもう、可愛い可愛い可愛いーい!」
 はい?
 こんな性格でしたっけ?

「ああ、もう。この子が妹だったら、毎日でも可愛がってあげられるのに」
 ん?
「ほら、うちって兄弟が男ばかりで、私が末っ子じゃん?」
 まあ、聞いたことはありますが。

「だから、昔っから妹が欲しかったんだよね」
 いやいやいや、だからって。
「だから、暫くこのままで」
 ルキアの背中に隠れ、少女の表情は見えません。動かないってことは満更でもないのか、動けないだけなのか。

「満足、満足」
 そう言って少女から離れるルキア。心配するまでも無かったようで。少女の顔が見える様になっても、あまり表情の変化が無いので分かりにくくはありますが。

「で、アークはなんでまだ居るの?」
 なんでって……元々、少女の世話を頼まれたのは私なのですが。
「いや、病院に」
「なら、アークの役目は終わりじゃん」
 まだ言い終わってすらいないのですが。

「さ、出ていった出ていった。後は女の子同士の密談の時間」
 言いながら私の背中を押すルキア。容赦無いですね、今に始まったことではないですが。ここは一旦戻って、司祭様に意見を仰ぎましょうか。

「分かりました。一人で歩けますから押さないで下さい」
 私の返答に、渋々押すのを止めるルキア。少女のことは心配ですが、ルキアと話すだけ時間の無駄の様ですし。

「のろのろ歩かない。鍵を閉めるの私なんだから」
 分かりましたよ、転ばない程度に速度を速めますって。だから、押さないで下さい。

 ルキアの家を離れ、教会に到着しました。とにかく、司祭様を探さないと。礼拝堂には居ない様ですし、応接間は空。となると、個室に戻って事務仕事をしているか、孤児院の何処かに居るか。個室は気軽に赴ける場所では無いですし、先ずは孤児院内を回ってみますか。

 広間、食堂、調理場、図書室……居ませんね。庭に回って、そこから司祭様の個室に向かいますか。庭に居る確率は低いですが、個室への近道が有りますし。最も、窓側からの接近になりますが、呼びかけることは出来るでしょう。

 庭に出ると、意外にも花壇の前に司祭様の姿が。とにかく、呼びかけてみますか。
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登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

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