トンデモ戦闘だが、だからこそ運動神経がものを言う

文字数 3,083文字

「それでは、3回戦を開始します! 最初の対戦は、アイーシャ選手対ツヴァイ選手。ボールの合計数は38なので、武器はブレードです」
 司会の声を合図とするように二人の女性がステージ裏から現れ、アイーシャとツヴァイにはブレードと盾が手渡される。試合で使う物を渡された2人は、盾を装備すると、青色の棒を握りしめて司会の言葉を待った。また、2人の頭や胸元には、彼女等へ盾を渡した女性によって素早く風船が装着されていく。

「準備が出来ましたら、アイーシャ選手はステージに向かって左、ツヴァイ選手は向かって右にある梯子を昇って下さい」
 アイーシャとツヴァイは、それぞれに指示された場所へと向かっていく。
「梯子を上りきった先には狭いながらも足場が有りますので、そこで試合開始の合図を待って下さい」
 アイーシャは、()に手を掛けると慎重に梯子を昇って行き、ツヴァイは上り慣れているのか、軽々と梯子を昇っていった。その後、一足早く足場へ到着したツヴァイは、脇に抱えていたブレードを右手に持ち、そのままアイーシャの到着を待つ。数秒後、アイーシャは彼女の対面に現れ、右手に持ったブレードを数回振ってみせた。

「二人の準備が整ったようですので、カウントを開始させて頂きます」
 その声に、アイーシャとツヴァイは対戦者の顔を見つめ、緊張した面持ちで司会のカウントを待つ。

「5……4……3……2……1……スタート!」
 合図と共にツヴァイは眼前の棒へと跨り、アイーシャはゆっくりと前方へ進んだ。
 ツヴァイは、素早くアイーシャの方へ進んでいくと、手に持ったブレードを乱暴に振り回していく。その攻撃は、全く対戦者へ届いていなかったが、振り回すことによって生じる音はアイーシャに前進することを躊躇わせていた。

 いつしか、ツヴァイの攻撃がアイーシャへ届く程になった時、アイーシャは反射的に盾で顔を覆った。

「アイーシャ選手、これはピンチか?」
 司会の声に、アイーシャは不機嫌そうに目を細め、観客から顔を逸らして舌打ちをする。そして、彼女はツヴァイが右腕を振り下ろした瞬間を狙い、向かってくるブレードへと盾を勢い良くぶつけた。すると、ツヴァイが持っていたブレードはその勢いによって弾かれ、たちまちステージの上へ落下する。

 その瞬間を見た観客は、アイーシャの雄志に沸き立ち、会場には彼女を褒め称える声が木霊する。一方、武器を失ったツヴァイは動揺した様に顔を左右に動かし、その様子を見たアイーシャはここぞとばかりに反撃に出る。

「やりました! 流石は去年の女王、アイーシャ・デンドビューム。その実力は本物の様です」
 その言葉を聞いたアイーシャは余裕の笑みを浮かべ、慌てて後退し始めたツヴァイの後を追っていく。ツヴァイの動きは速かったが、後退するにも限度があり、ついには足場部分に大腿をぶつけてしまう。

 それにより完全に混乱したツヴァイは、思わず後方を振り返ってしまい、それは結果的に敵から視線を逸らすこととなってしまった。ツヴァイが、再びアイーシャの方を向こうとした時、既に頭部へ付けられた風船は割られており、彼女は力無く体を後ろへ倒す。

「準々決勝1戦目は、アイーシャ選手の勝利となりました!」
 そう話す司会の声に、アイーシャは楽しそうに笑い、ツヴァイは口を尖らせながら梯子を下り始めた。そして、アイーシャは慎重に後退していき、足場へ到着すると恐々と梯子を下りていく。アイーシャが梯子を下り始めた頃、既にツヴァイは砂浜へ足をつけており、肩を落としながらテントへ向かっていた。

「次の戦いは、ルゲニア選手対フィーラ選手。ボール獲得数の合計は31ですので、銃で戦います」
 司会は、アイーシャが梯子を半分程下りたところで言うと、ルゲニアとフィーラに目配せをする。2人は、既に対戦の準備を終えており、緊張した面持ちで司会の言葉を待っていた。当の司会は、アイーシャが地面に下りた事を確認すると、ステージ上を見ながら口を開く。

「ルゲニア選手は向って左、フィーラ選手は右にある梯子を上って下さい」
 その声を聞くなり、ルゲニアとフィーラは指定された場所へ向かっていく。そして、彼女等が足場へ到着すると、司会は先ほどの戦いと同様にカウントを始め、ルゲニアとフィーラの戦いが始まった。

 ルゲニアとフィーラは、慎重に前進すると射程距離より多少離れた位置で止まり、互いの出方を窺った。

 2人の睨み合いは十数秒ほど続いたが、ルゲニアは勢い良く前方へ進むとフィーラの胸元へ銃を向ける。ルゲニアは素早く引き金を引くが、フィーラが盾を胸の前へ移動させた為に勝敗はつかなかった。

「ルゲニア選手、おしい!」
 司会が言い終わらぬ内に、フィーラは盾を装備した左手で体を支え、直ぐにルゲニアの方へ銃を向ける。しかし、ルゲニアが素早く後退して射程距離を離れた為、フィーラは銃を使うことを止めた。2人の距離が出来たことにより、ルゲニアとフィーラは睨み合いを始め、会場には緊張した空気が満ちていく。

「っと、動きが止まりました。この試合、一体どうなってしまうのでしょうかー?」
 司会の言うとおり、ルゲニアとフィーラは睨み合ったまま動かず、その為か会場の歓声は消えている。降り注ぐ日差しと緊張で、2人の選手は滝のような汗を掻いており、徐々にルゲニアの顔色は悪くなっていった。

 彼女は、何とかしてフィーラに勝とうと考えている様であったが、武器となる銃を掴む手は震えている。それでも、ルゲニアは前方へ進み、フィーラに攻撃を当てようとした。しかし、またしてもフィーラに攻撃を防がれ、ルゲニアは盾で胸を覆いながら後退する。

「うーん、惜しい。なかなか当たりませんね」
 ルゲニアは、そんな司会の言葉に唇を噛み、銃を持つ手に力を込める。その後、彼女は銃をフィーラへ向けるが、その勢いでバランスを崩してしまったのか、ルゲニアの体は大きく右に傾いてしまう。ルゲニアは、必死に左手で体を支えようとするが、それよりも前にフィーラに胸を撃ち抜かれてしまった。彼女は、その刺激に体を振るわせると、左手を滑らせ落下を始める。

「救護班の方、ルゲニア選手の状態を確認して下さい」
 司会の声が聞こえたのか、テントからは白衣を身に纏った者がステージへ向かった。フィーラは、ルゲニアの様子を心配そうに見下ろし、それから司会の顔を見る。

 ルゲニアは、落下のショックのせいか横たわったまま動かず、彼女の元に到着した救護班はその赤らんだ頬を軽く叩いた。すると、ルゲニアは声を漏らしながら上体を起こし、近付いてきた者の顔を見上げる。

 救護者は、ルゲニアへ声をかけるが、当の本人は軽く笑うと立ち上がってみせた。その様子に、フィーラを始め会場に居る者達は息を飲み、ルゲニアの無事を祈る。

「えー、とりあえず外傷は無いようですが、念の為ルゲニア選手には検査を受けて頂こうと思います」
 司会の声に、フィーラは目を細めルゲニアの様子を見つめた。ルゲニアは、救護者達に支えられながらステージを下りると、ゆっくりテントの方へ向かって行った。

「ルゲニア選手の体調は、検査が終わり次第報告します」
 そう話すと、司会者は口元へ手を当て、喉を通らせる為か大きく咳払いをする。

「さて、勝負の結果を発表いたします。準々決勝2回戦の勝者はフィーラ選手。上手く攻撃をかわしながらの勝利です!」
 彼女の声を聞いたフィーラは梯子を下り始め、それを見た司会は何度か深呼吸を繰り返す。そして、彼女はフィーラが地面に下りたことを確認すると、ライラを見ながら口を開いた。
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登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

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