ぶっちゃけてしまえば、戦い慣れている方が勝つものである

文字数 2,613文字

「ルゲニア選手の状態が気になるところではありますが、次の試合を始めたいと思います」
 司会はエレナの顔を見つめ、大きく息を吸い込んだ。

「次の戦いは、ライラ選手対エレナ選手。獲得したボールの合計数は31ですので武器は銃。ライラ選手は向って左、エレナ選手は右からお願いします」
 ライラとエレナは、司会の言う場所へ向かい、静かに試合開始の合図を待った。そして、2人は試合開始の合図と共に前進を始め、会場は沸き立ち始める。

 ライラとエレナは、先ほどの2人と同様に間合いを取り、そのまま暫く静止した。ライラは、徐々にエレナへ近付いて行くが、射程距離に入る度に後退する。エレナは、それが繰り返されていくうちに不機嫌になり、その感情は碧色の瞳に表れている。

 そして、その感情が怒りへと変化した時、エレナは前進しながら銃を放った。だが、ライラは攻撃を素早く盾で防ぎ、その上エレナへ向かって銃口を向ける。

 エレナは、突然向けられた銃に驚き、後退しようと左手で棒を握った。彼女は、バランスを崩しながらも素早く攻撃をかわし、念の為に装備した盾で胸を覆う。ライラは、銃を構えたまま後退し、静かにエレナの出方を伺った。その後、2人の間には緊張した空気が流れ続け、睨み合ったまま動くことは無かった。

「2人の動きが止まってしまいました。さてさて、次に攻撃に出るのはどちらの選手でしょうかー?」
 エレナは司会の声に目を細め、流れる汗を手の甲で拭う。その間も、彼女の澄んだ瞳はライラの右手を見つめ続けており、いつ来るか分からぬ攻撃に身構えていた。

「ルゲニア選手の体調について情報が届いたので、報告いたします」
 そう話すと、司会は不安そうに俯くフィーラを一瞥する。

「軽い脱水症状が見られるが、他に異常はみられない……とのことです」
 その報告を聞いた観客は安心したように息を吐き出し、フィーラは胸元に手を当てて顔を上げる。ライラは、それを聞いて笑顔を浮かべ、エレナの表情も多少ながら綻んだ。

 エレナは、気掛かりだったことが消えてすっきりしたのか、一気に前進するとライラの胸元に銃を向けた。しかし、彼女が引き金を引くことのできる前にライラは素早く後退し、銃から発せられた液体はステージ上へ落下する。

「おっと、どうやら動きが有った模様です」
 司会は、素早く言葉を発すると、対戦中の二人を見やる。ライラとエレナは互いに睨み合っており、ライラは笑みを浮かべると後ろへ下がった。彼女は、勢いをつけて上体を反り返らせると、更に勢いをつけて頭を前方へ振る。その動きを正面から見たエレナは目を白黒させ、銃を持つ手を伸ばしたまま静止した。

 彼女が驚きによって動けなくなっているうちに、ライラはつけた勢いを殺さぬまま前転をし、一回転したところでエレナの胸に銃を突き付ける。ライラの持つ銃はエレナの胸骨部分に密着しており、彼女は直ぐに銃の引き金を引いた。すると、エレナの胸元は赤く染まり、射出された液体は彼女の腹部を伝って落下する。エレナは、目を丸くして体を硬直させ、何も出来ぬまま右手を下ろした。

「なんと! ライラ選手、見事な動き! 見事なバランス感覚で、エレナ選手に勝利しました」
 司会の声が響いた時、エレナは自分が撃たれたことに気付いたのか、胸に手を当てて目線を落とした。ライラは、銃を向けていた手を下ろすと、満足そうな笑顔を浮かべて梯子の有る方へ向かって行く

「次の戦いは、リリス選手対ベネット選手。獲得したボールの合計数は46ですので、ブレードで戦います」
 次の試合の案内が聞こえた時、エレナは急いで梯子を下りていき、そそくさとテントへ向かって歩いていった。ダームは、ベネットの名が呼ばれたことで興奮し、目を輝かせながら彼女へ向かって手を振る。

 ベネットは、さり気なく彼へ手を振り返すと、大きく息を吸い込んで気持ちを落ち着けた。エレナがテントへ入った後、司会はリリスとベネットに目配せをし、右腕を振り上げながら口を開いた。

「リリス選手は向かって左、ベネット選手は向かって右からお願いします」
 司会の言葉を聞いたベネットは小さく頷き、直ぐに指示された場所へ向かって行く。リリスもベネット同様に指示された場所へ向かい、表情を強ばらせながら司会の言葉を待った。

 当の司会は、選手の準備が出来たことを確認すると、大きな声でカウントを始める。そして、司会が開始の合図を言い放った瞬間、ベネットの目線は鋭くなり、対戦者であるリリスを見据えた。

 2人は素早く前進していき、もう少しで攻撃が届く間合いで静止する。ベネットは、対戦者を見据えたままブレードを持つ手に力を込めると、そのまま一気に間合いを詰めた。

 リリスは、攻撃を防ごうと左腕を動かすが、それよりも前にベネットは彼女の頭へブレードを振り下ろした。リリスの頭に付けられた風船は大きな音をたてて割れ、彼女は思わず目を瞑る。

「早い……決着がつくのが早かったですね」
 そう言うと、司会はゆっくり息を吸い込み、それから大きく咳払いをする。

「準々決勝最終戦の勝者はベネット選手。見事な剣捌きによる勝利といったところでしょうか」
 司会の声を聞いたリリスは、静かに梯子を下り始め、ダームは嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「さて、準決勝からは素敵なゲストが登場します。その準備に少々時間がかかりますので、出場者の皆様は休憩しながらお待ちくださいね」
 その言葉にフィーラやライラは首を傾げ、アイーシャは不機嫌そうに髪をかき上げる。ベネットは、梯子を下りると仲間の姿を探し、嬉しそうなダームの顔を見つめて一息ついた。
 その後、数人の者達によってステージ奥に掛けられていた布が取り去られ、そこからは赤黒い肌を持つ生物が現れる。
 彼の丸い瞳は人の頭部よりも大きく、真っ黒なそれは見た者を喫驚させている。ステージ幅とほぼ同等の大きさを有する生物は、やや白濁した液体を体中から滲出させ、その液体は彼の下へも広がっている。その生物の周囲は、格子状に組まれた金属で固められ、彼が簡単に外へ逃げ出さないようにされていた。
 しかし、格子の隙間からはその長い手脚が伸ばされ、ぬらぬらと妖しい液体を滲ませながら動いている。その上、彼の手脚は合計で十本も有り、その半数が観客の居る方へ向けて伸ばされていた。それを見た観客は顔を引きつらせ、アイーシャやフィーラは怪訝そうな表情を浮かべる。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み