小学校の授業でやるところもあったあれ

文字数 1,869文字

「皆さん。喧嘩せずに旗の前に立って下さいね」
 司会者が話し終えるや否や、参加者は競うように旗の前へ移動し、戦いの場になる海を見据える。そして、半数以上の参加者は、これからの戦いに備えて足首や肩を回し始めた。

 今や、この場に集まった者達の目線は海の方へ移され、参加者の居なくなったステージには大砲のような物体が乗せられる。その左横には一人の男性が立っており、司会の姿を目で追いながら自らの出番を待っていた。

「皆さん。準備はいいですか? 良かったら、右手を上げて下さいね」
 彼女の言葉にツヴァイとルフィエは元気良く手を振り上げ、他の女性達も次々に手を上げていった。

 出場者の全員が右手を上方に伸ばすと、司会者はステージ上の男性に目配せをして口を開く。

「それでは、第2回戦開始のカウントを始めます」
 彼女は観客の方を向いて微笑むと、右手を上に伸ばして何度か横に振ってみせる。
 それを見た観客は近くの者と顔を見合わせ、そのまま頷く者も居た。

「では、行きます! 5……4……」
 観客は、司会の声へ合わせる様に声を発し、その声は次第に大きくなっていった。

「3……2……1……スタート!」
 開始の合図と共に、ステージ上からは多くのボールが発射され、参加者達は海へ向かって走り出す。彼女達は、海に入ると直ぐに手近なボールへ手を伸ばし、次々にそれらを手に入れていった。

「制限時間は5分。その間に沢山ゲットしてください」
 参加者達は、司会者の声が聞こえていないのか、はたまた反応する余裕がないのか、司会の居る砂浜を振り返ることすらしない。観客は、少しずつ海の方へ近付いて行き、少しでも女性達の姿を見ようと首を伸ばす。

「移動は自由ですが、青い旗より海側には行かないで下さいね」
 司会の声を聞いた観客は足下を確認し、そこに旗が無い事を見るなり安心した表情を浮かべた。

 海からやや離れた位置に居るザウバーは、つまらなそうなダームの頭を叩き口を開く。
「終わるまで時間があるし、便所行ってくるわ」
 それを聞いたダームはザウバーの顔を見上げ、小さく頷いた。
 この際、ザウバーは前屈みの姿勢を取っており、それに気付いたダームは心配そうな表情を浮かべる。

「大丈夫? お腹が痛いの?」
 そう問い掛けると、ダームは目を細め首を傾げた。ダームの瞳はやや潤んでおり、ザウバーの体調を心配しているようでもあった。そんな少年の瞳に見つめられたザウバーは、気まずそうに苦笑する。

「そんな感じだ。苦しいけど、出せば治る」
 途切れ途切れに話すと、ザウバーは小走りでダームの元を去り、そそくさと小屋が立ち並ぶ区域に向かって行った。ダームはザウバーの背中を寂しそうに見送り、ステージの方を振り返る。

 すると、ステージには十数程の人達が集まり、次の戦いに必要なのか手際良くその形を変えていた。ダームは、しばらくその様子を眺めていたが、ベネットの様子が気になったのか海側へ目線を戻す。

「さあ、そろそろ手に持つのは辛くなってきたのでは無いでしょうか?」
 ダームが海側を振り返った時、他の観客越しに司会者の声が聞こえてくる。彼は、その声を良く聞こうと海側へ向かおうとするが、いつ戻るか分からないザウバーを待たねばならない為、渋々ながらその場に留まった。

「手に持てるのは、10個位のものでしょうか。ですが、手に持たなくても最終的に所持していればカウント対象となります」
 司会の言う通り、水に濡れた球体は手の中から零れおちやすく、両手を使っても多くの数を持つ事は困難だった。その上、新たなボールを拾う際にも零れ落ちやすく、手で持つだけでは沢山のボールを集めることは困難に思われる。

 アイーシャにも、そんな司会の声は聞こえていたのか、手に入れた球を眺めると、その幾らかを胸の谷間へと押し込んだ。

 それに気付いた観客は楽しそうな声を上げ、アイーシャは誇らしげな表情を浮かべる。それを横目で見ていたフィーラは、獲得したボールを次々に自らの体と水着の間に押し込んでいき、それらが落ちない様に新しいボールを拾い始めた。

 一方、ツヴァイやルフィエは手に多く持てる方法を模索するように、忙しなくボールを持ちかえている。彼女達が持ちかえるうちに、手に入れたボールは何度か海へ落下するが、さほど波が大きくないせいか直ぐに回収することが出来た。

 会場が盛り上がり始めた頃、トイレから出たザウバーはすっきりした表情を浮かべ、ダームの元へ向かっていく。しかし、その行く手を阻む様に男が現れ、厭らしい目つきでザウバーの顔を覗き込んだ。
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登場人物紹介

ダーム
 
大体元気なショタっ子。

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