第28話 副将と大将

文字数 787文字

 校庭には僕と金次郎、そして、ヤマカガと猿が立っていた。
「さて、今後についてだが…」と、猿がそう切り出すと、
「勝負は決まった。俺たちの勝ちじゃないか」と、遮る金次郎。
 猿は眉間に皺を寄せて、金次郎を睨んだ。
「国語はどうなる?」
 僕は、ヤマカガの目を見て訊いた。
「どうなるも何も、君が携帯で何かしてただろう?助かっているんじゃないか?」
「何だ、ばれていたのか」
 僕は徐に、携帯を取り出し、画面を開くが、通知が一件も来ていなかった。
「一筋縄じゃいかないだろうな」
 そう言ってヤマカガは、ほくそ笑む。
 試合前、国語のバイト先の店長に、救助要請を送ったが、実はもう一人『道徳』にも、国語救助の仕事を依頼した。
 道徳にとっては、殺し以外の仕事は遊びと考えているため、その遊びの仕事には必ずと言っていいほど『音楽』と『図工』が道徳に付いてくるのだ。
 報酬の額は上がるが、数は多いに越したことはない。
「あの方には、誰も勝てないよ」
「分かった分かった。忠告ありがとさん」
 そう言って僕は、ヤマカガに背を向け、歩き始めた。
 だが、次の瞬間。
 金次郎と猿がいる方向から凄まじい音が響いてきた。
 その音に僕は振り返ると、視界の端で、何かが近づいている気配を捉え、すぐさましゃがみ込み、そのまま転がりながら、気配との距離を取った。
 気配の正体は、ヤマカガだ。
「二対二だ。無理やりにでも闘ってもらうぞ」
「無理やりにって…」
 そう言って僕は、金次郎に視線を移すが、金次郎は猿しか見ていなかった。

 僕の悪い癖か。
 遠い先のことばかり。
 まずは、目の前にあることから、だな。
 僕が深呼吸をし、息を整えると、国語のこと、道徳のこと、横にいる金次郎と猿のことが、僕の頭から段々と消えていった。



 ヤマカガ。
 こうなった僕は、ちょっと強いぜ?
 もう、お前しか見えてないからな。



「全力でぶっ飛ばしてやるよ。ヤマカガ」
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