第24話 中堅 ノライヌvsガラクタ

文字数 2,981文字

 『ノライヌ』が『ガラクタ』の薬指を噛みちぎり、飲み込んだ。
 だが次の瞬間、ノライヌの口から、赤い球体が飛び出してきた。
 涙目のノライヌ。
 自分から吐き出した、訳ではなさそうだ。
 そして一方のガラクタ、薬指の他にも、中指と親指も消えていたのだ。
 さらに、消えた二本の指と噛みちぎられた薬指の断面は黒く染まり、血が一切出ていなかった。
 ガラクタの能力によるものと考えるべきだが。
「ジュウキちゃんや、ガラクタの能力は無くなったと言っておったな」
 社会が、横になっている『ジュウキ』の傍に腰掛け、訊いた。
「はい。スランプになって能力が使えなくなったって」
「じゃが、秘密基地は今も作り続けている…」
 そう言って社会は、向かい合っているガラクタとノライヌに視線を戻した。
「ジュウキちゃん、ガラクタの口から家族の話とかは出るかの」
 すると、それを聞いたジュウキは、吹き出し、笑った。
「無いですよ、万年独身です。あの人は」
 すかさず『カメラ』が、ジュウキの頭を引っぱたき、
「失礼だ、あんな人でも僕らのリーダーなんだよ」と言って、笑った。
 社会曰く『ミチクサ』としてのガラクタの活動は、子供たちの為に、能力を使って秘密基地の建設をしていたらしい。
 そして、ジュウキとカメラにとってのリーダーである。
 ガラクタは、分け目は少し広がってきてはいるが、艶のある七三分け。年齢は四十代後半か五十代前半と言ったところだろう。だが、時折見せる無邪気な笑顔が、少年のようでもあった。
 それに対するは『ノライヌ』だ。
 柴犬の顔で、黒のパーカーに黒のチノパンを身に着けていた。
 紹介アナウンスで『フシンシャ』のリーダーと言っていたが、ノライヌの格好はまさに、不審者のそれだ。
「尾行が得意な『ミチクサ』の情報屋じゃが、情報量は儂の足元にも及ばん」
 そう言って社会が、僕の横でカッカッと笑った。
「じゃがなしもん、以前儂は言ったな。情報収集を極め、この町が水と化した。それくらい見えるようになったと。そして、そこから新たに湧き出てくる濁りを、鎮める日々を過ごしているとも」
「覚えているよ」
「濁りは毎日湧いて出てくる。その中の一つにガラクタが入っておる…。お、噂をすれば、じゃ」
 僕は、社会の指さす先に視線を移すと、ガラクタの両脇に、二人の男が立っていた。
 ガラクタの左側に立っていた一人は細長く、両手に刀を持っており、もう一人は、とにかく全身の筋肉が凄まじく膨らんでいた。
「お」
 金次郎が嬉しそうに声を漏らす。
「ガラクタの周りにいる人間たち。実に神出鬼没での。儂でも出所が中々掴めんかった。ほれ、しもん、あの娘もじゃ」
「娘?」
 再び僕は、社会が指さす方向を見ると、ガラクタの後ろに小さな女の子が隠れていた。
「あの赤い球体が女の子に変わった」
 社会に言われて、僕は辺りを見回すが、確かに赤い球体は消えていた。
「成程の、指じゃったか」
 社会はそう言って、クックと笑った瞬間、ノライヌが動き出した。
 恐らくガラクタに向かっていったのだろうが、同時に、ガラクタの両脇にいた男たちも動き出していた。
 筋肉が凄い男の右ストレートをノライヌが左に動き、避けた。しかし、筋肉が凄い男の右脇の下が光ったと思うと、ノライヌがさらに加速し、ガラクタから遠く離れた位置へ逃げ、ガラクタたちの様子を伺っていた。
 光っていたのは、細長い男が持っていた刀だった。
 ノライヌが口を開く。
「落ちた指が変化したんだな。俺は元人間だ。さしずめ、親指がそちらの筋肉達磨に、そして中指がそこのひょろ長い男に変わったんだろうな」
「如何にも。名前は至ってシンプルだ。オヤユビとナカユビ。オヤユビは、頑丈な体を使って闘い、ナカユビは、武器なら何でも扱える」
 と言って、ガラクタは自身の右手を眺めていた。
「そちらのお嬢さんは」
 ノライヌが、ガラクタの後ろにいた女の子を指した。
「この子はクスリユビ。武器は腱だ」
「けん?」
 ガラクタは、クスリユビの頭を撫でながら、続けた。
「腱を紐のように扱えるんだ。そして、クスリユビの腱は非常に硬く、しなやかだ」
 クスリユビは、頭を撫でられ、嬉しそうに目を瞑っていた。
「先程の赤い球体は、腱が丸まったものか」
「そうだ」
「残りの指は?」
 ガラクタは、ノライヌのその言葉を聞くと、薄く笑みを浮かべ、ポケットに右手を突っ込んだ。
「奥の手だ。こんな大衆の前では見せられないよ」
「成程な…」
 両者の間に数秒程の静寂が流れる。
「ジュウキはともかく、あんたら、強いんだな」
「なに?」
「あえて、弱そうに見せていたのか」
「そもそも、ミチクサは闘うための組織ではないはずだが?」
「そんなんだから、組織が大きくならないのだ」
「大きくする必要がない」
「平和ボケしている」
「ハハ、一理ある」
 次の瞬間、ノライヌとオヤユビが同時に動き出し、互いの額をぶつけ合った。
 体格から見て、まともにぶつかり合えば当然、オヤユビが強いだろう。しかし、ノライヌは、額をぶつけた後、すぐに頭を後ろに引き、オヤユビの顎を思い切り蹴り上げたのだ。
 顎が上を向き、首が空いたオヤユビ。
 ノライヌは、拳を握り、素早くそこを突いた。
 そしてノライヌは即座に、ナカユビに焦点を合わし、走り出した。
「なに…」
 空中で、ノライヌの動きが一瞬止まった。
 オヤユビが、ノライヌの足首を掴んでいたのだ。
 そのまま、地面に叩きつけられるノライヌ。
 そこへ遣って来たナカユビが、ノライヌの後頭部めがけて刀を振り下ろす。
 だがノライヌは、刀が後頭部に到達する直前、刀を峰から摘み、そのまま刀を捩じり折った。
「ほう…」
 驚きの声を漏らすガラクタ。
 ノライヌは背中を大きく反り、捩じり折った刀の切っ先を、オヤユビの手に突き刺した。
 オヤユビの手が緩んだ隙に、ノライヌがそこから逃げ出し、オヤユビとナカユビから距離を取った。
「闘いがこうも面白いとは」
 息を切らしながらも、そう語るノライヌ。
 ノライヌはさらに続けた。
「元は指なのだから、顎や首が効かないのは当然か」
「その通り」
「そして、多少の切り傷も当然、有効では無い」
 ノライヌはそう言って、出血し続けている手の傷をものともせず、真っ直ぐノライヌを見つめているオヤユビを指した。
「そうだ」
 淡々と返すガラクタ。
「ならば、へし折るか切断するかしかないか」
「その得意のお指で、できるのかい?」
 ノライヌは、自身の両手を眺めながら、握ったり開いたりを繰り返し、そして、構えた。
「色々試す。ヒトはそうやって、見つけていくんだろ?」
 ガラクタは、嬉しそうだった。
「クスリユビ、あれの準備だ」
 ガラクタがそう言うと、クスリユビの体が赤く変化し、細長く伸び始めた。
 腱だ。
 その腱が、捩じれ、絡まり、やがて大きな赤色の球体となった。
 だが、先程と違うのは、その球体には、斧やナイフ、手裏剣、色々な形の剣や刀が刺さっていたのだ。
 ナカユビは、それらの武器を吟味し、斧を手に取った。
 オヤユビは、ナカユビの背後に立つ。
 ガラクタは、不敵に笑う。
「ノライヌ、『でこぴん』を食らわしてやるよ」
 それを聞いたノライヌも、不敵に笑う。
「その指、ぶち折ってやるよ」
 ノライヌ、そしてオヤユビとナカユビから、渾身の力が感じ取れた。

 僕でも分かった。
 次で決まるんだな、って。
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