第36話 ハイウェイズ

文字数 1,356文字

 目の前にいる、この女を取り込めば。
 完成する。
 遂にここまできた。
 なのに。
「あなたは誰?」
 二十三人目となるこの女は、全く心が折れる気配がない。
「あんた…宗校長か?」
 しかも、こっちでは『道徳』が来てやがる。
 あー、くそ。
「む…」
 私の体に刺さっている小さな鉄塔が、ある電波を受信した。

(ミチクサ ハイボク)

 あー。
「もーーーーー!!!!!」
 私は、心の底から叫んだ。
 周囲にある全てが、音を立てて震える。
「うわ、なんだよいきなり」
 私の見下ろした先に、道徳が立っていた。
 そうか、人間とはこんなに小さな生き物だったのか。
 いや、私も元は人間。
 だが『ヤマ』の呪いを奪い、生贄を二十二人も取り込んだんだ。
 私は今、十分に強くなった。
 強くなって、でかくなったのだ。
「道徳よ、お前も十分憎いが、今はしもんの方がもっと憎い」
 私は箱に入れてあった小さな鉄塔を適当に掴み取り、それらを体中に刺した。
 そして、ふくらはぎに力を込めて跳んだ。
 それだけで、アスファルトが壊れてしまう。
 たった一回の跳びで、ここまで飛べる。
 これなら校庭まであっという間だ。
「ぐふ」
 待っていろ、しもん。
 お前には痛がってもらう。
 苦しんでもらう。
 それが終わったら、しもんが死ねば、この町は頂ける。
 私の時代。
『ハイウェイズ』の時代が来る。

 完璧な着地。
 ちょうど私の足の裏に、しもんがいる。
 おや?
 こちらに向かってくるのは『金次郎』か?
 ふふふ。
 でもこうやって、両手の平で虫を潰すようにすれば。
 あら不思議。
 金次郎君が、潰れちゃった。
 でも、殺さないようにしないと。
 うん、二人とも、まだ息はあるみたいだ。
 私は右手で金次郎を掴み、左手でしもんを摘まみ上げ、私の体に埋めた。
 校庭内が混乱している。
 観客たちが悲鳴をあげて、逃げまどっている。
 でも、私の足元にいた何人かは、私を真っ直ぐ見上げていた。
 生意気だな。
 私は、体に刺してあった鉄塔を何本か抜き、放り投げた。
「やれ『テッコツ』たち」
 私の声で、落ちていた鉄塔たちが人の形に変わり、動き出す。
 私はそれを確認し、大きく跳んだ。
 校庭があっという間に離れていく。
「あ」
 良いこと思い付いた。
 私は、一回目の着地点で、体から鉄塔を三本程抜き『テッコツ』に変えた。
 そして、テッコツたちにしもんと金次郎を渡し、
「下半身を削り、アジトまで連れてこい」と指示を出した。
「ハイ」
 テッコツたちはそう返事をし、しもんと金次郎を連れて、私の元を去っていった。
「さて、私も最後の準備をせねば」
 私は、笑いが止まらなかった。
 もうすぐ夢が叶う。
 いつだって、本番よりも準備しているときの方が、ワクワクすると思っていた。
 でも、一番の夢を近くで感じたときはもう。
 この上なく、幸せだ。
 この夢が叶ったら、私はどうなってしまうのだろう。
 そりゃ、できるだけ準備はしていたかったが。
 仕方がない。
 時が満ちたのだ。
 私は、十分強くなったのだ。
 私はもう、この町の王に、いや、神になれるのだ。
 校長先生、神はさぞ、大変でしょう?
 だけどね、何も命を支配できるのは貴方だけじゃない。
 私にもできる。証明してみせる。



 命の支配が、私の夢だから。



 第二章                       完
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み