第39話 この町の人々

文字数 1,604文字

 驚くほど簡単に、しもんと金次郎が攫われた。
 だが、金次郎がいてくれて良かった。
 しもんの傍に『この町』の人間が一人でもいれば、しもんは恐ろしく強くなる。
 そして、この町の人間がしもんの周りに集まれば集まるほど、しもんの力はどんどん大きくなっていく。
 恐らく彼は、自身の力を自覚していないだろう。
 群れをなさないのがその証拠だ。
 それでも、しもんの周りには必ず誰かがいてくれる。
 しもんは、この町の神様に守られている。
 宗校長を倒せるのは、しもんだけ。
 待っててねしもん、すぐに行くから。
 この町のありったけを、あなたに捧げてあげる。

 『諮問s』の仲間は実に個性的だ。
 全身、森に覆われたおよそ十メートルの巨人と化した宗校長を前にしても、目を輝かせることができる理科と社会。
「どんな実験を…?」と、理科。
「あの不自然な小山は人じゃったか」と、社会。
 私は二人に思わず問いを投げかけた。
「怖くない?」
 すると、理科と社会は互いに目を合わせ、
「良き濁りかな」と、まず社会が、そして、
「良き被検体」と、愛嬌たっぷりに理科が言った。
 私は携帯を取り出し、メールの画面を開いた。
「恐らく、宗校長は自分のアジトに向かってる。社会、アジトの場所の地図を地面に描いてもらっていい?」
「お安い御用じゃ」
 そう言って社会は、枝みたいに細い指で、地面に地図を描き始めた。
 私は携帯の画面に視線を戻し、メールに文章を打ち込んだ。
(仕事。ここへ集合)
 そして、社会が描いた地図の写真を添付し『音楽』に送信した。
 すると、すぐに返信が届いた。
(了解。図工と向かう)
 私はそれを確認し、携帯を閉じた。
「理科と社会と『ミチクサ』のみんな」
 私の声に、皆が一斉に振り向く。
「この町を、守ってほしい」
 皆の真っ直ぐな視線が、私の目に届く。
「もし、守り切ることができたら、言い値でボーナスを支給する」
 場の空気が、一気に凍り付いた。
 だけどその凍りは、一瞬にして蒸発した。
 人を動かし、対価を支払う。
 長が、皆に示せる行動の一つだ。
「理科、社会、ガラクタ、カメラ、ジュウキは私と来て頂戴」
「はい!!!」
 ジュウキが一人だけ、大きな口を開けて返事をした。
「マムさん」
 マムさんは、倒れている『ヤマカガ』の傍に座っていた。
「はい」
「マムさんは、ヤマカガたちの看病を」
「はい」
 そう言ってマムさんは、担架で運ばれていくヤマカガと猿のあとを付いていった。
「教頭先生は、あいつらをお願い」
 私はそう言って、関節音をきしませながらこちらへ向かってくる『テッコツ』を指した。
「わかりました」
 教頭は、首を回し、両手足首を振って、ウォーミングアップを始める。
「道徳がここへ来ると思うから、それまで耐えて頂戴」
「はい」
 そう言うと教頭は、勢いよく走り出し、テッコツの群れへと突っ込んでいった。
「よし、じゃあ」
 私は社会に視線を移す。
「案内よろしく」
「ほいさ」
 そう言って意気揚々と走り出した社会。
 御年百三十とは思えないほど、軽快だった。
 私は少し戸惑いつつも、残りの四人に視線を送り、私たちは校庭をあとにした。

 社会のお陰で、宗校長のアジトには難なく辿り着けたのだが、そこで見たのは、しもんを守るようにして立っていた、血だらけの金次郎だった。
 金次郎はわたしたちの姿を確認すると、少し微笑み、その場に倒れ込んでしまった。
「金次郎くん」
 理科が金次郎に駆け寄る。
「金次郎、よくやった。理科、治療を」
 だが、私は、理科の行動に驚き、言葉が止まってしまった。
 なんと理科は、上半身に纏っていた衣服を全て脱ぎ、肩に乗っていた髪を背中に流し、乳房をさらけ出していたのだ。
 そして、金次郎の頭部の横で正座をし、手際よく膝の上に金次郎の後頭部を置いた。
「きんじろう、あなたの本当の力、引き出してあげる」
 そう言って理科は、茶色い乳頭を金次郎の口に押し込んだ。



 実に、個性的だ。
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