第4話

文字数 1,626文字

「……はぁ……終わったかの……?」
絢瑠がへたり込みながら言う。
「そう……だね……。」
自分もその場に座り込む。左腕の傷から血が出ていた。
「そういえば、この場所は……?」
「神殿みたいじゃのう」
「石碑に何か書いてある……」
「どれどれ……?」
「『契約を交わせばこの世界に何時でも来れる。この世界に来たことの無い人間も転送させることも可能。契約の条件は、人間をやめること』……?」
「人間を辞めるって……どういうことじゃ?」
「わからない……でも危険そうだね。」
『人間を辞める』、それがどういうことなのか詳しくは書かれていないが、とても危険なことなのだろう。でも……2人で戦うのは正直キツい。さっきも危ないところだった。じゃあやっぱり――
「契約、するよ。自分が。」
「……貴祢、本当にそれで良いのか?」
絢瑠が真剣な顔で問う。
「うん。一度死んだ身体だしね。」
そうなのだ。自分は、一度別の世界で死んで、この世界で魂だけさまよって、今居た世界に転生したのだ。
「この身体で誰かを助けられるなら――自分は、それがいい。」
「そうか。そこまで言うなら。」
納得した様子の絢瑠がこちらを向いて微笑む。
傷ついた身体を無理やり起こして、石碑に触れる。
すると周りに霧が立ちこめる。今まで感じたことのなかった感覚に貴祢は身を包んだ。

『人間』を辞めた貴祢には、翼と角が生え、悪魔のような姿になっていた。
「まるであの時みたいじゃのう♪」
「う、うるさい!」
そう。2年前、魔王討伐の時は「悪魔みたいな姿がカッコイイ!」という単純な理由から偽物の翼と角を付けていたのだ。
「貴祢……そういえば、怪我、治っておらんか?」
確かに自分の左腕を見てみると、まるで何も無かったかのように傷がなくなっている。
「本当だ……もしかして、治癒力が高くなったのかな?」
「そうかもしれんの。とりあえず――わし、死にそうじゃから元の世界に戻らせてくれぬか……」
そう言ってぐったりした様子を見せる。
「あぁぁ!ごめん!今すぐ戻ろう!」
そう言って貴祢が絢瑠に触れた瞬間、絢瑠と貴祢は元の世界に戻っていた。


「……ここは?」

「絢瑠ー!!貴祢ー!!!」
叫びながら真吉がこちらに向かってくる。
「!?真吉!?」
「心配した……とかじゃないけど!!とにかく戻ってきてくれて良かった!」
こんな時でも真吉のツンデレは健在で思わず貴祢は笑みをこぼす。
「絢瑠さん……その傷大丈夫ですか?」
李織が尋ねる。
「怪物に襲われてのう……」
「御世汰さんに頼んで早めに治してもらった方がいいですよ。行きましょう。」
真吉とは真逆な李織の冷静な対応によって、絢瑠はほかの仲間の元へと連れていかれる。
「そういえば、ここってどこ?」
貴祢はずっと疑問だったことを真吉に聞いてみる。
「あ、貴祢にはまだ言ってなかったな!皆で集まって作戦立てるように〜って、おれの親が別荘を貸してくれたんだ!」
「真吉……!!めちゃめちゃ有難い!!本当にいいの?」
「おれが良いっていったんならいーの!」
「本当にありがとう……!」
そう言って真吉の手を握る。


「……待って?貴祢それ、その角、偽物じゃないよな?」
「あ……」
言い忘れてた。説明が難しいな、なんて説明しよう……と戸惑う貴祢。
「じ、実はこれ、契約したら皆が狭間の世界に行けるようになるから契約したら、こんな姿になって……」
「はーーー!?!?もっと早く言えよ!!……つまり、おれらの為にしてくれたんだろ?…………その……ありがとう。」
「……もー!真吉は素直じゃないんだから!」
「うるせー!!」
じゃれ合いながら仲間の元へと戻る。


「――――――ってことがあって、こんな姿になった。」
「えーすげぇ!本物?」
「傷が治りやすくなったのは良いけど……心配だから、何かあったらすぐに言うんだよ。?」
反応は皆それぞれ違う。が、貴祢の選択に反対する人は居なかった。

「――それじゃあ、改めて、狭間の世界の異変を解決するために作戦、立てますか!」

16人の新たな旅のスタートだ。
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