第23話

文字数 1,675文字

「……一人になったな……雅久!」
聖が雅久のほうに近づきながら話しかけてくる。
「……ああ、やっと一対一、だな。」
「そんな状態でオレに勝てるのか?もうさっきの敵でボロボロじゃないか!」
「……そんなの……関係ねえよ!」
聖の煽りに対して乱暴な言葉遣いになってきた雅久。

両手から赤色の炎を放出し始め、聖にそれをぶつける。
「……っ!」
それを間一髪のところで避ける聖。すぐに臨戦態勢に入る。
雅久に近距離戦に持ち込まれたことから弓矢での攻撃が難しく、先程のように矢を直接雅久の身体に突き刺す。
しかし雅久の攻撃もやまない。
手から緑色の霧を繰り出し聖の視界を奪う。
その間に自分に刺された矢を引き抜き、カウンター攻撃としてその矢を聖に突き刺し返す。
「……かはっ!」
それが急所に当たり思わず声を漏らす聖。
視界を奪われていることから反撃も叶わず、ただただやられるだけだ。

「……なあ、なんで俺様たちのこと、裏切ったんだよ。」
攻撃を続けながらも雅久は聖に問いかける。
「……っ、そんなの、どうだっていいだろ。」
ギリギリで声を絞り出す聖はぶっきらぼうな言葉を返す。
「どうだっていいわけないだろ!!二年前も、そのずっと前からも、一緒に過ごしてきた仲間じゃないか!」
そうなのだ。雅久と聖は2年前に一緒に戦った仲だが、実はその前にも一緒の施設で生活してきていたのだ。

「――オレはお前のこと、仲間だと思えたことなんて一度もねえよ。」
「……っ!」
雅久の攻撃の手が止まる。
「お前はいつだって、そうやって仲間仲間って。オレの気持ちを一度でも考えたことがあったか!?」
今度は聖が優勢になる。光の攻撃魔法を繰り出し雅久へとぶつける。
そうだ、弓での遠距離攻撃だけじゃなく、攻撃魔法も聖は使えたんだと雅久は思い出す。しかしそれも束の間、次の攻撃魔法が飛んでくる。

「なあ、それは本心から言ってるのか?まだ魔物に乗っ取られてるんだろ?なあ、そう言ってくれよ……。」
雅久は必死の思いで語りかける。
「お前、まだそんなこと言ってられる余裕あったのかよ。もう乗っ取られてるわけないのにな。」
そんな雅久の思いをも無碍にして嘲笑する。
「……っ、こんなの、本当の聖じゃない。」
「なにか言ったか……?とにかく、お前はここでオレの手で倒されるんだよ。」
「ああ。俺様もそろそろ本気を出させてもらうぞ。」

その瞬間雅久は手を勢いよく上にあげる。
すると頭上を中心に大きな炎の球が出来上がってゆく。
聖は一瞬怯んだが、負けじと光の攻撃魔法で対抗する。
雅久が炎を聖の方向へと導くと、ものすごい速さで聖めがけて放出されてゆく。
しかし聖もやられっぱなしではない。その炎めがけて魔法をぶつける。
その勝負は拮抗といったところか。数秒間互いの魔法がぶつかり合い、動かない時間が生じた。

だんだんと炎の魔法が優勢になっていく。
聖は必死に魔法をぶつけるも、巨大化した炎にはもうなすすべがなかった。
聖の体が炎に包まれる。
「……っ!!!!」
炎の中からは必死に耐えるような声が聞こえた。

しばらくして、辺り一帯の炎が消える。
中心にいた聖はかなりのダメージを負い、動けなくなっていた。

「……なあ。」
そんな聖を見下すような体制で雅久が話し始める。
「なんで裏切った?俺様がなにかしたか?」
雅久の声には少し怒りが含まれているようだったが、仲間思いの雅久だ。そんな簡単に仲間を傷つけるような言葉は吐かない。
しかし――
「……なにかしたか?じゃねえんだよ……。オレがずっと!お前をどんな目で見てきたと思ってるんだよ!」
聖の強い語調に雅久は一瞬怯む。しかし負けじと声を張り上げる。
「俺様は全知全能じゃないから、聖の考えてること全てはわからない。だから、聞かせてくれよ。」
「……っ!」
沈黙が訪れる。
しかし意外にもその沈黙を破ったのは聖だった。

「……お前が、お前が羨ましかったんだよ。」
「……え?」
「ずっと。施設での頃の、リーダーとしてキラキラした姿を見せてくるお前が。いつも友達に囲まれて幸せそうにしてるお前が。今の仲間全員と既に打ち解けられているお前が。……羨ましくて、憎かった。」
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