第41話

文字数 1,293文字

「わあっ!」
初が素っ頓狂な声を出す。塔が消滅したのだ。
6階に居たはずなのに、今は普通に地面にいる。どんな力が働いているのだろう。
「これは……街と同じ原理なのかな?」
貴祢の分析は正しそうだ。これも「異変」のうちの一つだと。
そして皆が空を見上げる。
「この塔にも……人の魂が閉じ込められてたんだね。」
「そうだね……良かった。」
そう。空に向かって消えていく人々の魂が見えたのだ。

最後の1つを見届けたところで、貴祢は話し始める。
「……千多喜、聞いていいのか分からないけど。」
「ああ。もう何言われるかは分かってる。玲亜二なら5階に置いてきた。だからこの辺りを探せばいると思う。」
「……ありがとう。」

すると皆は玲亜二の捜索に入る。
「あれ?」
どうやら見つかったようだ。
「おーい!こっちこっち!」
初が仲間を玲亜二の元に集める。
「……心臓は?」
貴祢がゆっくりと確認するように言う。
「……動いて、ない、な。」
千多喜の声はだんだん暗くなっていく。
「……っ、ごめん。玲亜二……」
そう小さな声を漏らす。瞳には涙が溜まっており、気を抜いたら泣き出してしまいそうだ。
「……これは、持ち帰る、よね?」
貴祢が千多喜に問う。
「……うん。」
それは絞り出したような声だった。



「そっか……」
仲間たちも悔しい思いでいっぱいのようだった。
「戦って異変を解決する」という以上、亡くなる人がでるのは仕方がないことだと皆も理解していた。
しかし、それが実際に起こるのは未だ誰もが経験していないことだった。


「玲亜二、ごめん。本当に……ごめん。」
千多喜は玲亜二の遺体の前からずっと動かない。
ずっと謝り続けている。それが罪悪感からなのか、玲亜二の傍を死んでからも離れたくないからなのか、何から生まれている感情なのかは分からない。
「なあ、千多喜。」
そんな千多喜に真吉は話しかける。
「もしかしたら何か生き返らせられる方法があるかもしれない。世界の狭間というものがある以上、何が起こるかは分からない。だから――玲亜二の遺体を、冷凍保存しないか。お金の心配はしなくていい。俺の家から出す。」
それは千多喜にとっても、仲間にとっても、一筋の希望であった。
「……良いのか?その言葉に甘えさせてもらっても。」
「ああ。おれも仲間が亡くなるなんて信じたくない。まだ希望がある以上、それに賭けてみた方がいいと思うんだ。」

「……それじゃあ、頼んだ……」
貴祢たち15人の旅の目的には、死んだ仲間を蘇らせるというものも加わったのであった。




「ちょっとー!エルネスト様!フィリベールがやられたって……!」
金色のミディアムヘアに黒のリボンの飾りをつけた少女が頬を膨らませながら言う。
「まあまあ、落ち着きなよエーベ、あの塔には魂をそこまで閉じ込めていた訳では無いじゃないか。フィリベールがやられたのは惜しいが……また次の隠し場所を探せば良いだけだ。」
エルネストと呼ばれた男はエーベを落ち着かせるよう話をする。
「もうアタシ、人間のこと許せない!急に狭間に入ってきやがって……」
「ほらほら、また爪を噛む癖が出ているよ。醜いから辞めるんだね。」
「ごめんなさい……でも次はアタシが行くから!」
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