第20話

文字数 1,053文字

「……私、実はここに来るの初めてなんです。」
そんなことを李織が言い出す。貴祢の力が使えるようになってからというもの、興味を持った仲間たちが貴祢に頼み込んで世界の狭間に行ったりすることは珍しい光景ではなかった。
「……俺様、人選を間違えたのか……!?」
「はい?」
雅久のその言葉に李織が少し怒ったかのような様子をみせる。
「ですが……きちんと戦いの準備はしたつもりです。足手まといにはならないと思いますよ。」
「そうだな。李織はそういう奴だもんな。悪かった!」
「分かってくださったなら良いんです……」
早く聖さんを探しに行きましょう、と南の方に歩き出す。
雅久もそれについて行く。
「……この辺りには居ないようですね。」
「そうだな……おーい!!!聖!!!どこだ!!居るなら返事しろ!!」
「ちょっ……そんなに大声を出さないでください。……いや、呼びかける時なんだから大声でいいのか……?」
聖を見つけたい気持ちが大きすぎるあまりか普段の声量の5倍くらいの声を出す雅久。普段の声量もかなり大きいのに、このままでは李織の耳が限界を迎えてしまう。
「……居ないな。……街、とかは現れていないか?」
その言葉で李織は当たりをくまなく見回す。
しかし街は現れていなかった。これは異変が起っていないことを意味する。まあ、聖がいない、というこの事態が異変なのだろうが。
「困りましたね……」
「そうだな。いや、もう少し探してみよう!」
捜索を再び開始する2人。来た道を戻ろうと後ろを振り向くと――
「お前らが探しているのはこいつか?」
「……!?」
人型の怪物と、その後ろに聖がいた。
「聖!大丈夫か!」
「……聖さん!?」
しかし聖からの返事は無い。いつもなら雅久の呼び掛けには嫌そうにしながらも対応するのに。
「こいつを返して欲しかったら……俺を倒してみるんだな!」
人型の怪物は2人に襲いかかる。
「……大変なことになりましたね。」
そう呟きながらも、敵が腕を振り上げた隙を見逃さなかった李織が爪を模した武器を手に装着し、相手の脇から腹にかけてを切り裂く。
「ああ。聖を取り返すぞ!」
雅久も戦いに加わる。毒々しい色をした霧を手から繰り出す。
その霧でまずは敵の視界を奪う。
「……ッ!前が見えねえぞ!」
「こいつ、前に貴祢たちが倒してきた怪物よりずっと弱いぞ!このままいったら勝てる!」
雅久が叫ぶ。その間も攻撃を辞めない。
それに応えるかのように、李織は床を蹴り、飛び上がって敵の喉を両手で引っ掻く。
「……うああああ!!」
敵の急所に当たったのか。人型の怪物は塵になって消えた。
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