第21話

文字数 1,569文字

「聖!聖!」
「……聖さん!」
はあ、と一息ついてから聖の救済へと向かう。
そこにいる聖はいつもよりもぐったりとした様子で、目は充血したかのように赤かった。
雅久が心配して聖に触れようとする。
しかし――
「痛っ……た!!」
雅久の手から血がポタポタと滴り落ちる。
聖が弓の矢を雅久の手に突き刺したのだ。
「ちょっと聖さん!?なんてこと……!」
いてもたっても居られない様子の李織が声を上げる。
すると聖は2人から距離をとり、弓を引き始める。
「まさか……」
李織がつぶやく。そのまさかだ。勢いよく放たれた矢が李織の頬を掠める。
「……っ!」
「李織!大丈夫か!?」
聖に刺されたほうの手を苦しい顔で握りしめながら雅久が叫ぶ。手からはまだ血が滴り落ちており、とても痛そうだ。
そんな雅久の姿を見て李織は焦りつつも指示を出す。
「私は大丈夫です!聖さんは気が確かじゃありません!迂闊に近づかないでまずは治癒にあたって!」
その間にも聖の攻撃は続く。また弓を引こうとするが――
「2度も同じ手にはかかりませんよ。」
李織は軽く身をかわした。反撃開始だ。
「仲間を傷つけるのは嫌ですが――これは正当防衛、ですよね?聖さん。」
一気に聖との距離を詰めて手を振り上げる。
その攻撃は見事直撃し、聖の顔に大きな引っかき傷をつくる。
「……!!」
それに怒ったのか、今度は聖から李織との距離を縮める。聖は弓使いで大抵は遠距離攻撃なのに、なぜ?と李織は困惑する。
ガシャン、と音がする。聖が弓を床に叩きつけた音だった。
その音に気を取られる間もなく聖は臨戦態勢に入る。
(避けられない!)
李織は体を固めて防御の姿勢を取る。
聖は拳を握りしめ、そんな李織の鳩尾めがけて殴る。
あまりの勢いの良さに李織は2m近く先まで吹き飛ばされてしまった。ただ、防御の姿勢を取っていたためダメージは見かけほどではない。不幸中の幸いだろう。
「……」
聖は何も喋らない。先程のぐったりとした様子はなくなったが、今度は全身から殺気を感じる。
ここで負けてはいられない、と李織は再び聖に近づいた。
両手を振り上げ、勢いよく振り下ろす。
聖の服は左右に裂かれ、そのまま体にも傷をつけた。血飛沫が顔に付着する。
遂に聖は地に膝をつけた。
「……少々やりすぎましたかね。」
もう聖の顔から戦う意思は感じられなかった。

「聖……聖!」
雅久が李織と聖の方に近づいてくる。
もう手の止血は済んだようで、さっきまであれほどに出ていた血はおさまっていた。
「聖さん……どうされたんですか?」
「……」
未だ黙ったままの聖。その目には光がなくまるで死んでいるかのようだ。
「聖ー!しっかりしろ!!」
雅久が聖の肩を強引に掴み奥へ手前へと揺れ動かす。
「……雅久?」
「聖!意識が帰ってきたのか!」
「あれ、オレ、何を…?」
意識を取り戻した聖は頭を抱え悩み込む。
「そうだ……オレ……」
「どうした!なにか思い出せたか!?!」
「雅久……うるさい。……そうだ、あいつに……さっきの怪物に意識を乗っ取られて……」
雅久の相変わらず大きすぎる声に嫌な顔をしながらも、聖はぽつぽつと話し始める。
「オレ、結構暴れ回ってたよな。ごめん。」
反省した様子の聖だったが、李織は呆れたような顔をする。
「本当ですよ…」
さっきの戦闘を思い出しているのだろう。一対一の戦いだったこともあり、李織の体力は相当消耗させられたはずだ。
「……その代わりさ、さっきの怪物から敵の本拠地を聞いたんだ。有益な情報だと思う。」
少し笑ってみせる聖。
「……そうか!よくやったぞ聖!」
雅久は嬉しい気持ちを隠そうともせず、聖の肩をぐいと引き寄せる。
それに対し聖は嫌そうな顔をしながらも、すぐに涼しい笑みを浮かべた。
――その様子に李織が不信感を抱いたことも知らずに。
「それじゃあ、そこに案内するから。雅久、李織さん、オレについてきて。」
「もちろんだ!!」
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