第29話

文字数 1,879文字

ピピピピピ――
けたたましい音で起こされる。
時計を見ると7:00。
今日は敵の本拠地へ赴く日だ。
集合時間まではまだあと2時間ほど余裕がある。

――こうやって玲亜二と出会った日の夢を見るのも久しぶりだな。
そんなことを考えながら顔を洗い、朝食を摂る。

あの日から3年、一緒に冒険をしてから2年が経つが、未だに玲亜二を「守らなくては」と思う時は度々ある。
何故自分は1つ年上の、しかも男なんかにこんな感情を抱いているのか分からないが、あの日――妹を守れなかった日のようにはなりたくない。心の底からそう思っている。


「準備は出来たか?」
貴祢が問いかける。仲間も頷く。
「初は出来ましたよ〜。ばっちりです!」
「おれも準備万端だ!いつでも行けるぞ!」
皆が貴祢の手にそっと自身の手を重ねる。世界の狭間へ行くためだ。
――ふっと、視界が白んでくる。
しばらくすると、世界の狭間にたどり着くことが出来た。

「今回は街が出来たという旨の異変じゃない。自分たちから敵の居場所に向かうんだ。危険なことをしている。それを忘れないで。」
貴祢の警告を胸に、それぞれ歩いてゆく。
聖がかいてくれた地図を頼りに敵の本拠地を探し出す。
こっちでもない、あっちでもない、と苦戦するかと思ったがそんなことは無く、案外早くみつけることができた。

それは大きな神殿のようだった。そして奥に塔が見える。
「この神殿の先か……あの塔が敵の本拠地だな。」
真吉が分析する。真吉は割と感情で動くタイプだ。こんなふうに冷静な分析が出来るようになったのは2年前から成長したところだろう。
「幸い、神殿のほうには敵は居ないね、それじゃあ早速塔に入っちゃおうか。」
貴祢はずんずん歩いてゆく。
「ああ。俺が敵を寄り付かせないための魔法をかけておいたからな。感謝してくれてもいいんだよ?」
笑みを浮かべながら冗談っぽく話す玲亜二。
そうなのか、それはありがたいと4人は感謝する。
塔の扉の目の前まで来た。その塔の扉は非常に重そうで、行ったら帰って来れないかもしれない、という恐怖を抱かせるには容易かった。
「……みんな、良い?行くよ?」
貴祢はもう後戻り出来ない、と覚悟して言う。真吉は拳を握りしめ、必死に恐怖と戦っているようだった。
玲亜二は少し変人な所があるため、あっけらかんとした様子でニコニコしている。初も同じくだ。そして千多喜は無表情だった。何かほかのことを考えているような、そんな表情。
「千多喜?大丈夫?」
貴祢が心配して声をかける。この所千多喜は少し変だ。
(何だか……嫌な予感がする。)
そんなことを思いながらも、ああ。大丈夫だ。と返事を返す。
全員の意思を確認したところで、貴祢は塔の扉を開く。
ギィ……と音がなる。その扉はとても重そうで、男性1人ではなかなか開くのが大変そうだった。
やっと全員が塔の中に入り、扉が閉まる。
「はあ……既に疲れちゃった。」
貴祢がそうおどけてみせる。仲間たちの緊張を和らげるためだろう。こういうところもリーダーらしい。
さあ、進もう。この先は敵にも気をつけなければならないよ。と玲亜二が促したところで――

――ガチャン!
「……嘘、!」
なんと、先程開けた扉に鍵がかかったのだ。
「落ち着いて!1回調べてみよう。」
貴祢がみんなを制止させ、一旦扉を調べる。
「……これは、やばいかもしれない。」
貴祢が言うには、この扉は中から鍵をかけることが出来ない構造のようだ。つまり、鍵を掛けるのも――そして、開けるのも、外からしか出来ない。とのことだ。
「な、なあ、どうしたらいいんだ?もうおれ達は……ここから出られないのか?」
真吉が絶望した様子で地に膝をつける。
真吉だけではない。ほかの仲間も皆、余裕がなくなってきていた。
「と、とにかく、ここから外に連絡はできる?」
初が珍しく早口で喋る。
「無理だ!狭間からは現実世界に連絡する手段は無い!」
世界の狭間に最も詳しい貴祢が言う。貴祢が言うなら間違いないのだ。貴祢より世界の狭間に詳しい人はここには誰もいないのだから。
「じゃあ、俺たち、本当に――」
「……うん。」
先程のニコニコとした笑みは消え、玲亜二の顔には乾いた笑いが張り付いている。
千多喜はずっと下を向いていて、表情がわからない。
「……絶望している暇はない。ここにも成仏し切れていない人の魂があるかもしれない。そして――自分たちがここから出るヒントもあるかもしれない。先に進まないことには何も変わらないよ。」
貴祢は皆を勇気づける。
それに感化されたのか千多喜は顔を上げ、覚悟を決めたような様子を見せる。
「……進もう。」
そう呟く。
「うん。」
仲間たちもそれに応える。
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