第33話

文字数 1,681文字

そう。これは殺し合い。
どちらかが相手を殺さなければ――どちらも死ぬ。
そしてきっと、残された3人の仲間たちもこの塔から出ることが出来なくなる。

そう。これは殺し合い。
せざるを得ないのだ。いくら扉を壊そうとしても、壁を破ろうとしても、びくともしなかった。さっき乗ってきたエレベーターも既に消えていて、なすすべがなかった。

千多喜の攻撃に応えるように玲亜二も魔法を放つ。部屋全体に風を巻き起こす魔法だ。唱えた途端、竜巻のような風が出現し、それは千多喜の方へと向かった。

本当はこんなこと、したくないのに。

(俺は、何をやっているんだ。)

魔法が千多喜に直撃する。
「……痛っ……!」

自分の魔法で傷つけられる千多喜の姿を見ていると、段々心がおかしくなっていく感覚に陥る。
なんて残酷なルールなんだ。千多喜を殺さなければ、自分は生きることが出来ない。

いや、千多喜のいない世界で生きる意味はあるのか?

そんなことを玲亜二が考えていると、千多喜は隙ありというように玲亜二の脚に銃弾を放つ。

痛い。とても痛い。

でも、このまま千多喜に殺されるなら……それはそれで良いのかもしれない。

覚悟を決めた玲亜二が攻撃する意志を見せず千多喜のほうに歩いてゆく。
「……な、なんだ?」
千多喜は警戒した目でこちらを見る。
危ないことはしないのに……と思うが、警戒されるのは仕方がない。

「千多喜。」
玲亜二は何かを決心したように話し出す。
「……なんだよ。」
それでもまだ千多喜は警戒を解かない。
「……生きたいか?」

「……ああ。できるなら、お前と一緒に。」
千多喜も同じ気持ちだったのか、と玲亜二は僅かながら安心する。

「でもそれは……出来ないんだもんな。」
千多喜が下を向く。思い詰めている時に下を向くのは千多喜の癖だ。
「俺、どうしたらいいんだろう……」







「俺、死んでもいいよ。お前のためなら。」
玲亜二は千多喜の右手に持っていた銃を自身の喉にあてがう。
「……っ!」
千多喜は言葉が出ないようだった。
しかし玲亜二は流暢に話す。
「お前のいない世界で生きるくらいなら、俺は死んだ方がマシだ。お前に、生きて欲しい。」

千多喜の気持ちを考えない強引な提案。
その言葉に千多喜は怒ったのか、玲亜二の銃を持つ手を振り払い、体を突き放す。

「……なんで、そんなこと言うんだよ。」
いつもより若干低い声で千多喜は自身の気持ちをぶつける。
「俺のこと置いて、1人で消えるつもりなのかよ!!」
語調が強まる。いつもはなかなか怒ることの無い温厚な千多喜だが、こればっかりには納得がいかないようだった。

「……俺は、千多喜に生きていて欲しいし、千多喜のいない世界では生きている意味は無い。だから、俺が死ぬべきなんだ。分かってくれるだろ?」
これが1番合理的だ、と言わんばかりに玲亜二は説明する。
千多喜の気持ちも知らずに。

「……俺は、お前を守りたいって思ってるよ。」
千多喜はやっと顔を上げ、涙目でこちらを見つめてくる。

「出会った日のこと、覚えてるか?あの日から俺は守るものが無くなったんだ。でも、お前と出会って、お前と話して、お前を守りたいって思った。今、俺が守りたいのはお前だけなんだよ。」

「だから――」
「だから、自分が死ぬ、って?」

千多喜の話に口を挟む玲亜二。全てを見透かしたようなその表情に、千多喜は息を飲む。

「ありがとう。そう思ってくれて。でも、今回だけは譲れないんだ。」

もう一度、千多喜の銃を強引に掴み、自分の喉へとあてがう。その玲亜二の行動を止めようとする千多喜だったが、先程よりも強い力でガシッと固定され、動かすことが出来なかった。

「その引き金を引けば、千多喜、お前は助かるよ。」
ジリリリリリ……
玲亜二の声を遮るようにどこからともなくブザーが鳴る。どうやら制限時間を知らせるためのブザーのようだ。
「残り20秒」
「ほら、早く、引き金を。」
ブザーにも玲亜二にも焦らされる千多喜には、もう冷静な判断をできる脳は残っていなかった。

「……っ、ごめん。」
千多喜の人差し指に力がこもる。

「ごめん。ごめんごめんごめん、ごめん。」

「残り10秒」

「本当に、ごめん……」

パァァン――――




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