人と人

文字数 2,441文字

・・・さて。

ではここでシスターを迎え撃ちます。



ここはとある倉庫の中。


霊体であることを活かして、先行させたアーマに中の様子を確認してもらい、ほどよく箱荷が残っているところを選んで潜り込んだ。



シスターからは逃げるんじゃなかったのか?

何せ、時速60キロ以上で走れる相手です。

車があるならばいざ知らず、単純に走ってはあのシスターからは逃げられないでしょう。


可能であれば縛り上げるか、最低でも足止めはしないと逃げ切れません。

なるほど・・・

具体的には?

罠を張るような時間もありませんので、結局のところは数にものを言わせた力ずくです。


隠れるに適したこの場を利用して、何とか相手の隙をつくしかありません。

螺理多さん、先程は見事に投げ飛ばしていましたものね。
本当に、人間ってあんなに飛ぶものなんですね。

わたし、はじめて知りました。

あれについては、相手の力をうまく利用したにすぎません。

度重なる失態に焦っていたんでしょう。


あのシスターの動きも短調で、読みやすいものでした。

それこそ、簡単に流れに乗せて投げ飛ばせるほどに単純な。

合気道、みたいなものか?

まぁ、そんなところです。


―――ただし、次はそうはいきません。

あちらも、もうあとがない。

確実にこちらを仕留めるために、頭を切り替えてくることでしょう。

そうですね。

天使は厳しく、冷酷です。


唯一神への信仰厚い悪魔祓いといえども、失態続きでは処罰されかねないでしょう。

あちらも必死、というわけか。

さて、それを踏まえたところで。


向こうとしては、絶対に始末しないといけない優先順位というものがあります。 

無論、全員逃がさないのが前提ですが・・・


まず第一にアーマさん。

次に別乃世さん、僕、豊秩さんの順番ですね。

悪魔度の高い順だな。

アーマさんは、天使の言うところの悪魔そのもの。

別乃世さんは悪魔との契約者。


わたしと所長はその信奉者といったところでしょうか。

そうですね。

ですが彼女の中では今、その順番はこうなっているものと思われます 。


一番にまず僕。

続いて別乃世さん、アーマさん、豊秩さん。

うむ?
私の順位が下がるというのは?

アーマさんは、彼女らの言うところの悪魔です。

本来であれば、当然最優先で対処すべき標的ではありますが・・・


逆に言えば、最悪逃げられてしまっても仕方がない相手とも言えます。


悪魔祓いといえども、所詮は人の身ですからね。

仮に逃げられても言い訳は立つ、ということです。

つまり奴は今、守りに入っていると。

そのとおり。


悪魔相手では逃げられる可能性も非常に高い。

しかし、これ以上は失態を重ねられないとなると・・・


同じく逃げられるわけにはいかないが、確実に仕留められる。

僕たち人間に標的を絞るのが妥当でしょう。

なるほど・・・

豊秩さんの優先順位が最も低いのは説明するまでも無いでしょう。

運動能力が一番低いし、最悪、逃がしてしまっても問題はない程度の背徳度です。


僕と別乃世さんの優先順位については、ほぼイーブンですね。

ただ、先程投げ飛ばされたことに加え、天使に対する挑発行為。


―――心情から言えば、標的にするならまぁ僕からでしょうね。

螺理多さん、まさか・・・

―――僕が姿をちらつかせて、シスターを誘導します。


多少は警戒されるかもしれませんが・・・

あちらとしても眺めているだけでは埓があきません。


必ずこの倉庫の中に入ってきますので、僕が相手をします。


そのまま何とか投げるなり組伏せるなりしますので、それが成功したら、皆さん一緒に押さえ込んで下さい。

それって、ほぼ正攻法では・・・
それしかないほど、切羽詰まっているということか。
一応言っておきますと、それほど分は悪くありません。


むしろ悪魔さんが天使を抑えてくれたおかげで、勝ち筋が見えてきたと言っていいでしょう。

たしかに・・・

トリィが来てくれなかったら、あの場で全滅していました。


それほどまでに、断罪天使は危険な存在です。

まぁ、あの分ならトリィは大丈夫だろう。

それよりヤバいのは、俄然こっちだ。

―――付け加えて言うならば、相手は今、非常に消耗している。


昨夜、何があったかは具体的には分かりませんが、何者かとの戦いがあった様子。


そのあとはベッドもない倉庫の中で、碌に身体を休めることができない状態で一夜を過ごし、今日は今日で逃げる僕たちの車を走って追いかけ、さらにはゴム弾での銃撃を受けています。

昨日の相手は、俺が噛んだ阿波津・怜子という女のゾンビのはずだ。

集団と言っていたから、かなりの数に増殖していたんだろう。

阿波津・怜子・・・あの?

ん?

知っているやつか?

直接の面識はありませんが・・・

警察からもマークされている危険人物です。


若者で構成された犯罪グループの中心核となる人物ですが、色々なコネを持っているようでして、なかなか尻尾を掴ませないと聞いています。

そういえば、聞き込みした女の子たちも「ヤバい」「ヤバい」言ってたが・・・

そんなにヤバい奴だったのか。

阿波津・怜子に噛み付いて、無事逃げおおせたのは幸運でしたね。


下手したら、そこで捕まってゲーム・オーバーでしたよ。

マジか。

あの阿波津・怜子を相手にしたと言うのであれば、ただでは済まないでしょう。

それ相応の対価は支払っているはず。


―――例えば、あの神秘術。

我々の車を追う時にも使っていましたが、昨夜の戦いでも使っているはず。


無制限に使えるのであればお手上げですが、無から有は生み出せない。

使用するにも何かしらの消耗があるはずです。


―――違いますか、アーマさん?

そうです、神秘術の仕組みは分かりませんが・・・


例えば私たち女神や悪魔が使う魔術などは、各々の内に秘めた魔力を消耗して使用します。

神秘術も、使えば必ず「何か」を消耗しているはずです。

それならば―――

むしろ、今なら勝てると言い換えてもいいでしょう。

・・・分かりました、螺理多さんを信じます。

どのみちもう、手遅れだ。

そろそろ追いついてくる頃だろう。


―――ここで何とかやるしかない。

では皆さん、決して死なないよう―――
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登場人物紹介

【主人公】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


現代社会への不満故に、軽トラに引かれることにより異世界に転生することを決意したポジティブ・ニート。


紆余曲折を経て異世界転生に失敗。

なんやかんやあってゾンビとなる。

【異界転生女神】

 アーマ・シュクレイム


時空神アナザを主神とする女神。

死に至る者の強い願いの力を使い、その者を異世界に転生させる。


別乃世・望の強い思いに呼応して降臨するが、思いの外即死に至らなかった別乃世が苦痛のあまり、異世界転生よりも傷を治して生き返りたいと思う願いを強めてしまい失敗。

機転を効かせてフォローに成功するも、その代償として神界に帰れなくなる。

アーマ・シュクレイム

(実体化)


食事によるエネルギー摂取のために霊体濃度を高め、実体化した姿。

服も霊体であるため、服装は自由自在である。


摂取した食料を消化・吸収・排出しきるまでは霊体には戻れない。

【操霊邪法悪魔】

 トリカラ・マイウー


別乃世・望を蘇生させるためアーマに呼び出された悪魔。

地獄の7大魔王サンダース・トゥモロウアース配下。

死霊を操る邪法を司る。


別乃世とアーマの要望を最大限に叶えるため、別乃世を「人肉を食らうことにより傷が癒えるゾンビ」にする。

トリカラ・マイウー

(実体化)


アーマのご飯を買いに行くために霊体濃度を高め、実体化した姿。

元が霊体であるため、角・羽根・尻尾・顔の傷などの悪魔的アクセントは出し入れ可能である。

【異端断罪天使】

 メンタイ・ハクマイナー


唯一神に仕える天使。


唯一神の縄張りである現世から魂を掠め取る異界転生、神の名を騙る邪女神、魂を弄ぶ糞悪魔、小汚いゾンビなど、神に逆らう有象無象の一切を許さず断罪する。

【エクソシスト】

 シスター・カッドロゥ


唯一神教徒。

メンタイ・ハクマイナーを守護天使とする悪魔祓い。

空手をベースとした体術と神秘術を組み合わせた戦法を得意とする。


街に増殖するゾンビの元を断つため派遣される。

【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・怜子(アワヅ・レイコ)


街ですれ違った別乃世に因縁をつけて、連れの男にボコらせた極悪女。


お腹のすいた別乃世にがぶりとやられてゾンビとなるが、ちょっと噛まれた程度であったため屍にはならず。

人肉を食らう欲求とゾンビ感染能力を受け継ぎレッツ・パーリィする。

【探偵】

 螺理多・極(ラリタ・キメル)


螺旋のごとく捻れ絡み合う、幾多の世の理を見極めることを信念としており、その信念はときに利益や倫理をも度外視する。


理屈さえ通れば神も悪魔も許容する柔軟な思考の持ち主。

【探偵事務所アルバイト】

 豊秩・満子(トヨチツ・ミチコ)


螺理多探偵事務所のアルバイト。

年の割に落ち着いており、色々な話題に即座に対応できる感性の持ち主。


螺理多にはちょっとした憧れを抱いている。

通称ちち子。

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