遭遇

エピソード文字数 2,969文字

――――――ぁぁぁ!
・・・あら、どなたかいらっしゃいましたか。
まずい、こっちに来るぞ!
逃げましょう、はやく!

豊秩さん、動いてください。

ぁ・・・ぁ・・・



しかし豊秩は動けない。

目の前で人が殺され、燃やされたのだ。


理解を越えた恐怖で足がガクガクと震え、力が入らない。



・・・無理だな。

―――危険なのは私と別乃世さんです。


あれは悪魔祓い・・・

ただの人間である豊秩さんが危害を加えられることはないはずです!

だが万が一がある、置いていくわけにもいかないだろう。
―――そうですね、逃げるのはお勧めしません。

お話を伺って、問題ないようでしたら無事にお帰しします。

うぉ、来た!
失礼致します。


私、唯一神教会にて神にお仕えしております、シスター・カッドロゥと申します。


さて早速ですが、あなた方。

私のことを、何やら詳しく御存知の様子・・・

いや、俺たちは何も見ていない。

アンタが何をしていたのかも、全く知らない。


このコが悲鳴を上げたのも、苦手な虫が飛んできたからだ。


・・・というところで、見逃してはくれないか?

・・・ああ、なるほど。

ですが、見て見ぬふりなどして頂かなくても結構ですよ。


先程浄化した男性は、いわゆるゾンビと呼ばれているものでして。


私にやましいところは御座いませんので、それを理由に口封じなどということは致しません。

ゾンビ・・・
―――ですので御安心下さい。

あなた方が善良なるただの人であれば、私が危害を加えることはありません。

了解した。


・・・安心していいそうだ。

そろそろ落ち着いたか?

は、はい、何とか・・・



ちゃ~ちゃ~ちゃちゃ~ちゃちゃ~



あ・・・



場違いに明るい曲が流れ出す。

豊秩のスマホの着信音だ。



電話ですか?

どうぞ。

あ、は、はい!

えっと、あ・・・

螺理多からか?

俺が出よう。



手が震え、うまく操作できない豊秩からスマホを受け取り、別乃世が電話に出る。



もしもし、ああ俺だ。

今ちょっと取り込み中でな。


・・・うん、こちらは駅から自宅に向かって歩いてるところだ。

そっちは?


・・・そうか。


・・・そうだな、たのむ。

・・・お電話、もうよろしいので?
待ち合わせしている友人からだった。

そうですか。

では、手早く済ませましょう。


お話の続きですが・・・

その前に。

こっちのコは先に帰らせてやってくれないか。


用があるのは、俺とこっちのアーマなんだろう?

え・・・?
そうですね。

そちらの方は、どうやら普通の人のようですし・・・


私が用があるのは、あなた方二人ということになりますね。

―――だそうだ。

お前は駅に戻れ。

え、でも、そんな・・・
お前には分からないことだし、知るべき話でもない。

これは俺とアーマの問題だ。


螺理多が駅で待っている。

お前はさっさと行け。

わ、かりました・・・
どうぞ。
・・・・・・



豊秩が、小走りに駅の方へ走り去る。



・・・随分と簡単に行かせてくれたな。
人は全て我が主の御子。

私が危害を加えることはありえません。


・・・それに、誰かを呼ぼうとしても無駄なこと。

駆けつけてくる頃には全て終わっておりますので。

・・・それで、話というのは?
そちらの方、私が何者か御存知でしたね。
・・・教会の、シスターさんですよね。

―――悪魔祓いの。

御存知ですよね?

い、いえ!

そんな・・・

知らないはずはないでしょう。

・・・貴女からは、悪魔の気配がします。

悪魔?

何を言って・・・

そして、貴方からは悪魔の魔力を感じます。


―――知りたいことはこれで十分。

あなた方を浄化します。

く―――!
―――別乃世さん、下がって!



殺意を持って間合いを詰めようと、歩を進めたシスターと別乃世の間に、割り込むようにアーマが身を乗り出す。



―――!

―――主神アナザの名の下に導かん、境界隔てし隣の世界へ!



シスターが身構えるよりも早く、アーマが叫ぶ。

手をかざして発した言葉が終わるや否や、シスターの姿が忽然と消えた。



消えた!?

―――逃げます!

走ってください、別乃世さん!


空間を隔てて閉じ込めただけです。

簡単な術ですので、そんなに時間は稼げません!

む、なんだか分からんが了解した!


ぎぃん! 


別乃世たちが走りだして間を置かず、金属が割れるような音と共に空間に亀裂が入り、弾け飛ぶと同時にシスターが姿を現した。



―――そんな、もう!?

構わん!

走るぞ、アーマ!

―――逃げられませんよ。



素早く地を蹴り、シスターの身体が宙を舞う。


常人では考えられないほどの跳躍力を見せ、シスターは別乃世たちの頭上を軽々跳び越えて、彼らが走り去ろうとする前方に回り込んだ。



何だと―――!?

あのまま何か仕掛けてくるかと身構えておりましたが・・・

ただの空間隔離でしたか。


この状況下で、申し訳程度のあの魔術・・・

中級下位の悪魔といったところですね。

・・・ゾンビを産み出した悪魔を探しているのでしょう?

私たちは違います。

―――確かに。

今の術からして、貴女は「時空邪神」アナザの系統の悪魔なのでしょう。

先程のゾンビの要因となる悪魔は別に存在する。

でしたら―――

―――ですが。

「悪魔がこちらの世界にいる」、それがそもそもの大罪なのです。


魔界という牢獄から抜け出した脱獄囚。

全能なる我が主の楽園を荒らす害虫は、全て駆除する必要があります。

・・・!
―――そんなにぼろぼろと脱獄される牢獄を造るとは、また随分と雑な全能神だな。
―――!
別乃世さん、ダメです!

どのみち俺も始末するつもりなんだろう?

なら、言いたいことは言っておいてやる。

そうですね。

そちらの悪魔はゾンビとは無関係のようですが・・・


さて、貴方はどうでしょう?

見たところ、そちらの悪魔とはまた別の魔力を感じます。

―――さて、ということだ。

お前は逃げろ、アーマ。

え!?

そんな・・・!

あら、二人とも逃がしませんよ?


ぱーーーーーーーーーーー!!!!!!


突如、クラクションの音が鳴り響く。


別乃世たちが向かおうとしていた方角。

シスターの後ろ、駅のある方向から、車が猛スピードで向かって来るのが見えた。



暴走車・・・!?



別乃世とアーマは咄嗟に道の端に寄り身を隠す。


背を向けていたシスターは一瞬反応が遅れたが、先程見せた跳躍力により迫り来る車の上を飛び越えて、無事に身を躱すことに成功する。


だが、それにより別乃世たちとの距離は大きく離れることとなった。



くっ・・・!


ぎゅきゅきゅーーー!


―――こっちです!



急ブレーキをかけた車の、開け放たれた後部座席のドアから豊秩が顔を出した。



よし乗れアーマ!
・・・え、きゃ―――!?



別乃世に尻から抱えあげられたアーマが悲鳴を上げるが、構わずそのまま車に押し込める。




―――よし行け!



無理矢理押し込んだアーマに続いて、別乃世が強引に車内に身体を捩じ込み、ドアを締める間もなく発車を促す。



はい、しっかり掴まって。
待ちなさ・・・



シスターの静止を振り切り、車は再び猛スピードで発進した。 








助かった・・・

しかし、車で突っ込むとはムチャするなアンタ。

豊秩さんから話を聞いた上で、あの程度の無茶は必要と判断しました。

お二人の身の安全を優先したまでです。

間に合ってよかったです・・・!
電話で所長が駅に着いたと言っていたからな。

時間を稼げれば、何とかなるとは思っていた。

さて、大体のところは豊秩さんから伺いましたが・・・

まずは安全に逃げ切ることですね。


考えるべきこともいくつかありますし、詳しい話は事務所に戻ってからにしましょうか。

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登場人物紹介

【主人公】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


現代社会への不満故に、軽トラに引かれることにより異世界に転生することを決意したポジティブ・ニート。


紆余曲折を経て異世界転生に失敗。

なんやかんやあってゾンビとなる。

【異界転生女神】

 アーマ・シュクレイム


時空神アナザを主神とする女神。

死に至る者の強い願いの力を使い、その者を異世界に転生させる。


別乃世・望の強い思いに呼応して降臨するが、思いの外即死に至らなかった別乃世が苦痛のあまり、異世界転生よりも傷を治して生き返りたいと思う願いを強めてしまい失敗。

機転を効かせてフォローに成功するも、その代償として神界に帰れなくなる。

アーマ・シュクレイム

(実体化)


食事によるエネルギー摂取のために霊体濃度を高め、実体化した姿。

服も霊体であるため、服装は自由自在である。


摂取した食料を消化・吸収・排出しきるまでは霊体には戻れない。

【操霊邪法悪魔】

 トリカラ・マイウー


別乃世・望を蘇生させるためアーマに呼び出された悪魔。

地獄の7大魔王サンダース・トゥモロウアース配下。

死霊を操る邪法を司る。


別乃世とアーマの要望を最大限に叶えるため、別乃世を「人肉を食らうことにより傷が癒えるゾンビ」にする。

トリカラ・マイウー

(実体化)


アーマのご飯を買いに行くために霊体濃度を高め、実体化した姿。

元が霊体であるため、角・羽根・尻尾・顔の傷などの悪魔的アクセントは出し入れ可能である。

【異端断罪天使】

 メンタイ・ハクマイナー


唯一神に仕える天使。


唯一神の縄張りである現世から魂を掠め取る異界転生、神の名を騙る邪女神、魂を弄ぶ糞悪魔、小汚いゾンビなど、神に逆らう有象無象の一切を許さず断罪する。

【エクソシスト】

 シスター・カッドロゥ


唯一神教徒。

メンタイ・ハクマイナーを守護天使とする悪魔祓い。

空手をベースとした体術と神秘術を組み合わせた戦法を得意とする。


街に増殖するゾンビの元を断つため派遣される。

【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・怜子(アワヅ・レイコ)


街ですれ違った別乃世に因縁をつけて、連れの男にボコらせた極悪女。


お腹のすいた別乃世にがぶりとやられてゾンビとなるが、ちょっと噛まれた程度であったため屍にはならず。

人肉を食らう欲求とゾンビ感染能力を受け継ぎレッツ・パーリィする。

【探偵】

 螺理多・極(ラリタ・キメル)


螺旋のごとく捻れ絡み合う、幾多の世の理を見極めることを信念としており、その信念はときに利益や倫理をも度外視する。


理屈さえ通れば神も悪魔も許容する柔軟な思考の持ち主。

【探偵事務所アルバイト】

 豊秩・満子(トヨチツ・ミチコ)


螺理多探偵事務所のアルバイト。

年の割に落ち着いており、色々な話題に即座に対応できる感性の持ち主。


螺理多にはちょっとした憧れを抱いている。

通称ちち子。

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