女神と悪魔、そして贄
文字数 2,458文字
ぐつぐつ煮えた、超高温の地獄の鍋。
その中では瀕死の重傷を負っていた人間、別乃世・望が唐揚げにされていた。
なんだ、「神」を名乗っていてもやっぱり神「魔」だな。
やるじゃあないか女神共も。
やり口が陰湿なのが気に入らないが。
・・・よし、今回の原因の一端はそいつらにもある。
後で顔と名前を教えろ。
そのうち、今日のお前よりもヒドい目に合わせておいてやる。
鍋の中からカラッと美味しそうに揚がった衣の塊が、文字どおり宙に浮き上がる。
当然、中には別乃世・望が入っている。
鍋は出てきた時と同じく忽然と消え、別乃世の入った衣の塊が悪魔と女神、2人の眼前に不気味に漂っている。
人間を完全に蘇生させられるレベルの術は魔王や神魔の主神クラスでも不可能だ。
・・・もっとも、こいつは瀕死であっても死んではいなかったから「蘇生させる」ってのは見当違いだ。
探すなら、瀕死の怪我を治せる奴を探すべきだったな。
―――とはいえ、限られた時間でそんな奴を見つけて連れてくるのはまぁ不可能だったろうがな。
アタシを呼び出したお前の判断は間違っちゃいない。
曲がりなりにも「傷を癒す」ことはできる。
ただし、その方法が「ゾンビ化」ではあるが。
そうだな・・・
まずはこいつの現状を説明しようか。
今のこいつは、瀕死の状態から「死」に移行しないように「身体の時間」を止められている状態にある。
もっとも、「止める」といっても今、この状態で止めるということだからな。
仮に新たに何かしらの傷を負ったとすると、ダメージが上書きされて、それが原因で死に至ることもある。
不死なんて、蘇生と同じだ。
誰にもできん。
―――さて、これで一時的に死を免れはしたが、身体が死にかけているのは変わらない。
そして、時間を止めるにしても限りはある。
身体の時間が止まるんだ、代謝なんかの必要な機能も止まってしまう。
このまま放置しておけば、遠からずコイツの身体は腐り落ち、崩壊するだろう。
そして中から火傷ひとつない別乃世の身体が現れる。
まだ意識が混濁する中、悪魔の言葉を理解する暇もなく。
別乃世・望の意識は再び遠のいていった―――