異界転生女神 ~アーマ・シュクレイム~
文字数 2,760文字
―――数日後。
別乃世・望は軽トラックに轢かれ、派手に吹っ飛んでいた。
辺りは漆黒の闇。
だが、何も見えないわけではなく、身体は動かせないものの自分の身体を視認することはできている。
だが、不思議と目は閉じているものと感じられる。
(これが、あのスレ主が言っていた「生と死の狭間」か?)
そう。異世界転生したと名乗っていたスレ主が言っていた。
即死さえしなければ、必ず生きている状態と死んでいる状態の中間線、「生と死の狭間」を認識できると。
これがそうに違いない。ならば次にすることはひとつ。
力を振り絞るが身体は動かず声も出ない。金縛り状態だ。
だがここで動かねば、本当にこのまま死にかねない。
先程まで鉛のように重かった身体が嘘のように軽くなる。
目を見開き、自分の存在を確かに認識する。
俺は―――!
生まれ変わりたい。
そして違う世界で自由に生きる。
こんな束縛だらけの世界とはオサラバだ!
男の、心の底からの魂の叫び。
そして、それに呼応するかのように辺りに光が満ちてゆく。
その光の中に現れたのは―――
異世界への転生を望む者。
その思いに呼応し、降臨しました。
貴方の願い、叶えましょう。
私は女神。
異世界への転生を司る女神、アーマ・シュクレイム。
やった!
あのスレ主の言ってたことは本当だったんだ!
覚悟を決めてトラックに轢かれて良か―――
!?
突如として、別乃世の全身を激痛が走る。
いや、今考えると先程から鈍い痛みを身体中に感じていた気がする。
それが、麻酔が切れたかのように突然襲いかかってきたのだ。
痛・・・!
というか苦・・・
痛い、痛い痛い!
何これヤバいヤバい・・・!
苦痛のあまりのたうち回ろうとするも、あまりの激痛に身体を捻ることもままならず、別乃世はただ叫び、痛みを訴える。
それを見下ろしながら、さも当然のことのように淡々と、しかし笑顔で女神は続ける。
トラックにはね飛ばされましたからね。
幸い頭や手足は打撲や擦り傷、骨にヒビが入る程度で済んでますが・・・
内臓なんかは色々破裂したりしてますし、折れた肋骨があちこちに突き刺さってますよ。
(むぅ、狙い通りの即死はしないが致命傷に至る絶妙なダメージ!
しかしこの苦痛は予想外・・・!)
先程までは生と死の狭間、いわゆる仮死状態でしたからね。
痛みもあまり感じなかったのでしょうが・・・
覚醒した今、意識と身体が結び付いて感覚が戻っているのでしょう。
ちょ・・・笑ってないで、何とか!
痛いから痛いから!
一瞬。
何を言われたか分からず思考が停止する。
だが、痛みが別乃世の思考を引き戻す。
え、あれ?
異世界に転生させてくれるん・・・ですよね?
じゃあはい、早速お願いします。
痛くてもう辛抱たまらん!
ええ、ではもうすっぱりと。
私共の異世界転生の方法はですね、その方が亡くなる瞬間に肉体から解放された魂を捕らえ、本来であればこの世界で生まれ変わるものを、異世界に送り届けて向こうで転生させるという方法を採用しておりまして・・・
つまり、貴方が亡くなるまで待つしかないと。
こういうことです。
俺が死ぬまで転生はできない・・・
なるほど道理だ、そりゃそうだ。
―――では、俺はあとどれぐらいで死ぬ?
なかなか豪快にはね飛ばされましたので、すぐに死んじゃうかと思ってたんですけどね。
別乃世さん、思いの外頑丈だったようでして・・・
おそらくお亡くなりになるのは30分後ぐらいになるのかと。
なに・・・!?
くっ・・・だが仕方ない。
即死を避けたのは俺の不始末。
ぶっちゃけキツいが30分、何とか耐えてみせよう・・・!
そのあとはよろしく頼む。
本当は5分も耐えられないぐらいにビシビシきてるがな!
漢らしく覚悟を決めた別乃世に、しかしさらにばつの悪そうな苦笑いを浮かべる女神。
えっとですね、今いるこの空間は、通称「生と死の狭間」と申しましてですね。
死に行く者が死ぬまでの束の間に、今までの生涯を振り返ったりするための場所でして。
うむ、いわゆる走馬灯というやつだな。
俺には不用。
振り返る過去など何処にもない。
そのあたり個人差ありますよね。
まぁ転生を望む方に走馬灯が必要ないのは私も同感です。
ただ私共、転生に関する諸事項を説明するために多少のお時間をいただいておりましてですね。
・・・この「生と死の狭間」の時間、只今通常の3分の1の速さとなっております。
3分の1! それは助かる。
30分の3分の1で10分ガマンすれば・・・
え~・・・はい、30分の3倍の、1時間半は見ていただけますと・・・助かります。
無理!
死ぬわ!―――っていうか死ねないんだわな、1時間半!
無理って、そんなこといわないで―――って、ああ!?
ええとですね・・・
異世界転生は時空と時空の間に強引に穴を開けて移動するという、結構な力業になっておりまして・・・
必要なエネルギーも膨大なものとなります。
そこで、そのエネルギーを転生者の「願い」の力を変換して得るわけなんですが・・・
なるほど!
なんだかすんごいヤな予感がするが、結論は!?
今の別乃世さんの「転生したいエネルギー」の量だと、ちょっと足りないかなぁ~、とか・・・?
ああ!
ダメです、また「転生したいエネルギー」が・・・!
いやムリムリ。
一時間半も耐えきれん、廃人になるわ!
一回キャンセル、仕切り直しを要求する!
ああ、瀕死状態だったか!
でもそこをなんとか!
そもそも、他の皆はこんなキッツイの一時間半も耐えて転生してるものなのか!?
あ~、いえ、その、そこはですね・・・
なんといいますか、大体5~10分程度と聞いております・・・ね。
ほらやっぱり、10分ぐらいじゃん!
なぜ俺だけ・・・
―――俺が絶妙に即死を避けたからか!
―――とにかく!
なんとか死なない方法を頼む!
そしてリベンジ・マッチを!
ああ・・・!
はい、えと、なんとか!
考えてみます。
一時間半あればなんとか―――!
できればもっと早く!早急に!
廃人になっちゃうからね!
は、はい!
では―――そうだ!
ちょっとお待ちを・・・
そうして足早にその場を去る女神。
はたして、別乃世が無事にこの場を乗り切る手段はあるのか?
そして、別乃世は無事に異世界へと転生することはできるのか―――
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