考察2 女神の思惑、悪魔の企み

文字数 2,559文字

食事をするには実体化する必要があることもあり、それならばとアーマ・シュクレイムは霊体の状態から濃度を高め、実体を得た。



それではトリィ、行ってきますね。

おみやげ、何かいりますか?

要らん。

気を使わずにゆっくりしてこい。


その方がこっちものんびり休めて助かる。

分かりました。

では参りましょうか、別乃世さん。

では行ってくる。

気楽に寛いでいてくれ、トリカラ・マイウー。

貴様に言われるまでもない。

さっさと行って暫く帰ってくるな。

心得た。



トリカラ・マイウーの意向を受け、二人は少し遠めのスーパーに買い出しに行くことにした。



・・・あの、別乃世さん?

どうしたアーマ、疲れたか?

スーパーまではもう少しかかるぞ。

あ、いえ。

・・・トリィのこと、やっぱり怒ってますよね・・・?

怒る・・・か。


どうだろうな。

確かに難儀な身体にはされたが、俺が助かるにはこれ以外の方法はなさそうだしな。

では特に彼女のことについては・・・
怒る理由はないな。

まぁ、奴が何を考えて行動しているかはいまひとつ分からんが・・・

―――ああ、良かった。


私にも彼女の考えは深くは分かりませんが・・・

きっと私のためを思ってやってくれてることなんだと思います。

そういえば、二人は学校の同窓生なんだったな。

女神と悪魔が一緒に学ぶとか、仕組みがよく分からんが・・・

あ、そうですよね。


元々の出自や系統によってある程度は決まっているのですが、初めは神族も悪魔族もなく、魔族として生を受けるんです私たち。

ああ、たしかトリィもそんなことを言っていたな。

トリィは「神族」ではなく「神魔族」と呼んでいたが、違いは何かあるのか?

ああ、それは・・・


本当は神魔族という呼び方が正しいんですよね。

ただ、神族の間では自分たちのことを「魔族」と呼ぶのは抵抗があるようでして。

幼い頃から「神族」と呼ぶように言われ続けて育ちましたので、その癖ですね。

あくまでも、魔ではなく神である、ということか。
はい。

そして神魔・悪魔となることを希望した者たちが神魔学園に集められて、こちらの世界のことや唯一神のこと、様々な魔術の基本等を学びます。


その後、単位を納めて無事に卒業することとなった際に神族と悪魔族、どちらかを選んで神界または地獄へと移ることになります。

職業みたいなもんか。

それでアーマは神族を選んだと。

・・・私は、時空神アナザ様直々に生み出された者ですので、進む先は初めから決まっていたようなものですけどね。


トリィは初めからあんな感じのコでしたから、まぁ・・・

当然悪魔を選んだ、か。

確かに、あれで女神はないな。

ふふふ。

でもね、トリィはあれで結構やさしいんですよ?


曲がったことが嫌いといいますか・・・

まぁ、手段を選ばないところがあるので誤解は生みますが。

結果だけ見れば納得は頂けると思います。

やさしい・・・か?
はい、そうですよ?

学生の頃は、苛められてるところをよく助けてもらったなぁ・・・

・・・助けられた?

苛めっこじゃなく?

はい。

本当に、いいコなんです。


・・・なので、恨むのは私だけにしてくださいね。

恨む?

アーマを?

何故だ?

え?

だって、元々は私の失敗のせいで・・・

それについては禊は済んでいる。

赦すといったぞ、アーマ・シュクレイム。


もにゅんもにゅんと・・・

あれは一生涯忘れられない感触だ。

あぅ・・・

恨んで頂いて結構ですので忘れてください・・・

それは無理だな。

たとえ記憶を消されても、これだけは絶対に忘れないぞ。

本当に忘れてください・・・
はっはっは!
・・・これからどうなるんでしょうか。
それは分からん。

少なくとも、俺は人間を食うつもりはない。

最悪、血液をどうにか調達するか、汗で代用可能であればその道を探るか・・・

汗・・・はどうなんでしょう?

トリィは知らないと言っていましたが。

いや、あれは本当に知らないんだろう。

まぁ、それについては明日みんなでじっくり考えよう。


―――お、スーパーが見えてきたぞ。

あ、はい。

では、せっかくなので色々見て回りましょう。

・・・お付き合い頂いて宜しいでしょうか?

ん?

構わんが、腹は空いてないのか?

ちょっと空いてはいますけど、我慢できないほどではありません。


トリィも色々疲れが出ているみたいですし、ゆっくりさせてあげたいので・・・


そういえば、別乃世さんは大丈夫ですか?

身体の時間が止まっているらしいからな。

空腹は特に感じない。


―――そういえば、やはり時間が経てば例の衝動はまたくるんだろうか。

ええ、おそらく。

身体が完治するまでは続くものと思います。

咄嗟に衝動がきたときの対処だけは早めに考えておかないとな。
そうですね・・・
まぁ今はまずアーマの飯だ。

好きに見て回れ。


ただの庶民のスーパーだがな!

はい!







・・・帰ったぞ。

待たせたな、トリカラ・マイウー。

遅くなってすみませんでした、トリィ。

ん、帰ったか。


こちらもゆっくりできたから良かったが、思っていたより遅かったな。

今からメシにするのか?

ああ、いえ。

実はお店の中を回ってるうちにどれも美味しそうに見えてきまして・・・


せっかくなので色々食べ比べして帰ってきました。

食べ比べ?

おい、まさかとは思うが・・・

心配するな、俺は何も食っていない。
安心できないアホさ加減だからな貴様。

出ていく前に釘を刺すのを忘れていたことに冷や汗が出る。

美味しかったですよ。

焼き鳥とかコロッケとかケーキとかプリンとか。


今度はトリィも一緒に行きましょう。

ああ、気が向いたら、な。
さて、じゃあ今日はもう寝るか。

・・・霊体やら実体化やら状態がよく分からんのだが、二人は布団はいるか?

アタシは要らんが、アーマには使わせてやれ。

食ったものを消化吸収するまで霊体には戻れない。

そうか。

では一緒に寝るか、アーマ。

え。
あ?
だって、布団はいっこしかないからな!


お前が!


―――床で!!


――――――寝ろ!!!

ぐぉっ!


ムダに霊体濃度を高めて3発も蹴るな、トリカラ・マイウー!

わ、私は、別に、その・・・
遠慮するなアーマ。

ゾンビに布団などいらん。


―――なぁ?

分かったから!

踏みつけるのやめて!

・・・ふふ。

では遠慮なく。

使わせて頂きますね、別乃世さん。



―――こうして、長かった一日が終わる。



ゾンビとなった別乃世の運命は


その別乃世に救いの手を差し伸べようとする女神の思惑は


そして、別乃世をゾンビとした悪魔の企みは―――



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登場人物紹介

【主人公】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


現代社会への不満故に、軽トラに引かれることにより異世界に転生することを決意したポジティブ・ニート。


紆余曲折を経て異世界転生に失敗。

なんやかんやあってゾンビとなる。

【異界転生女神】

 アーマ・シュクレイム


時空神アナザを主神とする女神。

死に至る者の強い願いの力を使い、その者を異世界に転生させる。


別乃世・望の強い思いに呼応して降臨するが、思いの外即死に至らなかった別乃世が苦痛のあまり、異世界転生よりも傷を治して生き返りたいと思う願いを強めてしまい失敗。

機転を効かせてフォローに成功するも、その代償として神界に帰れなくなる。

アーマ・シュクレイム

(実体化)


食事によるエネルギー摂取のために霊体濃度を高め、実体化した姿。

服も霊体であるため、服装は自由自在である。


摂取した食料を消化・吸収・排出しきるまでは霊体には戻れない。

【操霊邪法悪魔】

 トリカラ・マイウー


別乃世・望を蘇生させるためアーマに呼び出された悪魔。

地獄の7大魔王サンダース・トゥモロウアース配下。

死霊を操る邪法を司る。


別乃世とアーマの要望を最大限に叶えるため、別乃世を「人肉を食らうことにより傷が癒えるゾンビ」にする。

トリカラ・マイウー

(実体化)


アーマのご飯を買いに行くために霊体濃度を高め、実体化した姿。

元が霊体であるため、角・羽根・尻尾・顔の傷などの悪魔的アクセントは出し入れ可能である。

【異端断罪天使】

 メンタイ・ハクマイナー


唯一神に仕える天使。


唯一神の縄張りである現世から魂を掠め取る異界転生、神の名を騙る邪女神、魂を弄ぶ糞悪魔、小汚いゾンビなど、神に逆らう有象無象の一切を許さず断罪する。

【エクソシスト】

 シスター・カッドロゥ


唯一神教徒。

メンタイ・ハクマイナーを守護天使とする悪魔祓い。

空手をベースとした体術と神秘術を組み合わせた戦法を得意とする。


街に増殖するゾンビの元を断つため派遣される。

【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・怜子(アワヅ・レイコ)


街ですれ違った別乃世に因縁をつけて、連れの男にボコらせた極悪女。


お腹のすいた別乃世にがぶりとやられてゾンビとなるが、ちょっと噛まれた程度であったため屍にはならず。

人肉を食らう欲求とゾンビ感染能力を受け継ぎレッツ・パーリィする。

【探偵】

 螺理多・極(ラリタ・キメル)


螺旋のごとく捻れ絡み合う、幾多の世の理を見極めることを信念としており、その信念はときに利益や倫理をも度外視する。


理屈さえ通れば神も悪魔も許容する柔軟な思考の持ち主。

【探偵事務所アルバイト】

 豊秩・満子(トヨチツ・ミチコ)


螺理多探偵事務所のアルバイト。

年の割に落ち着いており、色々な話題に即座に対応できる感性の持ち主。


螺理多にはちょっとした憧れを抱いている。

通称ちち子。

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