天使と悪魔
文字数 3,154文字
女神、悪魔ときて今度は天使か・・・
だが、アーマやトリィと違って話が通じるタイプではなさそうだな。
気を付けてください別乃世さん・・・!
あれは唯一神に逆らう一切を処罰する、断罪の天使。
きっと、私と別乃世さんはその対象になっています。
とにかく車から出ましょう。
このままですと、逃げ場もありません。
・・・神を騙る邪神が一体、悪魔の邪法を受けし邪教徒が一体。
そして、道を違えし人間が二人か・・・
魔物扱いされなかっただけ、まだましです。
天使が自ら断罪する対象は、悪魔や邪神、そして魔物ですから。
そうですね。
愚かな邪教徒よ、お前の断罪は我が使徒シスター・カッドロゥが執行します。
―――そして、そこにいる人間たち。
あなた方は直ちにこの場を去り、悪魔に与せしことを悔い改めなさい。
さすれば、我が主はあなた方の罪をお赦しになることでしょう。
僕たちのことですか?
御心遣い、感謝します。
ついでに、この場の全員をお赦し頂くわけには・・・
いやぁ、減るものでもありませんし。
言うだけ言ってみようかなと。
・・・いや、多分なんか減ってるぞ。
友好度とかそんなのが。
―――天使様!
面目次第もございません。
昨夜に続き、二度までも・・・
良いのです、シスター・カッドロゥ。
これも私の使命・・・
そこの邪神は私が裁きます。
貴女は他の邪教徒共を処罰するのです。
そうですか、残念です。
―――豊秩さん、貴女はもう帰って結構ですよ。
―――構いませんよね、天使様?
彼女には悔い改める余地がある。
・・・豊秩さん、帰ってきちんと神様にお祈りするんですよ?
・・・娘よ。
悔い改める心があるのならば、この場から立ち去るが良い。
だ・・・だめです、わたしも残ります!
足手まといかもしれませんが、螺理多さんを残しては行けません!
絶対にダメですからね!
帰ってくるかどうかも分からないのをずっと待ってるなんて、わたし、おかしくなっちゃいますから・・・!
―――決まりましたね。
この者たち三人を邪教徒と看做します。
シスター・カッドロゥよ、彼の者たちを主の名に於いて断罪なさい!
・・・さて、シスターだけならともかく、「あれ」から逃げられるものかどうか。
・・・皆さん、先に行ってください。
私も時空神の端くれ、何とか食い止めてみせます!
いや、ムリだろアーマ。
真っ青な顔して強がるな。
大丈夫、螺理多がきっと何とかしてくれる!
時空神・・・
我が主の箱庭から魂を掠め取る卑しき邪神か。
神の名を騙る愚かな邪神よ。
その罪の重さを知れ!
天使が剣を振りかぶる。
アーマは恐怖に身がすくみ、動けないでいる。
・・・斬られる。
そう誰もが確信したそのとき・・・
背後から、突然振り下ろされた一撃。
その一撃を、天使はその振りかざした剣でかろうじて受け止めた。
そっちのアホをどうしようが貴様等の勝手だが・・・
アーマに手を出すのならば、アタシが相手になってやる。
天使の頭上に振り下ろした錫杖に力を込める。
天使がそれを押し返そうと力んだ瞬間を見計らい、錫杖を横に逸らしてその力を受け流す。
天使の剣は虚空を薙ぎ、それにより体勢を崩した天使の腹にトリィの蹴りが叩き込まれる。
吹き飛ばされるまではいかなくとも、後ずさった天使とアーマの距離がわずかに離れる。
なんだ、ちょっと目を離している間に妙な奴らが増えたな。
一番デキそうなのはそこのメガネか。
―――おい、お前!
貴様の名前なんぞいらん。
何をしても構わん、アーマを無事に逃がせ。
そっちのちちのでかいやつは足を引っ張るなよ。
あと、お馴染みのそこのアホは―――
可能であれば囮として犠牲になれ。
死んでもいいからそのシスターを引きつけろ。
そして死ね。
―――で。
アタシはこのエラそうな神の御使いとやらを叩きのめす。
トリィ、ダメです!
あれは「断罪天使」、唯一神に逆らう者たちを処罰する、戦闘のプロです!
「断罪天使」?
―――ああ、心配するなアーマ。
この程度で戦闘のプロとはとてもじゃないが―――
天使が振り下ろした剣の一撃を、するりと身体をずらして避ける。
それと同時に手にした錫杖を天使の脇腹に叩きつける。
・・・ちっ。
薄着に見えて、なかなか硬いな。
妙な材質の防具を付けていやがる・・・
―――よし、互角どころかトリィがやや押しているとみた。
ここは任せて逃げるぞアーマ!
いいから行け行け。
お前がいても邪魔にしかならん。
ロクに戦えもしないだろう?
だが、人間相手に遅れはとらないはずだ。
それがたとえ悪魔祓いだとしてもな。
―――こう考えろ。
別乃世たちを逃がしてやるために、一緒に行け、アーマ!
その言葉に意を決したアーマの身体を柔らかい光が包む。
アーマは実体化を解き、霊体と実体の中間体となった。
先頭をきって走り出す螺理多。
向かう先は、倉庫街の中。
失態続きの状況である。
万が一にも逃がすわけにはいかないと、螺理多の行方を遮るシスター。
そのスピードは獣と見紛うほどである。
駆け寄る勢いそのままに。
繰り出された渾身の突きを、しかし螺理多は軽々といなして投げ飛ばす。
軽く数メートル投げ飛ばされたシスターだが、宙で身を翻し、きれいに着地を決める。
だが、その間に走り去った螺理多たちからは、かなり引き離されてしまう形となった。
何をしているのです。
早く追いなさい、シスター・カッドロゥ。
起こった事実を飲み込めず、茫然としていたシスターに叱責が飛ぶ。
我に返ったシスターは、一目散に別乃世たちの後を追った。
くっくっくっ・・・
何だ、随分と御粗末な悪魔祓いだな。
付いてる天使の程度が知れる。
・・・照合完了。
地獄の第六団、「大佐」の名を冠する魔王サンダース・トゥモロウアース配下の死霊術師、悪魔トリカラ・マイウーだな。
七つある軍団の下から二つ目、しかも魔王でありながら「大佐」の呼称で呼ばれる程度の小物の配下。
貴様の方が程度が知れるわ。
なんだ、随分と偉そうに上からものを言うやつだと思っていたが・・・
嘗められないように意気がった、ただの下っ端天使だったか。
習わなかったか?
地獄の七軍団に上下はない。
貴様らが決めた、七つの大罪とやらを司るよう組織されているが・・・
さて、一番強いのはどの軍だ?
嫉妬か、怠惰か、色欲か?
傲慢、暴食、憤怒・・・
なるほど確かに強そうだ。
・・・だが最強は強欲だ!
全てを奪う、飽くなき欲望。
それを司るのが我が第六団だ!
・・・それとな。
「大佐」ってのは敬称だ。
敵からも味方からも、畏怖を込めてそう呼ばれている。
無事に帰れたら上司に聞いてみろ。
先の大戦を知る者で、「カーネル」の字名に震え上がらない奴はそうはいまい!
・・・ならば見せてみるがいい、その最強の第六団とやらの力を。
―――虎の威を借る仔狐めが!
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