異端断罪天使 ~メンタイ・ハクマイナー~

文字数 2,981文字

アーマ!

これは一体・・・?



慌てて車に乗り込んだため乱れた体勢もそのままに、別乃世は運転席のアーマに説明を求める。



は、はい!

倉庫で螺理多さんの縄を解いたあと、車のキーを渡されまして・・・!

車のキーは取り上げられていましたが、いざという時のためにスペアキーを持ち歩いておりまして。

縄を解いてもらったあとで、アーマさんにキーを預けて車を取ってきてもらったんですよ。


車自体は、シスターさんに捕まった時に、私がここまで運転させられて来ましたので置き場所も分かっていました。

車の運転、できたのかアーマ。
はい、先程教わりました!
え?
エンジンの掛け方と始動の仕方、あとはアクセルとブレーキの場所さえ分かれば運転なんてできますよ。
―――螺理多に代われ!
は、はい、え?

―――いえ、せめて倉庫街の入口あたりまで。

できる限りあのシスターを引き離しておかないと・・・

螺理多さん・・・!

本当に、本当に心配しました・・・!

―――ああ、すまないね、心配をかけた。


僕も下見だけのつもりだったんだけど・・・


昨日の昼間に聞き込みをしたときに得たシスターの目撃情報の中に、杵崎の経営していた廃ホテルのある辺りで見かけたというのがあってね。


どうにもそこが気になったので車で見に行ったら、突然最上階から爆音とともに閃光が―――

―――おい、待った!

あのシスター、走って追いかけてきてるぞ!?



別乃世の声に後ろを振り返る一同。

そこには車の十メートルほど後ろを走って付いて来るシスターの姿が。



え!?

で、でも―――今の速度、60キロですよ!?

なるほど、あれも神秘術による肉体強化とやらですか。


徐々に間合いを詰めてきているということは、60キロ以上のスピードで走っているということですね。

もっと飛ばします!

ああいや、まてまて!


いくら無人っぽいとはいえ、立ち入り禁止じゃないんだ。

間違って人でも轢いたら取り返しがつかん。


螺理多、何かいい案はないか?

そうですね・・・

いくつか非殺傷用の武器を積んでありますので、それを試してみましょうか。

武器!?
そんなのあったんですか!?

いえ、まぁ、武器といっても市販のものですけどね。


―――では手始めに、これいってみましょうか。



そう言って螺理多が座席シートの下から取り出したのは、映画や漫画でお馴染みの・・・



ライフル!?

ああ、ご心配なく。

弾はゴム製の物ですので、当たっても死にはしません。


―――当たり所次第ではありますが。

ゴム弾・・・

でも、そんなのそこらで売ってるか!?

さて、どうなんでしょう?


僕の場合は知り合いの刑事―――

いや、親切な行商の方から譲って頂きまして・・・

市販じゃなくて横流し品じゃん!

まぁまぁ。


―――それよりも。

今問題なのはこれがあのシスターに通用するか、です。



そう言いながら助手席の窓を開けて、身を乗り出してライフルを構える螺理多。


当然シスターもそれに気が付くが、走る速度は緩めない。




意にも介しませんか。

それでは失礼―――



こちらも一切の躊躇いもなく、シスターに銃口を向けて引き金を引く。


しかし、その直前に走る軌道を大きくずらし、シスターはライフルの射線から身を交わした。



・・・ほう?



続けて三発。


ライフルの弾が発射されるが、シスターはその悉くをまるで見えているかのように綺麗に交わす。



なるほど、所詮は弾丸。

撃つタイミングさえ分かれば避けることは造作もないと。


指の動きか何かの気配か・・・

どちらにせよ人間離れした荒業ですね。

それもおそらく神秘術の影響です。

身体能力を上げると同時に、他の感覚も強化しているのでしょう。

なるほど、これは機関銃でもなければ当たりませんね。


―――仕方ない。

別乃世さん、そっちのシートを開けて中のものを出して下さい。

え、機関銃あるの?
ああいえ、そんな物騒なものではありませんのでご心配なく。
・・・なんか、手投げ弾ぽいものが出てきたんだが。
・・・!
大丈夫、ただの催涙弾です。

ただ、良心的な業者さんのハンドメイドですので、乱暴には扱わないで下さい。


たまに暴発します。

見た目に反して滅茶苦茶だな、アンタ!
探偵なんて、皆こんなものです。
嘘つけ!
さぁ、別乃世さんと豊秩さん。

左右の窓からそれを投げて下さい。


ピンを抜いた状態で衝撃を与えることによって炸裂する仕組みですので、直接当てる必要はありません。


車の後ろに転がす感じでお願いします。

え、わたしもやるんですか!?
僕は、それで怯んだシスターを撃つ役目がありますので・・・


それとも役割を代わります?

もっと無理です!
どのみち、やらんとどうしようもない!

やるぞ!

爆弾じゃないですか、こわいですよ!


・・・あぁ、でも、仕方ない、分かりました、やりますよ!

貸して下さい!

爆弾じゃありません、催涙弾です。

では、掛け声をかけて一斉に。


―――窓を開けますよ。

よし!


3―――2―――1―――行け!

―――えいっ!



別乃世の合図と同時に、左右の窓から催涙弾が投げ放たれる。

それは地面に落ちると同時に激しく白煙を巻き上げた。


―――そして、それを見計らっていたかのように、一気に加速したシスターが白煙を突き抜けて車に急接近してくる。



――――――!
うぉ!?


ごっ!


車の後部、トランクにシスターの拳が突き立てられる。

これでもう、そう簡単には車からは離されない。


ふふ、やっと捕まえました。

そう来るのを待っていましたよ?

何だと!?

逃げる相手が攻撃に転じた時こそ、捕まえる最大のチャンス。

なるほど、理に適っている。


確実に捕らえるために、わざと力を抑えて並走していましたね?

はい。

―――では、車を止めて頂けますでしょうか?


このままですと、強引な手段で車を止めることになります。

そうなると、人間のお二方もただでは済まないでしょう。


・・・それでも宜しいので?

まぁ、そうもいきませんがね。



無造作に、螺理多が運転席奥に手を伸ばし、何かのスイッチを押す。



がこん


―――え?



そのスイッチがどういう仕組みでどう作用したのか。


車のトランク部分がきれいに分離し、拳を突き立てていたシスターもろとも地面に転がり落ちていった。



そんな―――


どっ!


不意をつかれながらも地面を転がり、何とか無事に着地したシスターの胸部に、間髪入れずに螺理多が放った銃弾が突き刺さる。



ぐっ―――!



その衝撃に、シスターの身体は大きく後ろに跳ね飛ばされた。



そうして今度こそ。

別乃世たちは、シスターを完全に振り切った。



やった!

つーか、なんだあの仕掛け!?

備えあれば憂いなし、というやつですね。
どんな状況を想定したらそうなるんだ・・・
常人には思いもよりません・・・

ともあれ、何とか無事に済みそうですね。

あとはこのまま逃げるだけ―――


ごぉぉぉぉぉん!


突如。

落雷でもあったかのような轟音とともに、眩い閃光が車の進行方向に現れた。


そして、その光の中から現れた者は―――



あれは―――



アーマがその正体を口にするよりも早く。



ざんっ―――!


「それ」が手に持った剣のひと薙ぎが、別乃世達の車の左側両車輪を両断した。



うぉぉぉぉぉぉ!?



片側の車輪を一度に失った車は当然バランスを崩し、アーマの掛けた急ブレーキによりスピンしながら停車した。



何だ今のは! ?
あ・・・あれは天使・・・!

―――我は天使。


神に逆らう有象無象の一切を許さず断罪する―――

天使だと・・・!?
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登場人物紹介

【主人公】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


現代社会への不満故に、軽トラに引かれることにより異世界に転生することを決意したポジティブ・ニート。


紆余曲折を経て異世界転生に失敗。

なんやかんやあってゾンビとなる。

【異界転生女神】

 アーマ・シュクレイム


時空神アナザを主神とする女神。

死に至る者の強い願いの力を使い、その者を異世界に転生させる。


別乃世・望の強い思いに呼応して降臨するが、思いの外即死に至らなかった別乃世が苦痛のあまり、異世界転生よりも傷を治して生き返りたいと思う願いを強めてしまい失敗。

機転を効かせてフォローに成功するも、その代償として神界に帰れなくなる。

アーマ・シュクレイム

(実体化)


食事によるエネルギー摂取のために霊体濃度を高め、実体化した姿。

服も霊体であるため、服装は自由自在である。


摂取した食料を消化・吸収・排出しきるまでは霊体には戻れない。

【操霊邪法悪魔】

 トリカラ・マイウー


別乃世・望を蘇生させるためアーマに呼び出された悪魔。

地獄の7大魔王サンダース・トゥモロウアース配下。

死霊を操る邪法を司る。


別乃世とアーマの要望を最大限に叶えるため、別乃世を「人肉を食らうことにより傷が癒えるゾンビ」にする。

トリカラ・マイウー

(実体化)


アーマのご飯を買いに行くために霊体濃度を高め、実体化した姿。

元が霊体であるため、角・羽根・尻尾・顔の傷などの悪魔的アクセントは出し入れ可能である。

【異端断罪天使】

 メンタイ・ハクマイナー


唯一神に仕える天使。


唯一神の縄張りである現世から魂を掠め取る異界転生、神の名を騙る邪女神、魂を弄ぶ糞悪魔、小汚いゾンビなど、神に逆らう有象無象の一切を許さず断罪する。

【エクソシスト】

 シスター・カッドロゥ


唯一神教徒。

メンタイ・ハクマイナーを守護天使とする悪魔祓い。

空手をベースとした体術と神秘術を組み合わせた戦法を得意とする。


街に増殖するゾンビの元を断つため派遣される。

【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・怜子(アワヅ・レイコ)


街ですれ違った別乃世に因縁をつけて、連れの男にボコらせた極悪女。


お腹のすいた別乃世にがぶりとやられてゾンビとなるが、ちょっと噛まれた程度であったため屍にはならず。

人肉を食らう欲求とゾンビ感染能力を受け継ぎレッツ・パーリィする。

【探偵】

 螺理多・極(ラリタ・キメル)


螺旋のごとく捻れ絡み合う、幾多の世の理を見極めることを信念としており、その信念はときに利益や倫理をも度外視する。


理屈さえ通れば神も悪魔も許容する柔軟な思考の持ち主。

【探偵事務所アルバイト】

 豊秩・満子(トヨチツ・ミチコ)


螺理多探偵事務所のアルバイト。

年の割に落ち着いており、色々な話題に即座に対応できる感性の持ち主。


螺理多にはちょっとした憧れを抱いている。

通称ちち子。

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