interlude 彷徨える仔羊と欲深き狼
文字数 1,309文字
朦朧とした意識の中、次第にシスターは正気を取り戻してきた。
―――敗れた。
今まで、幾多の悪魔崇拝者はおろか下級の悪魔すら葬ってきた、歴戦の悪魔祓いである自分が、負けた。
しかも相手は、今までの相手よりもはるかに格下と断じた邪神と悪魔崇拝者、それとただの人間二人である。
何故敗れたのか。
確かに、あの人間は強かった。
だが、現に自分は相手を圧倒していた。
そう、いつものように。
ならば、何故負けたのか。
油断があったのか?
驕りがあったのか?
だが、それを確かめる術はないし、その機会も、最早ない。
如何なる要因があったにせよ、自分に次の機会はない。
度重なる失態を、恐らく天使は許しはしないだろう。
ならば、あとは潔く己が魂を主の元に還すのみ―――
ぼんやりとしていた意識が覚醒する。
―――だが、身体が動かない。
それもそのはず、両手足に加えて頭部まで、何者かにがっちりと押さえ付けられている。
自分を押さえ込んでいる者たちの姿を認め、シスターは息を飲んだ。
それは、昨夜ホテルの最上階にいたゾンビたち。
窓から飛び降りた怜子を追い、戻ったときには姿を消していた、あの五体のゾンビたちだ。
怜子はシスターに覆い被さる形で語りかけてきた。
修道服は胸の下まで捲くり上げられており、腹部から脚部にかけて肌が露にされている。
―――そう。
昨夜助けを求めた天使メンタイ・ハクマイナーは、今、まさに悪魔と交戦中だ。
そうでなくとも、今の自分を助けに天使が現れるとは思えない。
―――食われる。
生きながらに臓腑を引きずり出され、貪り食われるのだ。
その恐怖は、もちろんある。
だが、真に恐ろしいのは、ゾンビに食われるということ。
それは、ゾンビとなるということ。
ゾンビになれば、この魂を、主の元に還すことすら叶わないということ。
主の元に還れず、魔物と化すということ。
―――それは悪魔祓いとして、最大限の屈辱であった。
シスターの絶叫が響き渡る。