interlude 彷徨える仔羊と欲深き狼

文字数 1,309文字

・・・・・・



何秒か、何十秒か、それとも数分経ったのか。


朦朧とした意識の中、次第にシスターは正気を取り戻してきた。



―――敗れた。


今まで、幾多の悪魔崇拝者はおろか下級の悪魔すら葬ってきた、歴戦の悪魔祓いである自分が、負けた。


しかも相手は、今までの相手よりもはるかに格下と断じた邪神と悪魔崇拝者、それとただの人間二人である。



何故敗れたのか。


確かに、あの人間は強かった。

だが、現に自分は相手を圧倒していた。

そう、いつものように。


ならば、何故負けたのか。


油断があったのか?

驕りがあったのか?


だが、それを確かめる術はないし、その機会も、最早ない。



如何なる要因があったにせよ、自分に次の機会はない。

度重なる失態を、恐らく天使は許しはしないだろう。


ならば、あとは潔く己が魂を主の元に還すのみ―――



な・・・に・・・?



ぼんやりとしていた意識が覚醒する。


―――だが、身体が動かない。


それもそのはず、両手足に加えて頭部まで、何者かにがっちりと押さえ付けられている。



く・・・



ぼやけていた視界が徐々にはっきりとしてくる。


自分を押さえ込んでいる者たちの姿を認め、シスターは息を飲んだ。



・・・・・・
あー・・・ 
う、ごい、た・・・
おきちゃ、だめ・・・
・・・・・・ 

! お前たちは・・・!



見覚えがある。

それは、昨夜ホテルの最上階にいたゾンビたち。


窓から飛び降りた怜子を追い、戻ったときには姿を消していた、あの五体のゾンビたちだ。



・・・あ、起きちゃった?



眼前に顔を出した怜子の存在に、今更ながら気付く。


怜子はシスターに覆い被さる形で語りかけてきた。

修道服は胸の下まで捲くり上げられており、腹部から脚部にかけて肌が露にされている。



何のつもりだ、貴様・・・!
だからぁ・・・

そこで欲しいのは「きゃ~」とか「いや~ん」なんだってば。

戯れ言を・・・!
や~、でもラッキーだったよね。


昨日ホテルから追い出されて、どうやって仕返ししようかと後をつけてたら、他の人がやっつけてくれるなんて♪



シスターの下腹部を優しく撫でながら、独り言のように語り続ける。 



ホントはきれいに食べてあげたいんだけど。

時間もないし、このコたちも昨日のアレコレでお腹空いてるみたいだし・・・


たまにはワイルドなお食事もいいよね♪

な・・・!

ま、待て・・・

みんなでいただきます♪


―――知ってるよ?

昨日の天使さんは忙しくて出てこれないんだよね?



―――そう。


昨夜助けを求めた天使メンタイ・ハクマイナーは、今、まさに悪魔と交戦中だ。

そうでなくとも、今の自分を助けに天使が現れるとは思えない。



―――や、やめなさい!



―――食われる。


生きながらに臓腑を引きずり出され、貪り食われるのだ。

その恐怖は、もちろんある。



だが、真に恐ろしいのは、ゾンビに食われるということ。


それは、ゾンビとなるということ。


ゾンビになれば、この魂を、主の元に還すことすら叶わないということ。


主の元に還れず、魔物と化すということ。



―――それは悪魔祓いとして、最大限の屈辱であった。



ああ・・・神よ・・・!

天使様――――――!



暗い倉庫の中・・・


シスターの絶叫が響き渡る。



~ interlude END( … came to a bad end )~
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登場人物紹介

【主人公】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


現代社会への不満故に、軽トラに引かれることにより異世界に転生することを決意したポジティブ・ニート。


紆余曲折を経て異世界転生に失敗。

なんやかんやあってゾンビとなる。

【異界転生女神】

 アーマ・シュクレイム


時空神アナザを主神とする女神。

死に至る者の強い願いの力を使い、その者を異世界に転生させる。


別乃世・望の強い思いに呼応して降臨するが、思いの外即死に至らなかった別乃世が苦痛のあまり、異世界転生よりも傷を治して生き返りたいと思う願いを強めてしまい失敗。

機転を効かせてフォローに成功するも、その代償として神界に帰れなくなる。

アーマ・シュクレイム

(実体化)


食事によるエネルギー摂取のために霊体濃度を高め、実体化した姿。

服も霊体であるため、服装は自由自在である。


摂取した食料を消化・吸収・排出しきるまでは霊体には戻れない。

【操霊邪法悪魔】

 トリカラ・マイウー


別乃世・望を蘇生させるためアーマに呼び出された悪魔。

地獄の7大魔王サンダース・トゥモロウアース配下。

死霊を操る邪法を司る。


別乃世とアーマの要望を最大限に叶えるため、別乃世を「人肉を食らうことにより傷が癒えるゾンビ」にする。

トリカラ・マイウー

(実体化)


アーマのご飯を買いに行くために霊体濃度を高め、実体化した姿。

元が霊体であるため、角・羽根・尻尾・顔の傷などの悪魔的アクセントは出し入れ可能である。

【異端断罪天使】

 メンタイ・ハクマイナー


唯一神に仕える天使。


唯一神の縄張りである現世から魂を掠め取る異界転生、神の名を騙る邪女神、魂を弄ぶ糞悪魔、小汚いゾンビなど、神に逆らう有象無象の一切を許さず断罪する。

【エクソシスト】

 シスター・カッドロゥ


唯一神教徒。

メンタイ・ハクマイナーを守護天使とする悪魔祓い。

空手をベースとした体術と神秘術を組み合わせた戦法を得意とする。


街に増殖するゾンビの元を断つため派遣される。

【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・怜子(アワヅ・レイコ)


街ですれ違った別乃世に因縁をつけて、連れの男にボコらせた極悪女。


お腹のすいた別乃世にがぶりとやられてゾンビとなるが、ちょっと噛まれた程度であったため屍にはならず。

人肉を食らう欲求とゾンビ感染能力を受け継ぎレッツ・パーリィする。

【探偵】

 螺理多・極(ラリタ・キメル)


螺旋のごとく捻れ絡み合う、幾多の世の理を見極めることを信念としており、その信念はときに利益や倫理をも度外視する。


理屈さえ通れば神も悪魔も許容する柔軟な思考の持ち主。

【探偵事務所アルバイト】

 豊秩・満子(トヨチツ・ミチコ)


螺理多探偵事務所のアルバイト。

年の割に落ち着いており、色々な話題に即座に対応できる感性の持ち主。


螺理多にはちょっとした憧れを抱いている。

通称ちち子。

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