考察3 事に至る道筋
文字数 2,046文字
押し入れから顔を出した別乃世が、開口一番爽やかな挨拶を交わす。
一晩押し入れに押し込まれていたゾンビのセリフとはとても思えんな。
おはようございます。
・・・すいません、私だけお布団を使わせて頂いて。
気にするなアーマ。
こいつには押し入れがお似合いだ。
あ、あの、本当にすみませんでした。
今日は私が押し入れに―――
ああ、それは構わんから気にするな、アーマ。
似合うかどうかは別として、居心地は決して悪くはなかったからな。
ほら、本人もそう言っている。
汗とかなんとかアホなこと抜かす変態には、暗くて狭いところがお似合いだ。
まぁそれはさておいてだ。
アーマ、飯は食べるか?
昨日買い物に出掛ける前に炊いておいたご飯を冷凍してあるが。
え、と・・・
どうしましょうか。
今食べてしまうと、吸収し終えるまで霊体化できませんが・・・
食えるときに食えるだけ食っておけアーマ。
この男が人肉を食わん以上、長丁場になりかねん。
まして、今はアタシのエネルギーもお前に依存しているからな。
お前には、アタシのエネルギーも合わせて摂ってもらわんとならん。
異世界転生する気満々だったからな。
乾燥ワカメすら残ってない。
昨夜の買い出しの時に買っておけばよかったな・・・
ワカメじゃない!
昨日は色々あって深く考えていなかったが・・・
貴様、何故転生する準備を色々している?
自殺する奴が遺書やら身辺整理やらするのは分かる。
だが貴様は昨日も今日も、はっきりと「転生するから」という理由を口にしている。
どういうことだ?
―――貴様、アーマが・・・女神が出ると知っていて、転生できると知っていてトラックに飛び込んだのか?
出ると知っていて、というか・・・
「女神が出てくるようにトラックに飛び込んだ」が正解だな。
・・・どうなんだアーマ。
お前たち「女神」が出やすい、というか確実に出る状況―――
本当にあるのか、そんなものが。
ええと・・・
基本的には「現世に不満をもった」人間の「死」を感知して、私たち女神は現世に現れ、干渉します。
そして「生と死の狭間」を用いて異世界への転生について説明し、その上で承知した方々の魂を異世界に導くことになっています。
・・・こいつの場合は?
どうだったアーマ・シュクレイム。
手順について、何か変わったことはなかったか?
そうなんですよね。
初めてお客様を掴まえたので、緊張のあまり舞い上がっていましたが・・・
そういえば別乃世さん、私が説明するまでもなく異世界転生のことも女神のことも知っていましたよね。
初めてだったのか。
それで、よりにもよってお前、こんなやつを・・・
―――いや、それはどうでもいい。
今はお前だ、別乃世・望。
初めから転生のことも方法も知っていた。
―――貴様、一体何者だ。
どこでそれを知った?
何者かと言われれば、ごく普通のありふれた自由人だが・・・
どこで知ったかといえば、ネットで見てだな。
―――なるほど、便利な時代になったものだ。
検索一つで何でも出てくる・・・
インターネットで検索してそんなものが出てくるか!
嘗めるのも大概にしろ!
昨日からの、その不自然なまでの余裕ぶった態度も気に食わん。
・・・貴様まさか、唯一神の回し者じゃあるまいな?
本当はゾンビ化なんぞいつでも抜け出せて、そのうえでアタシたちをおちょくってるんじゃあるまいな!?
昨日から気軽にぽんぽんぽんぽん蹴りおって・・・
検索してみたこともないのに決めつけるな、トリカラ・マイウー!
そんなに言うならやってやるわ!そのかわり、もしも出てきたら何でも言うこと聞いてもらうぞ、トリカラ・マイウー!
―――いいだろう。
まずあり得んが、もしもお前が言うようなものが出てきたならば、アタシが許諾し得る範囲でなら何でも言うことを聞いてやる!
悪魔がそう簡単に白紙の手形を切るものか。
契約というのはこうやるんだ、覚えておけ。
悪魔の契約に汚いもクソもあるか。
―――いいからさっさとやれ!
別乃世がパソコンを立ち上げてひとつのブックマークを開く。
そこにはあの、「異世界転生して戻ってきたけど質問ある?」というスレッドが示されていた。
―――そう。
的確に指示を出し、別乃世・望を異世界転生に導いた謎の人物。
それは確実に存在しているのである。
果たしてそれは何者なのか。
そしてその目的は?
女神と悪魔の知る者なのか、それとも神の罠なのか―――
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)