戦いの序章

文字数 2,330文字

シスターを絞め落としてすぐ。

別乃世たちは早々に倉庫から飛び出し、十分に離れた場所まで走ったところで一息ついた。





はぁ、はぁ・・・

もう、大丈夫、ですよね・・・!

・・・何とかなったな。
はい、うまくシスターの気を逸らして頂けました。

ありがとうございます、別乃世さん。

あんなので役に立てたかどうか、分からんがな。
いえいえ、お陰でシスターに大きな隙ができました。


それとアーマさん、女神様にあのようなことをさせてしまい、申し訳ありませんでした。

そんな!

私たちが巻き込んでしまったことですから、あれぐらいは当然です!

実際、あれがなければ勝てなかったでしょう。

本当に助かりました。


・・・そして、豊秩さん。

は、はいっ!
貴女には、何があっても決して出てこないように言ったはず・・・


何故出てきたのですか?

そ、それは・・・!
あのシスターにとって、どうやら貴女は数に入っていなかったようで、お陰で事なきを得ましたが・・・


相手に貴女を殺すつもりがあったなら、組み付いた次の瞬間に命はなかったことでしょう。


・・・分かっていますか?

で・・・でも!

あのままだったら螺理多さんが・・・

皆が死んじゃうと思って、それで・・・

確かに、あのままだと僕は殺され、続いて別乃世さん、もしかしたらアーマさんまで命を落としていたかもしれない。


・・・ですが、貴女だけが残ったなら、そのまま見逃してもらえた可能性はかなり高い。


それを敢えてふいにしようという行為は、雇い主としてはとても認められません。


・・・・・・
まぁまぁ。

元を正せば螺理多が黙って無茶やった挙げ句に捕まって、それの尻拭いでこうなったんだ。


双方、相手に黙って勝手に無茶したということで、今回のところはチャラでいいんじゃないか?

・・・確かに。

そうですね、昨日のことは申し訳ありませんでした。

豊秩さんを危険に晒さないようにとの考えでしたが・・・


豊秩さんを信頼して、全てお話しした上で行動するべきでした。

結果が、更に危険な命のやり取りの場に誘う形になってしまうとは・・・


上司を名乗る資格はありませんでしたね。

本当に、申し訳ありません。

いえ、そんな・・・

事前にそんな話をされてたら絶対に引き留めてましたし、それを見越して黙って行かれたんだと思います。


わたしの方こそ、螺理多さんを信頼して、信じて待つ―――


いえ、それよりも一緒に行っても心配ない、こっそり置いていかれないぐらい頼りになる存在になります!

うむ、では今回のことはこれで手打ちということで。

これ以上、何も言わないように。

そうですね、分かりました。
二人とも、もう無茶はするな?

螺理多は大人なんだから、豊秩を危険に晒さないようにしっかりと面倒を見ておけ。

はい、心得ます。

・・・さて、これからどうします?

もうここには用はないだろう。

シスターが目を覚ます前に、豊秩を連れて事務所に帰れ。

・・・別乃世さんは?
トリィがまだ、天使と戦ってるからな。

それを見届けに行く。

別乃世さんの言葉ではありませんが・・・

シスターが目覚める前に退散すべきでは?

まぁ、今の俺はトリィの魔力で生かされているようなものだからな。

あいつが死ねば、俺も死ぬ。

・・・ならば、近くで戦いを見届けようと思ってな。


何、天使さえ倒してしまえば、シスターも引かざるを得ないだろう。

仮に敵討ちと襲い掛かってきても、トリィがいれば大丈夫。

さすがに悪魔が弱った人間にやられることはないはずだ。

では、アーマさんは?
一緒に安全なところまで連れていってやってくれ、と言いたいところだが・・・

残るんだろ?

もちろんです!
僕としても、天使と悪魔の戦いには非常に興味があるので、できましたらご一緒したいのですが・・・
まぁそう言うだろうな。

―――その場合、豊秩はどうする?

ひとりで帰って頂く・・・というわけにはいかないでしょうね。

とは言え、一緒に残ってもらうというのは・・・

無茶しない、危険にさらさない、だったな。
―――まぁ、そうなりますよね。

実にいやらしい、いい布石だ。


・・・貴方、探偵に向いてると思いますよ?

そうか?

働く気はまったくなかったが・・・

お前のところでなら面白いかもな。

貴方との依頼契約もまだ途中ですしね。

今回の件に決着がついたら、是非お越しください。

お待ちしております。

ああ、よろしくたのむ。
わたしも、先輩として頑張りますので、ちゃんと帰ってきてくださいね!
お二人とも、本当にありがとうございました。

どうか、ご無事で。

はい、あなた方も。

伺いたいことは山ほどありますので、無事に戻ってください。


・・・あと、悪魔さんともお話しできるように、何卒お願いします。

ああ、任せておけ。
では・・・

行きましょう、豊秩さん。

はい・・・






―――行ったな。

さて、ああは言ったが・・・


いいのか、アーマ?

お前までわざわざ戦いを見届けに行く必要はないんだぞ?

―――もちろん。

わたしも、あなたと一蓮托生です。

―――そうか。

それに、心配することはありません。

別乃世さんはご存知ないでしょうが・・・


わたし、トリィがケンカで負けたところは一度も見たことがありませんから。

・・・だが、ある程度は覚悟しておけよ。

魔界にいるときのトリィなら、アーマの言うとおりなのかもしれないが・・・

分かっています。

今のトリィのエネルギー源は私の食事・・・


ですが、ここ最近は霊体化の必要もあり、食事の回数自体が減っています。

本来の戦い方ができる状態にはないでしょう。


それに対して天使の方は、思う存分力を振るうことができる。

それでも、心配はいらないと?

―――ええ。


トリィは、本当に・・・本当に、強いんですから。

きっと、誰にも負けません。

―――よし、ならば俺も信じよう。

さぁ、さっさとトリィの戦いの見える場所まで行こう!

はい!
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登場人物紹介

【主人公】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


現代社会への不満故に、軽トラに引かれることにより異世界に転生することを決意したポジティブ・ニート。


紆余曲折を経て異世界転生に失敗。

なんやかんやあってゾンビとなる。

【異界転生女神】

 アーマ・シュクレイム


時空神アナザを主神とする女神。

死に至る者の強い願いの力を使い、その者を異世界に転生させる。


別乃世・望の強い思いに呼応して降臨するが、思いの外即死に至らなかった別乃世が苦痛のあまり、異世界転生よりも傷を治して生き返りたいと思う願いを強めてしまい失敗。

機転を効かせてフォローに成功するも、その代償として神界に帰れなくなる。

アーマ・シュクレイム

(実体化)


食事によるエネルギー摂取のために霊体濃度を高め、実体化した姿。

服も霊体であるため、服装は自由自在である。


摂取した食料を消化・吸収・排出しきるまでは霊体には戻れない。

【操霊邪法悪魔】

 トリカラ・マイウー


別乃世・望を蘇生させるためアーマに呼び出された悪魔。

地獄の7大魔王サンダース・トゥモロウアース配下。

死霊を操る邪法を司る。


別乃世とアーマの要望を最大限に叶えるため、別乃世を「人肉を食らうことにより傷が癒えるゾンビ」にする。

トリカラ・マイウー

(実体化)


アーマのご飯を買いに行くために霊体濃度を高め、実体化した姿。

元が霊体であるため、角・羽根・尻尾・顔の傷などの悪魔的アクセントは出し入れ可能である。

【異端断罪天使】

 メンタイ・ハクマイナー


唯一神に仕える天使。


唯一神の縄張りである現世から魂を掠め取る異界転生、神の名を騙る邪女神、魂を弄ぶ糞悪魔、小汚いゾンビなど、神に逆らう有象無象の一切を許さず断罪する。

【エクソシスト】

 シスター・カッドロゥ


唯一神教徒。

メンタイ・ハクマイナーを守護天使とする悪魔祓い。

空手をベースとした体術と神秘術を組み合わせた戦法を得意とする。


街に増殖するゾンビの元を断つため派遣される。

【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・怜子(アワヅ・レイコ)


街ですれ違った別乃世に因縁をつけて、連れの男にボコらせた極悪女。


お腹のすいた別乃世にがぶりとやられてゾンビとなるが、ちょっと噛まれた程度であったため屍にはならず。

人肉を食らう欲求とゾンビ感染能力を受け継ぎレッツ・パーリィする。

【探偵】

 螺理多・極(ラリタ・キメル)


螺旋のごとく捻れ絡み合う、幾多の世の理を見極めることを信念としており、その信念はときに利益や倫理をも度外視する。


理屈さえ通れば神も悪魔も許容する柔軟な思考の持ち主。

【探偵事務所アルバイト】

 豊秩・満子(トヨチツ・ミチコ)


螺理多探偵事務所のアルバイト。

年の割に落ち着いており、色々な話題に即座に対応できる感性の持ち主。


螺理多にはちょっとした憧れを抱いている。

通称ちち子。

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