神の威光と悪魔の邪法

エピソード文字数 2,396文字

―――時は少し遡り、別乃世たちが逃げ出した後。





―――虎の威を借る仔狐めが!

―――さて?

魔王の威を借る悪魔がどれほどの子狐か・・・

試してみるがいい!

―――来たれよ!

天より降りし、神光の御柱!



先手を打ったのは、天使ハクマイナー。


剣の切っ先を向けて言葉を発した次の瞬間、トリィの頭上から流星の如き光弾が降り注ぐ。



―――おっと。

その程度の術、ぶっ放しでは当たらんぞ!



落ちくる光弾を危なげなく躱すトリィ。

そのまま天使との間合いを一気に詰める。



ふん―――!


剣を振り下ろし、それを真っ向から迎え撃つハクマイナー。

だが、トリィはそれをもひらりと躱し、手に持った錫杖でハクマイナーの胴を薙ぐ。


しかしそれは、天使が左手に持った大きな盾により阻まれる。



ち―――!



その盾の感触に、容易く打ち砕けるものではないと判断したトリィは、一旦間合いを大きく取る。



頑丈な盾で身を守りつつ、近づく相手は剣で追い払い、遠距離から相手がへたばるまで神秘術、か?


―――つまらん戦い方だ。

戦いにつまる、つまらないはないでしょう。

戦いとは、相手を打ち倒すためのもの。


特に邪悪なる悪魔を相手にする場合は、一切の油断なく、一部の隙も見せずに鏖殺せねばならない。


そこに、遊び心が入る余地などあるはずがありません。

―――まぁ、構わんさ。

キサマらの流儀など知ったことか。


戦いの楽しみ方、悪魔の流儀をアタシが今から見せてやる!



トリィが左手をかざすと、その手の中に禍々しい気配を放つ香炉が現れた。




遥か昔、唯一神に虐げられ、魔界に堕とされし土着の神の成れの果てよ!


魔と成ることもならず、滅びることもままならぬ、虚ろなる神々よ!


今再び、この地に足を踏み入れよ!

憎き仇を眼前に、今こそ其の恨みを晴らせ!



トリィの呪文に呼応し、香炉から溢れ出たのは無数の怨霊。


そのおぞましい光景を目の当たりにしながらも、しかしハクマイナーは軽く冷笑を浴びせる。

何かと思えば・・・


かつての大戦に敗れた悪魔の残滓、死霊の類か。

神にも悪魔にも成れない塵芥を集めて、一体何をしようと?

何をも何も、これが死霊術師の本懐だ。


―――そうやって、笑っていられるのも今のうちだぞ?

天使・・・


憎き〇〆£$◎◆の尖兵・・・


忌々しい・・・


返せ・・・


我等の栄光を返せ・・・!



地獄から呼び出された太古の死霊達が、ハクマイナーを敵と認識する。


無数の「ソレ」は口々に神への、そして天使への恨みを吐き出す。



さあ・・・行け!


どっ


溢れ出た、死霊の奔流がハクマイナーに襲い掛かる。

それは、瞬く間に彼女を覆い尽した。



くっ・・・!



盾を構えて奔流の直撃こそは免れたものの、縦横無尽に駆け巡る死霊の群れにまとわりつかれ、身動きがとれない。



どうした、さすがにこの物量は予想外か?

さっきの威勢が死んでいるぞ。

嘗めるな、この程度・・・!


―――浄化せよ!

ひ・・・!




ハクマイナーの声と共に、眩い光が放たれる。


その光を受け、死霊の群れは多少散っては見せたものの浄化されるには至らず、すぐにまた天使を覆い尽くした。



・・・!
曲りなりにも元は神魔の類だ。

そこらの人間霊ならいざ知らず、その程度の浄化術では焼け石に水だな。

鬱陶しい・・・!



当然のことながら、死霊には実体がない。


それゆえに物理的な被害はないが、触れられることにより神気を徐々に奪われている。

吸い尽くされることはまずあるまいが、このまま消耗が続けば後の戦いに影響が出る。



―――浄化せよ!



再び浄化の光が放たれる。



何度やってもムダ―――む?



光に怯み、死霊たちが一瞬身を引いた隙を縫い、ハクマイナーは空へと羽ばたいた。



堪らず宙に逃げたか。

だが―――



追って翼を羽ばたかせるトリィ。


ハクマイナーを追う死霊を、さらに追い越すスピードで天使に肉薄したトリィは、手にした錫杖に魔力を込めて突き上げる。



くぅ―――!
―――隙だらけだ!



体勢を崩していたハクマイナーは、その突きを盾で受けることができず、まともに腹部に受けてしまう。


いや―――



確かに―――


隙だらけだ!


ごっ!


受けられなかったのではない。


防御に使わなかった盾をトリィに押し付けて、ハクマイナーが急速前進する。

それも、尋常ではない速さで。



キ、サマ―――!



数十メートル直進したところで、今度は急停止する。

押された勢いで、トリィはさらに十メートルほど前方へ弾き出された。


振り切った死霊に至っては、はるか後方だ。



―――主よ!


全知全能なる我らが神よ!

邪悪なるものを退ける、汝の威光を知らしめん!


神に逆らう悪しき者よ!

その身を持って神の偉大さを知れ!

ち―――!

あれはマズいな。


―――戻れ、死霊共!



死霊の群れを引き離し、十分な詠唱時間を確保したハクマイナーが、術式を解き放つ。



―――光あれ!



ハクマイナーの身体から、眩い光が放たれる。


死霊たちは、トリィの命令も虚しく身を隠すこともできず、浄化の光に当てられ溶け去っていく。



・・・・・・!



さすがにトリィほどの悪魔を一撃で浄化するだけの力はないが、それでも身が焼かれる程度の痛みはあった。


さらに深刻なのは、肉体ではなく魔力そのものへの損害である。


強力な浄化の光に当てられ、悪魔の活力である魔力そのものを減衰させられてしまった。



く・・・!



ここが瘴気に満ちた魔界であれば、消耗した魔力も徐々には戻る。

だが、こちらの世界では別の方法で回復する必要がある。


それが、本来生け贄等であり、今のトリィにとっては契約者であるアーマの食事によるエネルギー補給である。


だが、それが十分な量に達していないことは感じ取っていた。



困ったヤツだ。

少し、アーマから目を離しすぎたかな?


まったく・・・

食事ぐらい面倒見ずとも勝手に摂れ。

―――おや、どうしました?

今度は、貴女の威勢が消えてしまいましたね。

ふん、ほざけ。

まだまだこれからだ―――!



死霊を消されて用無しとなった香炉を消し、錫杖を両手で握り締めて。


トリィは、ハクマイナーの懐に飛び込んだ―――



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登場人物紹介

【主人公】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


現代社会への不満故に、軽トラに引かれることにより異世界に転生することを決意したポジティブ・ニート。


紆余曲折を経て異世界転生に失敗。

なんやかんやあってゾンビとなる。

【異界転生女神】

 アーマ・シュクレイム


時空神アナザを主神とする女神。

死に至る者の強い願いの力を使い、その者を異世界に転生させる。


別乃世・望の強い思いに呼応して降臨するが、思いの外即死に至らなかった別乃世が苦痛のあまり、異世界転生よりも傷を治して生き返りたいと思う願いを強めてしまい失敗。

機転を効かせてフォローに成功するも、その代償として神界に帰れなくなる。

アーマ・シュクレイム

(実体化)


食事によるエネルギー摂取のために霊体濃度を高め、実体化した姿。

服も霊体であるため、服装は自由自在である。


摂取した食料を消化・吸収・排出しきるまでは霊体には戻れない。

【操霊邪法悪魔】

 トリカラ・マイウー


別乃世・望を蘇生させるためアーマに呼び出された悪魔。

地獄の7大魔王サンダース・トゥモロウアース配下。

死霊を操る邪法を司る。


別乃世とアーマの要望を最大限に叶えるため、別乃世を「人肉を食らうことにより傷が癒えるゾンビ」にする。

トリカラ・マイウー

(実体化)


アーマのご飯を買いに行くために霊体濃度を高め、実体化した姿。

元が霊体であるため、角・羽根・尻尾・顔の傷などの悪魔的アクセントは出し入れ可能である。

【異端断罪天使】

 メンタイ・ハクマイナー


唯一神に仕える天使。


唯一神の縄張りである現世から魂を掠め取る異界転生、神の名を騙る邪女神、魂を弄ぶ糞悪魔、小汚いゾンビなど、神に逆らう有象無象の一切を許さず断罪する。

【エクソシスト】

 シスター・カッドロゥ


唯一神教徒。

メンタイ・ハクマイナーを守護天使とする悪魔祓い。

空手をベースとした体術と神秘術を組み合わせた戦法を得意とする。


街に増殖するゾンビの元を断つため派遣される。

【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・怜子(アワヅ・レイコ)


街ですれ違った別乃世に因縁をつけて、連れの男にボコらせた極悪女。


お腹のすいた別乃世にがぶりとやられてゾンビとなるが、ちょっと噛まれた程度であったため屍にはならず。

人肉を食らう欲求とゾンビ感染能力を受け継ぎレッツ・パーリィする。

【探偵】

 螺理多・極(ラリタ・キメル)


螺旋のごとく捻れ絡み合う、幾多の世の理を見極めることを信念としており、その信念はときに利益や倫理をも度外視する。


理屈さえ通れば神も悪魔も許容する柔軟な思考の持ち主。

【探偵事務所アルバイト】

 豊秩・満子(トヨチツ・ミチコ)


螺理多探偵事務所のアルバイト。

年の割に落ち着いており、色々な話題に即座に対応できる感性の持ち主。


螺理多にはちょっとした憧れを抱いている。

通称ちち子。

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