探偵 ~螺理多・極~

文字数 2,778文字

13時過ぎ。

ビラ配りの少女に言われたとおり、別乃世たちは探偵事務所を訪れた。



御免下さい。
お邪魔します。
やぁいらっしゃい。


実は人探しをお願いしたくて・・・
ああ、はい。

アルバイトの豊秩さんからお話は伺っています。


何やら特殊な事情がおありだそうで?

特殊というか奇抜というか、空前絶後というか・・・
それは楽しみだ。

僕は、そう言った変わった話が大好きでしてね。


―――さぁ、どうぞ奥のテーブルへ。



探偵は、二人を事務所の奥へ招き入れ、コーヒーを差し出した。



さて、まずは自己紹介を。

僕はここの所長をしています、螺理多と申します。

別乃世・望と申します。
アーマ・シュクレイムです。

よろしくお願いいたします。

まぁ探偵事務所なんていっても、僕とアルバイトの二人でやっている小さな事務所でしてね。

気楽にして頂いて結構ですよ。

それは助かる。


―――では早速話をしたいところですが、その前に。

現実的な問題として、お金がいかほど掛かるものなのか教えていただきたい。

そうですね・・・


依頼に係る時間や経費による、としか言えないところはありますが・・・

少なくとも20~30万、多くて数百万となるケースもありますね。

20~30万なら何とかなるか・・・

でも、それ以上となると払える保証がないな。

まぁまずはお話を伺いましょう。


大丈夫、依頼を受理して契約書を締結するまでは料金は発生しません。


契約後についても、当初の契約以上の料金が掛かるようなら再度ご意向を伺いますし、諸経費についても見積もりを超えるようなら事前にご報告いたします。

分かりました。


では話をしたいのですが・・・

これがまた、どこからどこまで話したら良いものか・・・

なるほど。

ではまず、どういった方をお探しなのか教えていただけますか?

え、いきなりそこから!?
ええ、はい、まぁ?

むしろ、そこから入るのが普通かと。

まぁ、そうか・・・

事情を説明してからでないと誤解を招きかねんと思っていたが、致し方ない。


―――実は、汗や尿を提供していただける女性を探しておりまして。

・・・はい?
こ、別乃世さん、それはちょっと表現が直接的過ぎるのでは・・・
む、そうか?

ではもう少し控えめに、体液を提供していただける女性をご紹介願いたい。

それはそれで猟奇的なニュアンスが・・・
―――なるほど、分かりました。
え、分かったの?

はい。


キミはまだ若いから知らないだろうけど、世の中にはお金を払ってそういうことができるお店があるんだ。


―――それを紹介しよう。

えぇ!?

そ・・・そんなお店が・・・?

ああうん、アーマはちょっと待っててくれないか。


そういう特殊なお店があることはもちろん知っている。

探偵報酬を支払う分をそちらに回せば解決だというのも分かる。


だが、お店ではちょっと解決できない問題がありまして・・・

・・・まぁ伺いましょう。

どうぞ?

前例がないので確かではないのですが・・・

その筋の専門家が言うには10リットルは必要だと。

10リットル、なるほど。


・・・失礼ながら、もう一度お願いします。


―――何を?

汗、または尿。

―――いや、汗はともかく尿の効果は未確認・・・

さらにいえば、汗ではなく垢が必要である可能性も―――

・・・
・・・分かりました。

一旦話を整理しましょう。

お願いします。

検証1。


キミは初めに「汗と尿」と言ったが、次に「体液」と言い換えた。

そして最後には「汗や尿」ですらキミの欲求を満たせるものか分からないという。

うむ。
推論1。


キミが必要としているものは単純に人の体液であり、汗や尿以外の、例えば唾液などでも代替可能なのではないか。

あ・・・

そうです、元々必要だと言われたのは血液でした。

さらに正確に言うならば、血肉だな。

なるほど、血肉を貰うのは現実的ではない。

だから他の体液で妥協しようとした、と。

まぁ、概ねそんな感じで。
検証2。


キミは「専門家」から「具体的な量」を示されたと言っている。

ああいや、10リットルというのは仮定の話で。

正しくは「何リットル、何十リットル掛かるか分からない」と言っていたかな。

ふむ、では推論2。


キミが求めているものについては、キミ個人の趣味嗜好からくるものではなく明確な指示を出した人物がいる。


「血肉」というワードから、宗教や魔術の類いじゃないかな?

そう、魔術!
なるほど、魔術ですか。


人の血肉、体液を求める。

それでいて特定の誰かのものではない、と。


―――では結論。


キミは何か病気のようなものを患っていて、それは医者では治せない。

そこに現れた霊能力者か宗教関係者から「人の血肉を手に入れれば病気は治せる」と言われ、ここに相談に来た。


どうかな?

そう、それ!

ほぼ正解!

すごいですね、あんな説明でここまで伝わるなんて・・・
それは良かった。


では解決策ですが・・・

キミは何もしなくていい。


いや、キミが病気であって、藁にもすがりたいという気持ちは分かる。


だが、その霊能力者はただの詐欺師だ。

人の血肉で病が治るなんていう現実は・・・厳しいことを言うようだがありはしない。

ああ、うん。

やはり問題はそこだよな。

あんな馬鹿げた話を真面目に聞いて、しかも理解して下さった方なのですから、もう正直に全部話してしまっても良いのでは?

ん?

ああそうか、一つ忘れていた。


検証3。


キミは初めに「空前絶後」の事情といった。

・・・他にも何かあるのかな?

そうだな・・・

空前絶後に胡散臭い話でも、超絶理解力で何とかしてくれそうな気がしてきた。


・・・話してみるか。



別乃世は、自身が瀕死の重傷であること、悪魔の力により命を取り留めていること、完全に傷を癒すためには人間の血肉等が必要であることを包み隠さず説明した。



・・・さすがにそういった話は信じがたいですね。

ですが、キミたちが真剣そのものであることは伝わります。

―――ですので。


僕としてはキミたちが、その自称「悪魔」に騙されているものとして質問させてもらいます。


何か、今の話を客観的に信じられるような証拠はありますか?

証拠か・・・


例えば俺なんかは飲まず食わずで平気な状態ではあるが、それを証明するとなると一週間やそこらは掛かるしな・・・

例えば、その悪魔に直接会わせるとかは?

悪魔か・・・

その悪魔とは、ちょうど今朝から別行動中だし、説明しても協力してくれる気がまったくしない。

「くだらんことに付き合わせるな」と言って蹴られそう。

―――あ。

では悪魔ではなく、女神ではどうでしょう?


似通った者の存在が確認できれば、悪魔の存在も信じて頂けるのではないでしょうか?

女神とはまた、突拍子のないものが出てきましたね。

・・・そちらはすぐにお会いできる方なので?

そうですね、今日の18時頃には何とかなると思います。
・・・いいのか、アーマ?
はい、問題はないはずです。
これは思っていた以上に楽しいことになりそうですね。


―――では夕方にもう一度。

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登場人物紹介

【主人公】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


現代社会への不満故に、軽トラに引かれることにより異世界に転生することを決意したポジティブ・ニート。


紆余曲折を経て異世界転生に失敗。

なんやかんやあってゾンビとなる。

【異界転生女神】

 アーマ・シュクレイム


時空神アナザを主神とする女神。

死に至る者の強い願いの力を使い、その者を異世界に転生させる。


別乃世・望の強い思いに呼応して降臨するが、思いの外即死に至らなかった別乃世が苦痛のあまり、異世界転生よりも傷を治して生き返りたいと思う願いを強めてしまい失敗。

機転を効かせてフォローに成功するも、その代償として神界に帰れなくなる。

アーマ・シュクレイム

(実体化)


食事によるエネルギー摂取のために霊体濃度を高め、実体化した姿。

服も霊体であるため、服装は自由自在である。


摂取した食料を消化・吸収・排出しきるまでは霊体には戻れない。

【操霊邪法悪魔】

 トリカラ・マイウー


別乃世・望を蘇生させるためアーマに呼び出された悪魔。

地獄の7大魔王サンダース・トゥモロウアース配下。

死霊を操る邪法を司る。


別乃世とアーマの要望を最大限に叶えるため、別乃世を「人肉を食らうことにより傷が癒えるゾンビ」にする。

トリカラ・マイウー

(実体化)


アーマのご飯を買いに行くために霊体濃度を高め、実体化した姿。

元が霊体であるため、角・羽根・尻尾・顔の傷などの悪魔的アクセントは出し入れ可能である。

【異端断罪天使】

 メンタイ・ハクマイナー


唯一神に仕える天使。


唯一神の縄張りである現世から魂を掠め取る異界転生、神の名を騙る邪女神、魂を弄ぶ糞悪魔、小汚いゾンビなど、神に逆らう有象無象の一切を許さず断罪する。

【エクソシスト】

 シスター・カッドロゥ


唯一神教徒。

メンタイ・ハクマイナーを守護天使とする悪魔祓い。

空手をベースとした体術と神秘術を組み合わせた戦法を得意とする。


街に増殖するゾンビの元を断つため派遣される。

【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・怜子(アワヅ・レイコ)


街ですれ違った別乃世に因縁をつけて、連れの男にボコらせた極悪女。


お腹のすいた別乃世にがぶりとやられてゾンビとなるが、ちょっと噛まれた程度であったため屍にはならず。

人肉を食らう欲求とゾンビ感染能力を受け継ぎレッツ・パーリィする。

【探偵】

 螺理多・極(ラリタ・キメル)


螺旋のごとく捻れ絡み合う、幾多の世の理を見極めることを信念としており、その信念はときに利益や倫理をも度外視する。


理屈さえ通れば神も悪魔も許容する柔軟な思考の持ち主。

【探偵事務所アルバイト】

 豊秩・満子(トヨチツ・ミチコ)


螺理多探偵事務所のアルバイト。

年の割に落ち着いており、色々な話題に即座に対応できる感性の持ち主。


螺理多にはちょっとした憧れを抱いている。

通称ちち子。

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