神への導べ
文字数 2,711文字
辺りの景色が変わった。
地と空の区別もない、何もない、ただほんのりと薄明るい空間。
トリィですら、何が起こったのか理解できずに困惑している。
声はすれど姿は見えず。
だが、声の主は間違いなく先程まで対峙していた天使・ハクマイナーのものである。
私は、もう神の元へは戻れない。
だから存在自体を消し去ることとした。
―――だが、神の敵である貴様達も帰しはしない。
私と共に消え去ってもらう。
そう、ここは「私」でできたひとつの世界。
貴様らはここの住人となった。
だが、私の命はもうすぐ尽きる。
すなわちこの世界は滅び、貴様たちも共に果てるのだ。
他の・・・
ああ、あのゾンビどもか。
ここはあの天使の霊体で造られた世界だからな。
存在するアタシ達も、霊体のみの存在だ。
お前や別乃世、消え去ったゾンビ共は、肉体を「あちら」に残して、霊体だけがここに来ているはずだ。
・・・この気配。
そう、ずっと引っかかってはいましたが・・・
この正体の捉えきれない奇妙な魔力・・・
―――人間よ。
なんということだ。
貴様、そこの邪神の「力」を取り込んでいるな?
何か、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。
切羽詰まった状況ではあるはずだが、トリィはひとまず落ち着いて、冷静に考えることにした。
そこのアホがアーマの力を取り込んでいる?
そんなバカな、どうやって?
アタシはコイツと契約した。
だから分かる。
コイツは紛れもなくただの人間だ。
そんな、ただの人間が、どうやって女神の力を取り込むと言うんだ・・・
心当たりは、ある。
だが考えたくはない。
考えたくはないが―――
怒る!?
それどころの話じゃあない。
悪魔の術により女神の汗を取り込み、自らの臓腑を女神の汗で構築したコイツは何だ?
考えたくもないが・・・
半神半人、魔人の類じゃあないのか?
半神半人は神殺し。
―――天使どころか、唯一神自ら乗り出してくるぞ!
―――そんな必要はありません。
これは僥倖。
確かに半神半人は神への反逆。
ですが、我が主の御手を煩わせることもありません。
あなた方は、このまま私の中で消えてゆくのですから・・・
認めたくない。
本当に、これこそ本当に認めたくはないんだが・・・
唯一この場を乗り切れるのが、この変態だけだということが・・・
コイツを頼りにするということが、どれだけ苦渋の選択なのか・・・
貴様には分かるまい。
―――そうだ。
お前が決着をつけるんだ。
女神の汗により力を得、悪魔の魔力でその身に取り込んだものを吸収する。
さらに貴様は今、剥き出しの霊体だ。
舐める必要すらない。
全身で、この空間を占める「天使の霊体」を吸い尽くせ。
―――まて、やめさせろ!
女神を食った魔人に、さらに天使である私までも食わせようというのか!?
我が主が、全天使が黙ってはいないぞ・・・
我らと戦争を始めるつもりか!?
愚かな・・・
貴様ら、後悔するぞ―――
こうして、閉じた天使の「世界」は終わり―――
別乃世たちは、元いた世界へと戻った。