結論 人としてとるべき道は

文字数 2,546文字

―――戻ったぞ。



買い物に行くため実体化したトリカラ・マイウーが、アーマの食事を買って戻ってきた。



うむ、御苦労。
サンドイッチと鶏の唐揚げですね。

ありがとうございます。

さて、食べながらで構わんか?

話を始めるぞ。

あれ、トリィは食べないんですか?
食うとしばらく霊体化できんからな。

それより、そこのアホに変化はなかったのか?

そうですね。
これといって何も。
・・・となると、いよいよアホな仮説を検証する必要が出てきたな。
・・・汗か。
考えたくもない。


本当に貴様、あのときも、そしてそれ以降も血肉を食らってないのか?

汗だけだな。
・・・悪夢のようだ。
でも、これで人を襲わずに済むなら良かったんじゃないですか?
いや、だがどうなんだ?

汗だぞ?


人間から出る液体という意味では同じだが、所詮は老廃物だろう?

こいつの体組織を形成するに足るものなのか?

今回と同様とはいかなくても、似たようなケースはないのでしょうか?

アタシの知る限り、前例はない。

―――いや、まず前提として成り立たない。


前にも言ったが、ゾンビが人間の血肉を欲するのは食欲じゃない、本能だ。

それの本能を凌駕して汗を舐め回すなど、奇跡のレベルの変態だ。

そ、そこまでですか・・・

・・・だが、死霊術を扱う上司に確認すればあるいは―――


いや、やめておこう。

解剖されかねん。

解剖とは穏やかじゃないな。


お仕置きか何かか?

おっかないな、悪魔は。

解剖されるのはお前だがな。
なんで!?

めためたになった内臓を汗で補ったとか言われたら、中身がどうなってるのか俄然興味がわくだろう。


悪魔じゃなくても解剖したくなる。

やめて!
まぁ、曲がりなりにも契約者だからな。 

ホルマリン標本になられても困る。


このことは上には報告しないでおこう。

お願いします。
・・・しかし納得がいかん。

仮に汗にも血肉と同様の効果があるとしても、ほぼ丸一日経つんだぞ?


もう一度聞くが・・・本当に何ともないのか貴様?

残念ながら何も。
・・・・・・
トリィ?
・・・仮にこいつがあの時に血を舐めていたとしよう。

それでもとっくに食人衝動が振り返しているはずなんだ。


傷の回復量は摂取した血肉の量に比例する。

数滴の血を舐めた程度では焼け石に水だ。

すぐに次の衝動が来る。


―――なのにこいつはけろりとしている。


その結論は・・・考えたくない。

考えたくないが・・・

つまり・・・汗は血に勝る?
あり得んわ!


あり得んが・・・そう・・・なのか?


生命の象徴そのものであり、悪魔の活力の源として捧げ続けられてきた血液よりも、老廃物である汗の方が優れていると・・・?

ト、トリィ、しっかり・・・!
悪魔への捧げ物も血肉から汗に変更だな。
やめろ、気色悪い!
・・・・・・
大体、濃度からして違うだろうが!


結果だけ見ればそうかもしれんが、何か他の要因があるはずだ!

そう、汗が血肉を凌駕するなど、断じて有り得ん!

なるほど。


・・・ところでトリカラ・マイウー。

汗を舐めるという行為について、どう思う?

気色悪い。
まぁまて。

舐めるという行為について、俺も冷静になって考えてみたんだが・・・

あ?
皮膚の上をべろんべろんするのだから、垢も一緒に取り込んでいるものとは考えられないだろうか?
なお気色悪いわ!
あ・・・垢・・・
垢といえば、広い意味で言えば肉体の一部。


ならば、汗を舐めるということは「肉と体液を同時に摂取している」と言えるのではないだろうか。


―――どう思う、トリカラ・マイウー?

死ね!
ぐはぁ!
別乃世さん!
今までで一番重い蹴りを・・・
実体化しているからな。
もう!

いくらなんでもやり過ぎですよトリィ!

―――いや、もういいんじゃないかアーマ。
え?
アタシはもういい。

ヘタをすると、悪魔の歴史が覆るかもしれん。


悪い意味で。

ト、トリィ?
契約破棄のペナルティなど知ったことか。


術を無理矢理解いて、ミンチになったこいつを犬にでも食わせて無かったことにしようじゃないか。


それで万事解決だ。

え、途中で辞めたらミンチになるの俺!?
なに、心配するな。

アタシもキツイ罰を受ける。


だがそれで悪魔族全体の威厳を保てるのならばいいだろう。


―――なぁ別乃世・望。


俺にとってのいいとこはどこ!?

お、落ち着いてくださいトリィ!


逆に、良い様に考えましょう!


早く別乃世さんを人間に戻してしまって、その過程については忘れてしまいましょう!

それならトリィも私も罰を受けませんし、別乃世さんも大喜び。


みんな幸せになりますよ?

人間に戻す、か。

なるほどいいだろう、では冷静に考えてみよう。


前例がないからどれだけ必要か分からんが、仮に汗が10リットル必要だとしよう。

さて・・・


どうやって集めるつもりだ貴様ら。

あ・・・

それは・・・

なるほど。

ではこれから手分けして、俺に身体を舐め回させてくれる女の子を探しに行くわけだな。

おらんわ、そんなド変態!
ど、どへんたい・・・
ではどうしろと言うんだトリカラ・マイウー!
ホモサウナにでも行ってこい!


なぁに、一週間も通いつめれば必要量集まるさ。

・・・ほもさうなって何でしょう?
男が大好きな男が集まるサウナだ。

汗も出るし垢も出るし、なんやかんやで汁も出る。

いくら舐めても大歓迎と、いいことづくめだ!

・・・・・・!
断固拒否する!
なんだ、認めてしまえば簡単なことだったな。

さっさとこいつをホモサウナに放り込もう。

それで全て解決だ。

やめて!

ト、トリィ!

それは最終手段として、もう少し穏便な方法を探しましょう!


別乃世さんがあまりにも憐れです・・・!

―――じゃあどうする?

アタシは初めから人間の血肉を食らえと言っている。


それを血肉は嫌だ、ホモサウナは嫌だと、好き勝手―――


それならば何か代案を出してみろ!

あ、いえ、それはちょっとすぐには・・・
ないだろう?

じゃあホモサウナだ!

―――待て、閃いた!
・・・なんだ、言ってみろ。

尿ならどうだ!

これならリットル単位もあっという間に・・・

だから!


貴様に!


尿を飲ませる変態がどこにいる!


だから!

痛い!

蹴るな!

・・・にょ・・・にょう・・・?



人は食わぬと心に誓った別乃世・望。

だがそれに代わる手段を見つけぬことには、いずれその身は朽ち果てることとなる。


悪魔の知恵も及ばぬそれは、汗か、尿か―――

それとも、それ以外の「何か」があるのか・・・


別乃世・望に残された時間は果たして―――

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登場人物紹介

【主人公】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


現代社会への不満故に、軽トラに引かれることにより異世界に転生することを決意したポジティブ・ニート。


紆余曲折を経て異世界転生に失敗。

なんやかんやあってゾンビとなる。

【異界転生女神】

 アーマ・シュクレイム


時空神アナザを主神とする女神。

死に至る者の強い願いの力を使い、その者を異世界に転生させる。


別乃世・望の強い思いに呼応して降臨するが、思いの外即死に至らなかった別乃世が苦痛のあまり、異世界転生よりも傷を治して生き返りたいと思う願いを強めてしまい失敗。

機転を効かせてフォローに成功するも、その代償として神界に帰れなくなる。

アーマ・シュクレイム

(実体化)


食事によるエネルギー摂取のために霊体濃度を高め、実体化した姿。

服も霊体であるため、服装は自由自在である。


摂取した食料を消化・吸収・排出しきるまでは霊体には戻れない。

【操霊邪法悪魔】

 トリカラ・マイウー


別乃世・望を蘇生させるためアーマに呼び出された悪魔。

地獄の7大魔王サンダース・トゥモロウアース配下。

死霊を操る邪法を司る。


別乃世とアーマの要望を最大限に叶えるため、別乃世を「人肉を食らうことにより傷が癒えるゾンビ」にする。

トリカラ・マイウー

(実体化)


アーマのご飯を買いに行くために霊体濃度を高め、実体化した姿。

元が霊体であるため、角・羽根・尻尾・顔の傷などの悪魔的アクセントは出し入れ可能である。

【異端断罪天使】

 メンタイ・ハクマイナー


唯一神に仕える天使。


唯一神の縄張りである現世から魂を掠め取る異界転生、神の名を騙る邪女神、魂を弄ぶ糞悪魔、小汚いゾンビなど、神に逆らう有象無象の一切を許さず断罪する。

【エクソシスト】

 シスター・カッドロゥ


唯一神教徒。

メンタイ・ハクマイナーを守護天使とする悪魔祓い。

空手をベースとした体術と神秘術を組み合わせた戦法を得意とする。


街に増殖するゾンビの元を断つため派遣される。

【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・怜子(アワヅ・レイコ)


街ですれ違った別乃世に因縁をつけて、連れの男にボコらせた極悪女。


お腹のすいた別乃世にがぶりとやられてゾンビとなるが、ちょっと噛まれた程度であったため屍にはならず。

人肉を食らう欲求とゾンビ感染能力を受け継ぎレッツ・パーリィする。

【探偵】

 螺理多・極(ラリタ・キメル)


螺旋のごとく捻れ絡み合う、幾多の世の理を見極めることを信念としており、その信念はときに利益や倫理をも度外視する。


理屈さえ通れば神も悪魔も許容する柔軟な思考の持ち主。

【探偵事務所アルバイト】

 豊秩・満子(トヨチツ・ミチコ)


螺理多探偵事務所のアルバイト。

年の割に落ち着いており、色々な話題に即座に対応できる感性の持ち主。


螺理多にはちょっとした憧れを抱いている。

通称ちち子。

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